腎移植とDSA陽性|理解できる脱感作(IVIG/DFPP/RTX)の実際

この記事のゴール
  • 「腎移植とDSA(ドナー特異的抗体)」の関係を、定義→病態→臨床の順で理解できます。
  • 「DSA陽性とは何か」を、検査名の羅列に頼らず言語化できます。
  • 脱感作(PE/DFPP+IVIG±RTX)を、初心者向けに把握できます。

目次

腎移植とDSA(ドナー特異的抗体)の関係

DSA(ドナー特異的抗体)陽性の腎移植は、術後の拒絶反応のリスクが高く、術前に脱感作療法を行う必要があります。

DSAはおもに輸血・妊娠・過去の移植によりHLAに感作されて産生されます。輸血による感作率は10%で、一次移植と同時に輸血を受けるとその割合は80%であり、より多くのHLA抗原に曝露されるほどより高い確率で感作されます。
DSAがレシピエントの血液中に存在すると、移植腎のドナーHLA抗原と反応し、抗体関連型拒絶反応(AMR:antibody mediated rejection)が発生します。

腎移植の成否を左右する免疫学的要因

腎移植では、レシピエントの免疫がドナー腎のHLAを「非自己」と認識するかが重要です。

レシピエント血清にドナー特異的抗体(DSA)が存在すると、移植腎の血管内皮に抗原抗体反応が生じ、抗体関連型拒絶反応(ABMR)の危険性が高まります。

ABMRは移植腎機能の低下や移植腎喪失に結びつくため、腎移植におけるDSAの評価は臨床上きわめて重要です。

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なぜ腎移植でDSAが問題なのか(内皮結合→補体→微小血管障害)

DSAは移植腎の血管内皮に発現するHLAに結合し、補体の古典経路を活性化します。
その結果、C4d沈着微小血管炎(g/ptc)が生じ、血流障害と慢性炎症が持続します。急性期の変化だけでなく、遠隔期には糸球体係蹄の二重化や間質線維化などの慢性所見へ移行し、長期予後に影響します。

抗体関連型拒絶(AMR/ABMR)は、C4d陰性DSA陰性であっても、微小血管炎(g/ptc)などの所見と臨床背景を総合して評価します。すなわち、病理・血清学・臨床の三位一体の総合診断が前提です。

preformed と de novo(時期と臨床像の違い)

preformed DSAは移植前から存在し、術後早期のABMRと関連します。

de novo DSAは移植後に新規出現し、症状に乏しくてもsmoldering(くすぶる)経過で組織障害を進め、長期的な機能低下と関連します。とくにClass II(とくにDQ-DSA)には注意が必要と報告されています。

de novo DSA(dnDSA)を生じやすい要因:

  • Class II(とくにDQ)のHLA不一致(ミスマッチ)
  • 免疫抑制の不足・アドヒアランス不良(濃度アンダー、服薬中断 など)
  • 移植後の炎症イベント(感染、T細胞性拒絶、虚血・再灌流傷害 など)

これらが重なると、目立つ自覚症状がなくてもsmolderingに組織障害が進みます。

抗HLA抗体とDSAの関係(全体像)

抗HLA抗体は、過去の輸血・妊娠・移植などにより、非自己のHLAに感作されて産生されます。

定義としては、移植ドナーと移植時期との関連より、ドナー特異的(DSA)か否か(non-DSA)、移植前よりすでに有していた(prefomed)か移植後に新たに産生された(denovo)かに分類されます。

集合関係:DSA ⊂ 抗HLA抗体

抗HLA抗体は「他人のHLAに対する抗体」の総称です。

このうち、ドナーが実際にもつHLAに一致する抗体がDSA、一致しないものがnon-DSAです。

ABMRリスク評価では、まずDSAの有無と性質が重視されます。

具体例でイメージ(特異性 × ドナー型)

ここでは「抗体の特異性」「ドナーが実際に発現しているHLA」
一致するかどうかでDSA(ドナー特異的抗体)かを判定する流れを示します。
例として、レシピエントに抗HLA-A2抗HLA-DQ7が検出されたケースを想定します。

