小児・新生児に対する単純血漿交換(Therapeutic Plasma Exchange: TPE)は、成人と同じ“病的因子を含む血漿を除去し、置換液で補う治療”でありながら、体外循環量の影響・低体温・凝固能の変動・クエン酸負荷など、小児特有の注意点が多い手技です。
本記事では、新人の看護師・臨床工学技士が明日から運用できる実務目線で、適応の全体像/処方(処理量・頻度・時間)/血流量と分離%/置換液(アルブミンとFFPの使い分け)/アクセス/抗凝固/Ca補正を、主要なガイドライン・総説に沿って整理します。
目次
新生児・小児に対する血漿交換(定義と適応の全体像)
定義
単純血漿交換(TPE)は、血液を血球と血漿に分離し、病的因子を含む血漿を除去して、アルブミンやFFP等で置換する体外循環治療です。
米国アフェレシス学会は各疾患ごとの推奨度(Category/Grade)を整理しており、小児も成人と同様に事例ごとに適応が判断されます。
参考:Therapeutic Apheresisのガイドライン(2023),米国アフェレシス学会
小児で想定される主な適応例
自己抗体関連疾患、TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)、難治性川崎病、移植医療(抗体関連拒絶、ABO不適合)、重症肝不全・劇症肝炎などです。
新生児・小児に対する単純血漿交換治療条件
単純血漿交換の治療条件
処理量(置換量)の目安は1.0~1.5PVです。IgG除去目的であれば1~1.2PVで十分です。
急性肝不全などは100~150mL/kgの処理量と、やや多めが推奨されています。
参考:当院の小児人工肝補助療法導入プロトコールにおける置換血漿量の検討,日本急性血液浄化学会雑誌
頻度・回数
多くの自己抗体疾患:隔日〜毎日で4–6回(臨床反応や抗体価で調整)で実施します。
移植後抗体関連拒絶反応では1–1.5 PVを毎日または隔日で計5–6回が一例です。
血流量・分離率・時間(膜型単純血漿交換)
血流量は1~5mL/kg/minです。
あまりに遅い血液流量では、回路凝固のリスクが高まるため、なるべく多くの血液流量を確保します。
参考:体外循環による新生児急性血液浄化療法ガイドライン,日本未熟児新生児学会雑誌,2013
血漿分離率:16–20%、施行時間:2.5–4時間が目安です。
参考:市中病院における小児急性血液浄化療法,日本急性血液浄化学会雑誌 2012
置換液の選択(AlbとFFPの使い分け)
置換液は5%Alb(患者のAlb値をみて置換液のAlb濃度は調整必要)が基本です。利点と欠点は下記のとおりです。
- 利点:感染リスク低・血行動態の安定
- 欠点:凝固因子が低下する。
ADAMTS13補充が必要なTTP(血栓性血小板減少性紫斑病)、著明な凝固障害、凝固因子の補充が必要な急性肝不全/劇症肝炎ではFFP置換を選択します。
ABO不適合肝移植前の脱感作では、基本はアルブミンを置換液として選択しますが、凝固障害がある/侵襲的処置前後ではFFPも置換液として考慮します。
ブラッドアクセスについて
体重(kg) | サイズ(Fr) |
2~10 | 6~8 |
10~20 | 8 |
20~40 | 10 |
40~ | 12 |
参考:小児のCKD/AKI実践マニュアル
小児の体格ごとのカテーテルの選択基準は上記のとおりです。
小児においても、安定した血液流量を確保しやすいのは、成人と同様に右内頸静脈です。
体重(kg) | カテーテルサイズ(Fr) |
~1kg | 4 |
1~3kg | 5.5Fr |
3~5kg | 6Fr |
5~9 | 7Fr |
10~19 | 8Fr |
参考:小児AKIと集中治療
1kg前後の新生児では、4Fr程度のカテーテルを使用します。
抗凝固薬について
膜型の単純血漿交換では未分画ヘパリン、またはメシル酸ナファモスタットを使用します。
出血リスクが高い場合にはメシル酸ナファモスタットを選択し、投与速度は0.5~1.0mg/kg/hとします。
特に低体重児では出血のリスクが高いため、第一選択としてメシル酸ナファモスタットが主に使用されています。
Ca補正について
FFPにはクエン酸が含まれており、低カルシウム血症が起こります。したがって、単純血漿交換(FFP置換)の場合には、カルチコールなどのカルシウム製剤を使用して、Caの補正が必要です。
上記Chuangらの総説では「小児の単純血漿交換施行時のCa持続投与は0.093 mEq/kg/hを推奨」としております。
参考:Therapeutic plasma exchange in Pediatrics: An overview from the Pediatric nephrologists’ perspective
単純血漿交換(FFP置換)におけるCaの持続投与は、0.093 mEq/kg/hを目安に、iCaを30~60分ごとに測定し、症状と併せて増減させます。
なお、カルチコール®8.5%のCa持続投与の早見表は下記のとおりです。
まとめ
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処理量の基本:多くの適応で1.0–1.5 PV/回を目安(IgG除去目的は軽め、凝固因子補充が必要な病態では増量)。
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運転条件の目安:膜型TPEでは血流量(例)3–6 mL/kg/分、分離16–20%、施行2.5–4時間で1–1.5 PVに到達する設計が扱いやすい。
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置換液の使い分け:基本は5%アルブミン。TTP・重度の凝固障害・急性肝不全など凝固因子補充が必要な場面ではFFP置換(あるいは併用)を選択。
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アクセス:安定した流量確保を最優先。右内頸静脈のダブルルーメンカテーテルが第一選択になりやすい。体重帯に応じたFrサイズを選択。
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抗凝固:膜型TPEでは未分画ヘパリン、またはメシル酸ナファモスタット(出血リスク高い症例)。
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Ca補正(FFP時):FFPのクエン酸負荷を念頭に、Ca持続0.093 mEq/kg/時から開始し、iCaを30–60分ごとに確認して増減。
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