ジヒドロテストステロンとはなに?簡単にわかりやすく解説してみた

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

本記事では、一般的に「悪い男性ホルモン」と呼ばれている「ジヒドロテストステロン(DHT:dihydroteststerone)」について、ジヒドロテストステロンとはいったいなんなのか、わかりやすく解説しています。

ジヒドロテストステロンとは

 テストステロンは標的臓器で5α-還元酵素によってジヒドロテストステロン(DHT)に変換され,テストステロンに比較し強力な男性化作用をもつ.

引用:七尾道子他,臨床総論:製剤の種類と特徴,アンドロゲン製剤

 

テストステロンの最も重要な代謝産物はDHTである.というのも,前立腺,外性器および皮膚のある領域など,多くの組織においてはDHTがそのホルモンの活性型であるからである.成人男子のDHTの血漿濃度はテストステロンの約10分の1で,テストステロンが1日あたり約5mg産生されるのに対して,DHTの産生量は400μg程度である.DHTが精巣から分泌される量は約50~100μgである.それ以外は末梢組織でのNADPH依存性の5α-レダクターゼ 5α-reductaseによる触媒反応によってテストステロンからつくられる(図41-6).

引用:イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,p567

ジヒドロテストステロンとは、男性ホルモンの一種です。

ご存知のとおり、男性ホルモンの中で最も有名で、かつ重要な男性ホルモンは「テストステロン」です。

ジヒドロテストステロンは、このテストステロンの代謝産物として、体内で主に生成されています。

なお、体内でのジヒドロテストステロンは、細胞内において「5α還元酵素(5αリダクターゼ)」によってテストステロンからつくられています。

男性ホルモンは一種類ではなく、テストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、アンドロステロン、アンドロステンジオン、エピアンドロステロンなどがあり、男性ホルモンとはこれらの総称のことです。「男性ホルモン=テストステロン」だと思っている人もいたかもしれませんが、このように男性ホルモンにはいくつか種類があります。

ジヒドロテストステロンの合成

 テストステロンは血流を介してアンドロゲン標的細胞内に取り込まれ,一部は細胞質に存在するアンドロゲン受容体と結合し,テストステロン-アンドロゲン受容体複合体を作る。体内のテストステロンはおよそ6~8%は細胞内において5α還元酵素によりDHTに代謝され,DHTはアンドロゲン受容体と結合しDHT-アンドロゲン受容体複合体を作る。

引用:前田高宏他,テストステロンと5α還元酵素,臨泌66巻7 号(495-502)2012年6月 

 

テストステロンの一部は標的細胞で5α還元酵素によりデヒドロテストステロン(dihydroteststerone:DHT)に代謝され,ARと結合し複合体を形成,核内輸送され標的遺伝子の発現を活性化する転写因子として機能する(図1)。DHTのARに対する親和力・生理活性は強く,テストステロンのおよそ10倍である1)2)

引用:小坂威雄他 , 7. 5α還元酵素阻害剤と前立腺癌のリスク, 臨泌68 巻4号2014 年増刊

  • テストステロン+5α還元酵素 → ジヒドロテストステロン(DHT)

ジヒドロテストステロン(DHTは、体内では基本的にテストステロンから合成されています。

標的臓器に取り込まれたテストステロンは、標的細胞内で5α還元酵素によって、より作用の強いジヒドロテストステロン(DHT)に代謝されます。

このジヒドロテストステロンはアンドロゲン受容体(AR)と高親和性に結合し複合体を形成します。複合体を形成すると、細胞の核内に移動して核内の遺伝子の特定領域と結合し、アンドロゲン応答性遺伝子の活性化を促し、独自のタンパクが合成されます。

ジヒドロテストステロンの作用機序

ジヒドロテストステロンの作用機序

 リガンドであるテストステロンおよびDHTと結合したアンドロゲン受容体は活性型となり細胞質から核内へと輸送され,標的遺伝子の発現を活性化する転写因子として機能する(図1)。DHTのアンドロゲン受容体に対する親和力は,テストステロンの2~5倍の強さとされ,生理活性はテストステロンのおよそ10倍であるとされる2)

引用:前田高宏他,テストステロンと5α還元酵素,臨泌66巻7 号(495-502)2012年6月 

血液中を流れるテストステロンは、標的の細胞内の中へと入っていき、そこで「5α還元酵素」によってジヒドロテストステロン(DHT)に代謝されます。

このジヒドロテストステロン(DHT)はアンドロゲン受容体(AR:androgen receptor)と結合して複合体を形成した後、細胞の核内に移動して、標的遺伝子のプロモーター領域にあるアンドロゲン応答配列(ARE:androgen response element)と結合し、標的遺伝子(例えばPSAなど)の転写を促進します。

ホルモンとは、生体の外部や内部に起こった情報に対応し、体内において特定の器官で合成・分泌され、血液など体液を通して体内を循環し、別の決まった細胞でその効果を発揮する生理活性物質のことです。

ジヒドロテストステロンの効果

ジヒドロテストステロンの標的臓器

  • 精巣上体
  • 静管
  • 精嚢
  • 前立腺
  • 陰茎
  • 毛嚢腺
  • 皮脂腺

参考:堀江重郎,男性の更年期障害,保健師ジャーナル Vol.60 No.6 2004-6

ジヒドロテストステロン(DHT)が作用する臓器は上記のとおり、前立腺、性器、毛根、皮脂腺に働きます。

体感的には、オナニーを分泌されるとジヒドロテストステロン(DHT)が多くつくられ、その結果、顔や髪が脂ギッシュになったり、脇が臭くなったり、仕事や勉強のモチベーションが下がったり、自身がなくなったりということを経験しますが、個人の経験談をつらつらと書き連ねても、客観性がないので、ここではもう少し学術的に、ジヒドロテストステロン(DHT)にはどういった効果があるのかをまとめたいと思います。

