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CHDF中の漏血アラーム対応|原因・観察ポイント・対応方法
この記事では、ICUでCHDF(continuous hemodiafiltration:持続緩徐式血液濾過透析)を担当している新人看護師さん・臨床工学技士さんに向けて、「CHDF中の漏血アラームが鳴ったときにどう考えて、どう動くか」を整理します。
CHDFはCRRT(continuous renal replacement therapy:持続的腎代替療法)の一つですので、本文中では「CHDF=CRRTの一形態」として統一して書いていきます。
- CHDF中の漏血アラームは、基本的には「ヘモフィルター膜の破綻」を疑う警報です。
- ただし、薬剤(ヒドロキソコバラミンなど)や色素、溶血に伴う遊離ヘモグロビンによる「偽陽性」も少なくありません。排液の観察と簡易検査(尿試験紙・遠心・遊離ヘモグロビン測定)で、漏血と溶血を見分けます。
- 55Xシリーズでは濾液/排液ラインに漏血センサーが搭載されており、透過光の低下=血液混入の疑いで漏血アラームが出ますが、センサーだけでは漏血と溶血を区別できません。
参考文献
Ronco C, et al. Renal replacement therapy in acute kidney injury: controversy and consensus. Crit Care. 2015.
Neyra JA, et al. How To Prescribe And Troubleshoot Continuous Renal Replacement Therapy: A Case-Based Review. Kidney360. 2021.
CHDF中の漏血アラームとは|どんな状態を知らせる警報か
CHDF(CRRT)の基礎と回路の流れ
CHDFは、24時間以上かけて、血液を少しずつ体外に取り出し、ヘモフィルターというフィルターで「いらない水分や老廃物」をゆっくり取り除く治療です。
通常の4時間透析のように一気に透析と除水するのではなく、ショックや敗血症などで循環が不安定な患者さんに適しています。
ヘモフィルターの中では、
- 中空糸の内側に血液
- 外側に透析液・濾液
が流れており、両者は半透膜で隔てられています。
正常であれば、赤血球や血小板などの血球成分が透析液側に出ていくことはありません。

回路全体の流れはおおよそ次のとおりです。
- 脱血ラインから血液ポンプでヘモフィルターへ送血
- ヘモフィルターで溶質・水分を除去する(透析)
- 浄化された血液を返血ラインから患者へ戻す
- 透析液・濾液・除水は排液として排出される
CHDF装置の漏血センサーが見ている場所
CHDF装置では、「透析液ラインまたは濾液ライン(排液ライン)」に血液混入を監視する漏血センサーが付いています。
ここでいう「漏血」とは、ヘモフィルターの中空糸の内側(血液側)から外側(透析液・排液側)へ血液が漏れ出ている状態を指します。
中空糸の膜に亀裂や、ピンで刺したようなごく小さな穴(ピンホール)ができてしまい、そこから血液が透析液側にしみ出してくるイメージです。つまり、ヘモフィルターそのものが壊れかけているサインと考えます。
漏血センサーは、目で見ても分からないくらい少量の血液混入も検知できる一方で、「膜破綻による漏血」なのか「溶血で出てきた遊離ヘモグロビンが透析液側に出ているだけなのか」までは区別できません。
そのため、遊離ヘモグロビン値の測定や排液の遠心などを組み合わせて判断していくことになります。
漏血アラームと溶血・他アラームとの違い
CHDF中にはさまざまな警報が鳴りますが、「漏血アラーム」は原則として透析液側を監視するセンサーから出る警報です。
なお、漏血と溶血は異なります。
- 溶血:血液側で赤血球が壊れている状態。
→血液が茶色っぽく濁る、HbやLDHが急に上昇する、などで疑います。
参考文献
Saunders H, et al. Continuous Renal Replacement Therapy. StatPearls. 2024.
Neyra JA, et al. How To Prescribe And Troubleshoot Continuous Renal Replacement Therapy: A Case-Based Review. Kidney360. 2021.
CHDF中に漏血が起こる主な原因
ヘモフィルター膜からのリーク(真の「漏血」)
CHDF中の漏血アラームでまず疑うのは、ヘモフィルター膜の破綻(リーク)です。半透膜に亀裂やピンホールが生じると、赤血球や血漿蛋白ごと透析液側へ漏れてしまいます。
特に、フィルター寿命を超えた使用と高TMPの持続は、膜破綻・漏血のリスク因子として複数のレビューで指摘されています。
参考文献
Kovvuru K, Velez JCQ. Complications associated with continuous renal replacement therapy. Semin Dial. 2021.