前提の整理

  • HLA-A2は抗原です。
  • HLA-DQα鎖(DQA1)×β鎖(DQB1)のヘテロ二量体として発現し、DQ7は主にDQB1*03系の一部に対応します。

判定の具体例

  • ケース1:ドナーの型が A2 / DQ5 の場合
    レシピエントの抗A2は、ドナーがA2を発現しているためDSAになります。
    一方、抗DQ7は、ドナーがDQ7を発現していないためnon-DSAです。
  • ケース2:ドナーの型が A24 / DQ7 の場合
    レシピエントの抗DQ7は、ドナーがDQ7を発現しているためDSAになります。
    一方、抗A2は、ドナーがA2を発現していないためnon-DSAです。

まとめると、「抗体の特異性」×「ドナーの実際のHLA発現」が合致したときに初めてDSAと判定されます。

DSA陽性とは?(定義と臨床的な意味)

定義:ドナーのHLAに対応する抗体が検出される状態

DSA陽性とは、レシピエント血清中に「ドナーが保有するHLAに反応する抗体(=DSA)」が検出される状態を指します。単なる“抗体の有無”ではなく、ドナーに特異的かどうかで意味づけが変わります。

一般に、Class II(とくにDQ)を標的とするDSAは持続化と予後不良との関連が指摘されています。

臨床解釈の原則:数値に依存せず総合評価

DSA陽性でも、全例がABMRを発症するわけではありません。

臨床経過(腎機能・尿所見・感染状況・免疫抑制の変動)や、必要に応じた病理所見(微小血管炎、C4d、トランスクリプト)を組み合わせ、総合的に判断します。

HLAと「自己・非自己」の基礎

HLAの役割と発現(Class I / Class II)

HLAは「自己・非自己の認識」に関わる主要組織適合抗原です。Class I(A・B・C)は多くの有核細胞(内皮を含む)に、Class II(DR・DQ・DP)は主に抗原提示細胞に発現します。

炎症やサイトカイン(例:IFN-γ)の刺激で内皮でもClass II発現が誘導され、Class II標的のDSAが結合しやすい状況が生じます。
炎症性サイトカイン(例:IFN-γ)により、腎内皮細胞でもHLA Class II(DR/DQ/DP)の発現が誘導されます。この環境では、Class IIを標的とするDSAが結合しやすく、DQ-DSAの持続と関連する臨床経過が問題になりやすくなります。

最短メモ(新人向け)

  • HLA=名札DSA=その名札に当たる抗体です。
  • preformed(術前からある)/de novo(術後に新しくできる)です。
  • DSAがあると補体→内皮障害→ABMRという流れが起こりやすくなります。

DSAはなぜ生じるのか(感作)

主な契機(曝露の機会)

  • 妊娠:胎児はパートナー由来のHLAを持つため、母体が他者HLAに曝露されます。
  • 輸血:とくに血小板輸血は血小板表面のHLA Class Iへの曝露になります(白血球除去赤血球でもゼロではありません)。
  • 過去の移植:以前のドナーHLAに対する免疫記憶が残り、次回以降に反応しやすくなります。

これらの機会に抗HLA抗体が産生され、その中で「今回のドナーがもつHLA」に対応しているものだけがDSAです。移植後に新規出現するde novo DSAは、臨床症状が目立たないまま組織障害が進むsmolderingな経過と関連して報告されています。

体の中で何が起きているか(病態の流れ)

内皮結合→補体活性化→微小血管障害(Banffの所見と対応)

  1. 移植腎の血管内皮にHLAが発現しています。
  2. 血中のDSAがそのHLAに結合します。
  3. 古典経路の補体が作動し、C4d沈着膜攻撃複合体(C5b-9)形成などを介して内皮が傷みます。
  4. 病理では微小血管炎(g/ptc)が観察され、臨床的にはABMRの像をとります。