ジヒドロテストステロンの5つの効果

ジヒドロテストステロンによる効果

  1. AGA(男性型脱毛症)
  2. ニキビ
  3. 前立腺肥大
  4. 精力減退
  5. 外性器の発達(胎児期)

ジヒドロテストステロン(DHT)は実際に上記の効果が起こるとわかっています。

その他のジヒドロテストステロン(DHT)の効果として、体臭がきつくなる、頭の回転が悪くなる、疲れやすくなるなどが一般的にいわれています。

ジヒドロテストステロンはAGA(男性型脱毛症)の原因となる

これは有名なはなしですね。

AGA(男性型脱毛症)の病態は、頭皮のつけ根(毛乳頭細胞)にある5α還元酵素によって、精巣でつくられたテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に代謝されることで起こります。

このジヒドロテストステロン(DHT)は、毛の周期の司令塔である毛乳頭細胞内のアンドロゲン受容体(AR)と結合し、遺伝子発現を促進しています。その結果、ある種のタンパク質を分泌し、育毛のサイクルを短くしています。

このため「男性ホルモンがハゲの原因」という風に一般に知られています。

しかし、ハゲ(AGA)の本当の原因は、男性ホルモンの中の「ジヒドロテストステロン(DHT)」であり、一般的にもっとも有名な男性ホルモンであるテストステロンではありません。

テストステロンは、男性にとって性欲を強めたり、筋肉の成長を促進したり、仕事や勉強への意欲を増したりと、男性にとって非常に大切なホルモンです。このテストステロンを減らしてしまうと、男性としての魅力が半減してしまいます。

ハゲ(AGA)で問題なのはジヒドロテストステロン(DHT)です。

したがって、諸悪の根源はテストステロンをジヒドロテストステロン(DHT)に変換してしまう「5α還元酵素」が、ハゲ(AGA)の本当の原因ということになります。

例えば、お酒は肝臓にある酵素で分解されますが、その酵素の力が遺伝的に人によって違うため、人により「体質的にお酒が飲めない人」がいると言われています。

遺伝的な酵素の有無で、お酒の飲めない人がいるように、毛乳頭にある5α還元酵素が人によって違うために、毛乳頭で産生するジヒドロテストステロン(DHT)が人によって違ってきます。

ジヒドロテストステロンはニキビの原因となる

ジヒドロテストステロン(DHT)が過剰になると皮脂の分泌が過剰となるといわれています(残念ながらこれに関しては学術的な文献を見つけることができませんでした)

たしかに、一般的にオナニーをするとジヒドロテストステロン(DHT)がたくさんつくられるという風にいわれていますが、実際にオナニーをすると顔が脂ギッシュになったり、髪がベトベトになったりします。

毛穴の皮脂の分泌が多くなると、毛穴が詰まりやすくなりますので、ニキビの原因となります。

毛穴には皮脂腺がありますが、ここから皮脂が分泌されることで、毛や肌の潤いを保っています。

ジヒドロテストステロンは外性器の発達を促す

ジヒドロテストステロン(DHT)は、胎児期においては外性器の発達を促す大切な役割があります。

ジヒドロテストステロンを減らす方法

ジヒドロテストステロンは、体内では基本的にテストステロンから合成されています。

テストステロンは、細胞内で5α還元酵素の作用によりジヒドロテストステロン(DHT)という別の男性ホルモンへと変わってしまいます。

ジヒドロテストステロン(DHT)を減らす方法は、医学的に認められている薬がありまして、5α還元酵素阻害剤という種類の薬を内服することで、ジヒドロテストステロン(DHT)の産生を抑制することができます。

なお、5α還元酵素阻害剤の添付文書には、副作用として勃起不全(4.3%)、リビドー減退(3.9%)など、性機能の低下が挙げられていますが、原理的にはジヒドロテストステロン(DHT)の産生のみを抑制する薬ですので、性欲を高める作用のあるテストステロンを低下させることはありません。

実際、5α還元酵素阻害剤によって、血中のテストステロン濃度が上昇することが報告されています1)

また、LOH症候群の患者さんに対するテストステロン補充療法のときに、テストステロンを単独投与するよりも、5α還元酵素との併用療法をおこなうと、ジヒドロテストステロン(DHT)の増加なく、テストステロンの持続的な上昇を認める可能性が考えられています2)

まとめ:ジヒドロテストステロンとは?

ジヒドロテストステロンとは、テストステロンが5α還元酵素によってつくられる男性ホルモンの一種です。

一般的には、ジヒドロテストステロン(DHT)は強力な男性化作用のある男性ホルモンという風にいわれていますが、その効果は下記のとおりで、あまりメリットのあるものではないように思います。

ジヒドロテストステロン(DHT)による効果

  1. AGA(男性型脱毛症)
  2. ニキビ
  3. 前立腺肥大
  4. 精力減退
  5. 外性器の発達(胎児期)

わたくし個人的には、種々のデメリットから、このジヒドロテストステロン(DHT)は減らした方がいいと考えていますが、少なくともAGA(男性型脱毛症)の予防や改善をするためにはジヒドロテストステロンの分泌を抑えた方がいいのは間違いありません。

現在は、国内では医師の処方が必要ですが、プロペシアやザガーロといった5α還元酵素阻害薬がかなり有効性が高い薬として保証されていますので、ジヒドロテストステロンによるデメリットが気になるなら、薬を飲んでおいてもよいかもしれません。

 

というわけで、今回はジヒドロテストステロンとはいったいなんなのか、どういった効果があるのかをわかりやすくまとめてみました。少しでも参考になれば幸いです。

 

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