Gautam SC, et al. Complications associated with continuous renal replacement therapy. Semin Dial. 2022.
溶血による排液の変色と遊離ヘモグロビン
血液側で溶血が起こると、赤血球が壊れて遊離ヘモグロビンが血漿中に増加し、その一部が膜を通過して透析液側に移行します。
この場合、排液が「赤〜茶色」に見えるものの、透析液中に赤血球そのものはほとんど認めない、というパターンもあります。
溶血かどうかを評価する方法として、
- 血液検査で遊離ヘモグロビン値を測定する
- 排液を遠心をして観察する
といったやり方があります。排液を試験管などに採取して遠心分離すると、
- 赤血球が混入している場合:赤血球が沈殿し、上清は比較的透明〜淡色になる
- 遊離ヘモグロビン主体の場合:沈殿せず、上清が赤いまま残る
という違いが出ます。
遊離ヘモグロビン値が高値で、遠心後も上澄みが赤いままであれば、膜破損というより溶血が主な原因である可能性が高いです。
溶血が背景にある場合は、
- 脱血圧の過大な陰圧(過度な吸引)
- ローラーポンプによる機械的ストレス
- 狭窄した回路・クランプ・接続不良による局所的な高圧
などが原因として挙げられます。溶血自体の原因を取り除くことが重要であり、CRRTそのものに原因がないと判断される場合は、漏血検出器の一時停止を検討することもあります。
55Xシリーズ(AcuFil Multi/JUN 55X)の漏血警報の原理
55Xシリーズに搭載されている漏血検出器の構成
AcuFil Multi 55X(TR-55Xシリーズ)やJUN 55Xでは、濾液/排液ラインに「漏血検出器(漏血センサー)」が組み込まれています。
構造としては、透明な排液チューブを挟み込むクランプ型の光学センサーになっており、透析液の流れを遮断せずに監視できるようになっています。
光学式漏血センサーの基本原理
55Xシリーズに限らず、多くの透析・CHDF装置で使われている漏血センサーは「光の透過量を測る仕組み」です。
- 片側にLED(発光素子)、反対側にフォトダイオード(受光素子)を配置
- チューブ内を流れる透析液が透明なときは光がよく通り、受光素子に強い光が届く
- 血液(赤血球)が混入すると、ヘモグロビンによる光の吸収と散乱で透過光が低下する
- この透過光の変化量が設定された閾値を超えると、漏血アラームとして検知
一般的に、光学式漏血センサーでは、比較的少ない血液混入(おおむね0.3〜0.5 mL/min程度)でも検出できる感度が報告されており、早い段階で異常を教えてくれるように設計されています。
漏血警報が「誤検知」しやすい場面とその理由
光学式センサーにも、どうしても苦手な場面があります。
例えば、
- 透析液に赤色の薬剤・色素(ヒドロキソコバラミンなど)が混入している場合
- チューブの内壁に蛋白や汚れが付着していたり、微細な気泡がたくさん流れている場合
- センサー窓(光源・受光部)が汚れている・曇っている場合
こういった状況では、
- 赤い薬剤や色素:ヘモグロビンと同じように光を吸収してしまうため、センサーから見ると「血液が混じったように」見えてしまう。
- 蛋白付着や気泡:光が散乱して受光部に届く光が弱くなるため、やはり「透析液が濁っている=血液が入ったかも」と判断されやすい。
- センサー窓の汚れ:光が出にくくなったり、受光しづらくなり、実際より暗く見える。
その結果、実際には赤血球が混入していなくても、透過光が下がることで漏血アラームが鳴る(偽陽性)ことがあります。
参考文献
東レ・メディカル. 血液浄化装置 AcuFil Multi 55X-Ⅲ 製品資料. 2023.
Serim Research. GUARDIAN Blood Leak Test Strips Product Profile. 2019.
Datar P, et al. Hydroxocobalamin-Induced False Blood Leak Alarm in a Patient on Hemodialysis. Case Rep Nephrol Dial. 2019.