ABMRは急性に起こる場合(血栓傾向など)と、慢性的に進行する場合(係蹄の二重化、間質線維化など)があり、いずれも移植腎の予後に影響します。

DSAのタイプと臨床像

preformed DSA と de novo DSA(要点再整理)

  • preformed DSA:移植前から存在。術後早期のABMRと関連します。
  • de novo DSA:移植後に新規出現。遠隔期の進行性障害と関連します。

とくにClass II(とくにDQ-DSA)に注意が必要です。de novo DSAは腎機能低下に先行して検出されることがあり、術後の計画的モニタリングが有用です。

脱感作の基本(PE/DFPP+IVIG±RTX)

脱感作療法では、免疫抑制薬の先行的内服、DSA除去目的のPE/DFPP、抗体中和のIVIG、抗体産生抑制のためのリツキシマブを、DSAの力価に応じて組み合わせて行います。

免疫抑制薬としては、日本では、メチルプレドニゾロン、カルシニューリン阻害剤、ミコフェノール酸モフェチル、バシリキシマブなどが使用されています。

目的:抗体の除去産生抑制の二本立て

脱感作(desensitization)は、循環抗体を物理的に下げ(除去)つつ、B細胞系に働きかけて(産生を抑え)、移植時の免疫学的障壁を下げる/ABMRリスクを減らすことを目的にします。

PE・DFPP

  • PE
  • DFPP

DSAを除去するアフェレシスとしては、PEまたあDFPPがあります。

IVIG(静注用免疫グロブリン)

  • 役割:中和、Fc受容体経路の調整、補体制御など多面的に免疫を調整します。
  • 使い方:高用量単独、またはPE/DFPPと組み合わせ(除去→補充)で用いられます。

リツキシマブ(RTX)ほか

  • RTX:抗CD20でB細胞を抑制します(形質細胞には直接は効きません)。
  • その他:症例によりプロテアソーム阻害薬や、IgG分解酵素(イミリフィダーゼ)などを用いることがあります(適応・施設方針によります)。
現時点で、PE/PEX+IVIG(±リツキシマブ)は一次選択として広く用いられるます。症例により、プロテアソーム阻害薬やIgG分解酵素(イミリフィダーゼ)などを併用することがあります(適応・施設体制・保険の範囲に依存します)。

術後モニタリング(基本)

なぜ測る?いつ測る?

  • 理由:de novo DSAは腎機能低下に先行して検出されることがあり、早期対応に役立つためです。
  • タイミング例:多くの施設で3・6・12か月、以降は施設基準で年1回など。臨床イベント(感染、免疫抑制の変更、機能変動)があればその都度評価します。

運用上の注意:DSAスクリーニングの普遍的な標準間隔は未確立です。多くの施設では、術後3・6・12か月の評価に加え、その後は年1回程度を基本とし、感染・免疫抑制の変更・腎機能変動などのイベント時に追加測定を行う方針がとられています。

見つかったらどうする?(入口)

  • まず:腎機能・尿所見と合わせ、必要なら腎生検(Banff)で確認します。
  • 次に:ABMRが示唆されれば、施設方針に沿ってPP/IVIG±追加薬など段階的に介入します。

「DSAの有無」だけでなく「病理と臨床を合わせる」が基本姿勢です。

新人向けQ&A

Q1:DSAがあれば必ず拒絶になりますか?

A:必ずではありません。DSA陽性でもABMRを起こさない症例は存在します。臨床経過や病理所見(微小血管炎、C4dなど)を総合して判断します。

Q2:どのDSAに注意が必要ですか?

A:臨床ではClass II、とくにDQ-DSAが持続しやすく、移植腎予後との関連が報告されています。

Q3:「抗HLA抗体」と「DSA」は同じですか?

A:同じではありません。抗HLA抗体は「他人のHLAに対するすべての抗体」の総称で、DSAはそのうちドナーが持つHLAに一致する一部です。

参考文献(主要・全文リンク/国内資料優先)

定義・病態・予後(オープンアクセス)

国内レビュー・特集(PDF/抄録を含む)

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