サイトアイコン 透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】

透析中に患者さんの体内・血液へ気泡(空気)が混入した場合の対処

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

昔は生食返血・透析液返血ではなく、エアー返血でしたので、患者さんの体内(血液)に大量の空気が混入してしまうことがあったそうですが、今ではエアー返血をやっている透析施設はないと思います。

また、血液回路の静脈側回路(返血側部分)に気泡検知器がありますので、患者さんの体内(血液)に気泡(空気)が入ることはまずないと思います。

しかし、何らかのトラブルで絶対にないとも言い切れませんので(私自身は経験がありませんが)、本記事では、透析中に患者さんの体内(血液)に気泡(空気)が混入した時の対処法とその理由をまとめています。

透析中に患者さんの体内・血液へ気泡(空気)が混入した場合の対処

静脈内へ気泡(空気)が混入した場合の対処法
  1. 頭部を下げて、下肢を挙上
    (トレンデレンブルグ体位)
  2. 左側臥位をとる
  3. 酸素投与
  4. 高気圧酸素療法

透析中に患者さんの体内・血液へ気泡(空気)が混入してしまったときの対処は上記のとおりです。

頭部を下げる理由

画像引用:ぜんぶわかる 人体解剖図 p50

シャントや静脈から入った気泡は、上大静脈まで順行性に進みます。このとき頭部が挙上されていると、そこから逆行性に内頚静脈を介して脳に流れ、脳空気塞栓症を生じる場合があります。その結果、中枢神経系に重大な合併症を引き起こす場合があります。

静脈から混入した気泡は、静脈の流れに乗って鎖骨下静脈まで流れています。このとき、頭部が挙上していたら、逆行性に内頚静脈に気泡が流れていく可能性があります。内頚静脈は、脳の静脈に繋がっているため、脳の血管に気泡が詰まり、脳梗塞を起こす可能性があります。

左側臥位をとる理由

画像引用:石丸昌志,ダイアライザ・血液回路などに関する事故防止対策-透析液清浄化の必要性-Clinical Engineering Vol.26 No.10 2015

患者さんの体内(血液)に空気が入った場合、下肢を挙上し頭部を下げたトレンデレンブルグ体位にし、さらに左側臥位にします。

トレンデレンブルグ体位とは、仰向けで頭部より下半身を高く保つ体位のことです。静脈還流を増加させて血圧を上昇させる目的から、ショック時に取らせることが多いです。

左側臥位にすることで、右心房に入った気泡(空気)は、右心房・右心室にとどまりやすく(左心房・左心室に流れにくく)、肺空気塞栓症を予防することができます。

逆に右側臥位では、気泡が肺に流入しやすくなります。その結果、肺空気塞栓症や肺高血圧の発症する可能性があります。場合によっては気泡が肺を通過し、全身の動脈塞栓に移行する危険性が高まります。

気泡の大部分は肺でトラップされて除去されます。しかし、気泡が大きい場合では肺を通過し、動脈にまで到達することがあります。

酸素投与をする理由

酸素投与する理由
  1. そもそも、気泡(空気)の成分の大半を占める窒素は血液に溶けにくい。
  2. 100%の酸素を吸うことで窒素の吸入量が減る。
  3. したがって、血液に溶けている窒素の量が減る。
  4. その結果、右心房・右心室にたまった気泡(空気)、つまり窒素が血液に溶けやすくなる。

左側臥位をとり、右心房・右心室にとどまっている気泡は時間とともに血漿に溶けていきます。しかし、空気の成分のほとんどを占める窒素は水に溶けにくいです。

そこで酸素投与をすることで、右心房・右心室にたまった気泡(空気)の溶解を加速させることができます。

100%の酸素を吸わせることで、窒素の吸入量を減らします。これにより、血漿に溶けている窒素量を減らすことができます。これにより、窒素が血漿に溶解していくのを促進することができます。

ちなみに、少量の気泡であれば、肺の毛細血管でトラップされるので問題ありません。また、肺で気泡が吸収されてなくなります。

高気圧酸素療法

患者さんがショック状態となってしまった場合は、高気圧酸素療法、カテコラミンの投与、人工呼吸器の装着などを検討します。

高気圧酸素療法を行うことで、血管内の気泡の体積を小さくすることができます。

静脈への少量の気泡(空気)混入はそんなに心配しなくていい

ここまで、血液への気泡(空気)混入の対処法を紹介しましたが、少量であれば、静脈への気泡(空気)混入は心配しなくてもいいです。

『静脈』であれば!です。『動脈』の場合は気にしてください。

というか、普段から少量の気泡(空気)は患者さんの静脈内に混入しています。

例えば、透析では必ず患者さんのシャント血管に穿刺針を刺しますが、その穿刺針の中に若干の気泡(空気)が残っていまして、透析を開始るときにそれがそのまま患者さんの静脈へと入っていきます。1ccにも満たない気泡(空気)だとは思いますが。

静脈への少量の気泡(混入)をそんなに気にしなくてもいい理由としては、少量(空気)の気泡であれば、肺の毛細血管でトラップされます。そして、肺で気泡(空気)は吸収されてなくなり、臨床症状が出ることは少ないです。

少量の気泡(空気)ってどの程度か?と思うかもしれませんが、10cc程度ではそんなに気にしなくてもよいかと思います。100cc以上はさすがに危険です。いくら静脈といえど大量に気泡が送られてしまえば肺塞栓症になりえます。

ただし、動脈への気泡(空気)混入は、そのまま末梢組織へと流れていって、空気塞栓の原因となりますので、静脈の場合とはまったくの別問題ですので注意してください。

静脈に血栓や気泡が流入した場合、これらは肺の毛細血管で捕捉されます。しかし大量に送られた場合には肺塞栓症になりえますが、少量であれば臨床症状が出ることは少ないです。

ですが、大動脈の場合はごくわずかであっても血栓や気泡が流入すれば、脳を含む主要な臓器で塞栓症を引き起こすので要注意です。

透析中に患者さんの体内に気泡が混入したときの症状

  • 症状①:咳(あるいは激しい咳)
  • 症状②:呼吸困難
  • 症状③:胸痛
  • 症状④:痙攣
  • 症状⑤:血圧低下
  • 症状⑥:意識レベル低下

透析中に患者さんの体内に、静脈側へ気泡が混入したときの症状は上記のとおりです。

大量の気泡が透析患者さんに入ってしまった場合、ショックや心停止に至るので注意が必要です。

 

 

 

というわけで今回は以上です。

透析中に、血液回路内へ空気が混入し、血液ポンプによって急速に患者さんの体内へ気泡が入ったときの症状は下記の記事で紹介しています。参考までにどうぞ。

 

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