CHDF中に漏血アラームが鳴ったときの対応フロー
まず行うべき安全確保と「絶対にしてはいけないこと」
漏血アラームが鳴った瞬間に、まずやることはシンプルです。
- 血液ポンプ停止
- 患者の状態確認
この段階では、まだ「真の漏血」か「溶血」かは分かりません。
排液バッグ・濾液ラインの色と泡の確認
安全を確保したら、排液(濾液)側の観察に移ります。
- 排液バッグの色:透明〜黄色/うっすらピンク/均一な赤色/茶色がかっている…
- 濾液ラインの色調:局所的な筋状の赤色なのか、全体が赤く濁っているのか
- 気泡の有無:多数の微小気泡で白濁していないか
排液を簡便にチェックする方法(尿試験紙・専用テストストリップ)
排液の色だけでは判断しにくいときは、ベッドサイドでできる簡単な検査を併用すると判断しやすくなります。
- 尿試験紙(潜血反応)を使う方法
透析液を清潔な容器に少量採取し、尿検査用試験紙の「潜血」パッドを浸して判定します。ヘモグロビンの擬似ペルオキシダーゼ活性を利用しており、一定以上のヘモグロビンが含まれていれば色が変化します。透析液専用試験紙より感度が高いとする報告もあり、見た目がほぼ透明な排液でも、溶血由来の遊離ヘモグロビンが検出された症例が報告されています。- 透析液を清潔な容器に採取する、または排液ラインから直接ストリップ先端を透析液に浸す。
- 指定時間(通常1秒前後)浸したら取り出し、余分な液を軽くはらう。
- 約60秒後に、ストリップの色をボトルに印刷されたカラーチャートと比較して判定する。透析液専用の血液検出試験紙を使う方法
海外では、Serim GUARDIAN Blood Leak Test Strips や E-Z Chek Blood Leak Test Strips など、透析液中の血液検出に特化した試験紙が市販されています。
使い方の一例は次のとおりです。
こうした試験紙を活用すると、機械の漏血アラームが「真の漏血」なのか「エラーや溶血などによる偽陽性」なのかを切り分けやすくなります。
排液バッグ・遠心・遊離ヘモグロビンでの確認
さらに詳しく確認したい場合は、
- 排液の一部を採取して尿試験紙で潜血を確認する
- 遠心して赤血球の沈殿の有無と上澄みの色を確認する
- 遊離ヘモグロビン値を測定する
赤血球が沈んで上澄みが透明になる→赤血球漏れ(真の漏血)の可能性が高い、沈まず上澄みが赤いまま→遊離ヘモグロビン主体(溶血)の可能性が高いです。
真の漏血が疑われるときの対応(返血・フィルタ交換・回路保存)
排液が濃い赤色で均一、潜血テスト陽性、遠心分離で沈殿した赤血球を多数認める場合は、ヘモフィルター膜の破損を疑います。
この場合、
- 医師に報告し、患者状態(出血量・Hb・循環動態)を評価
- 必要であれば輸血・昇圧薬調整
- 新しい回路・フィルターに組み替えてCHDFを再開
溶血が疑われるときの対応(原因除去とCHDF継続の可否判断)
排液はやや赤〜茶色だが赤血球を認めない、遠心分離しても上澄みが赤いまま、LDH上昇・遊離ヘモグロビン高値がある、といった場合は溶血が疑われます。
- 脱血圧・返血圧・フィルタ圧・TMPの再確認と設定見直し
- カテーテル位置・回路屈曲・クランプ有無の確認
- 血液検査(Hb・LDH・ハプトグロビン・遊離ヘモグロビン)で溶血評価
この場合は、医師・CEと相談しながらCHDF継続の可否を判断します。
原因が明らかで、患者状態が安定しており、排液に赤血球を認めない場合には、フィルター交換などの上で治療継続が選択されることもあります。
参考文献
Gautam SC, et al. Complications associated with continuous renal replacement therapy. Semin Dial. 2022.
Köker A, et al. Continuous renal replacement therapy protocol in pediatric intensive care. CAYD. 2023.
Lindley EJ, et al. Unexpected triggering of the dialysate blood leak detector by haemolysis. Acta Clin Belg. 2014.
Serim Research. GUARDIAN Blood Leak Test Strips Instructions for Use. 2018.
RPC. E-Z Chek Blood Leak Test Strips Product Information. 2018.
「排液が赤い」時の観察ポイント|CHDF漏血チェックリスト
排液色・濁り・層の見方(漏血/溶血/他原因の見分け方)
排液の見た目は、現場で使える大事な情報です。
- うっすらピンク:微量の血液・溶血・色素など。尿試験紙や専用試験紙、遠心分離で確認。
- ワインレッド〜真っ赤で均一:膜破損による漏血を強く疑う。
- 茶色っぽい・黒ずんだ赤:溶血・ミオグロビン・薬剤などの可能性。
看護師が臨床工学技士へ報告する際の情報項目
新人看護師さんにおすすめの「報告テンプレ」です。
- いつからどんなアラームが出ているか(アラーム名・回数)
- 排液の色・量の変化
- 圧モニタ(脱血圧・返血圧・フィルタ圧・TMP)のトレンド
- 患者の状態(バイタル・出血傾向・処置中かどうか)
- 実施済みの対応(ポンプ停止・医師報告など)
参考文献
Gautam SC, et al. Complications associated with continuous renal replacement therapy. Semin Dial. 2022.
Nakamura Y, et al. Evaluation of circuit lifetime in continuous renal replacement therapy with regional citrate anticoagulation. Ren Replace Ther. 2019.
ICU新人向けQ&A|CHDFの漏血アラームで迷ったとき
Q1. 排液がうっすらピンク色…これもCHDFの漏血ですか?
A. 「真の漏血」とは言い切れません。まずは、
- 排液の一部を採取して尿試験紙や専用試験紙で潜血を確認する
- 可能であれば遠心し、赤血球の沈殿の有無や上清の色を確認する
- 薬剤歴(ヒドロキソコバラミン・ビタミンB12など)を確認する
潜血強陽性で赤血球を多数認める場合は、膜破損による漏血の可能性が高く、フィルター交換・回路廃棄を検討します。遊離ヘモグロビンが高値で赤血球を認めない場合は、溶血の可能性を考えます。
Q2. CHDFを止めるか迷うとき、どこを見ればいいですか?
A. 迷ったときは、次の3点をセットで考えます。
- 患者状態:バイタルの変化・Hbの急激な低下・出血所見
- 排液・回路の観察:排液の色・フィルタの見た目・回路内の血栓など
- 圧モニタ:脱血圧・返血圧・フィルタ圧・TMPの変化
これらが「明らかにおかしい」+「排液が真っ赤」であれば、一旦止めて安全確認→医師・CEと相談します。
Q3. 当直中にCHDF漏血アラーム…いつ臨床工学技士を呼ぶ?
A. 各施設の取り決めによりますが、目安としては、
- 漏血アラームが繰り返し発生する(リセットしても続く)
- 排液が真っ赤・ワインレッドで明らかな色調変化がある
- 圧モニタに明らかな異常(TMP急上昇など)がある
- 患者状態が不安定(血圧低下・ショック)
といった状況では、早めにCEをコールして一緒に回路・装置を評価した方が安全です。
参考文献
Neyra JA, et al. How To Prescribe And Troubleshoot Continuous Renal Replacement Therapy: A Case-Based Review. Kidney360. 2021.
Saunders H, et al. Continuous Renal Replacement Therapy. StatPearls. 2024.
まとめ|CHDF中の漏血アラーム対応で押さえたいポイント
「漏血」と「溶血」を見分けて考える
CHDF中に排液が赤くなったとき、「膜破綻による漏血」なのか「溶血や薬剤由来の色調変化」なのかを見分けることが大切です。
そのためには、排液の検査(潜血・専用試験紙・遠心分離)、遊離ヘモグロビン測定、圧モニタリング、患者状態の観察を組み合わせて判断します。
排液観察+圧モニタリングで早期に異常を見つける
CHDFは24時間以上続く治療です。「なんとなく色が濃くなってきた」「TMPがじわじわ上がっている」といった小さな変化を早期に拾うことで、大きなトラブルを防げます。
参考文献
Kovvuru K, Velez JCQ. Complications associated with continuous renal replacement therapy. Semin Dial. 2021.
Ronco C, et al. Renal replacement therapy in acute kidney injury: controversy and consensus. Crit Care. 2015.