目次
最初に結論:人工血管(AVG)は「材料×構造×配置×患者背景」で選ぶ
シナリオ別の考え方(要点)
早期穿刺が必要→三層ePTFE(ACUSEAL/FLIXENE)やPU系(ベクトラ)。長期の抗血栓性を意識→ヘパリン結合ePTFE(PROPATEN)。中枢静脈狭窄で流出路が確保しづらい→HeROグラフト。
最終判断はKDOQI 2019の原則(AVF優先、困難時にAVG、CVCは最短化)に沿って個別化します。
参考文献:KDOQI 2019/NKF KDOQIページ
ガイドラインが示す基本:いつAVGを選ぶか
KDOQI 2019:アルゴリズムの骨子
KDOQIは、透析用の中心静脈カテーテル(CVC)は感染などの合併症が多いので使う期間はできるだけ短くする、と明確に示しています。埋植直後から穿刺できる(または非常に早期に穿刺できる)AVGを選べば、CVCに頼る日数を減らしやすく、この方針に合致します。
参考文献:KDOQI 2019/NKF KDOQIページ
CVCとは?(ここでの意味)
ここでのCVCは透析用の中心静脈カテーテルの総称です。短期間の非トンネル型と、長期間のカフ付きトンネル型の双方を含みます(本文では区別せず「カテーテル透析全般」を指します)。
参考文献:KDOQI 2019
人工血管の種類①:材料で見る(国内で確認できる主な製品)
三層ePTFE(早期穿刺系):Gore「ACUSEAL」/Getinge「FLIXENE」
GORE® ACUSEAL Vascular Graft:ePTFE–低出血層–ePTFEの三層。内腔はCBAS®ヘパリン表面。埋植後早期から穿刺を想定する設計で、カテーテル回避・早期抜去の選択肢になります。
FLIXENE™ Vascular Grafts:三層ePTFE。AVアクセス用途が明記され、構成(ストレート/テーパー、壁厚、リング有無)も幅広く、早期穿刺を支えるデータが提示されています。
参考文献:ACUSEAL 日本語ページ/CBASヘパリン技術/FLIXENE 日本語ページ/FLIXENE 資料(コスモテック)
ヘパリン結合ePTFE:Gore「PROPATEN」
GORE® PROPATEN®:内腔にヘパリンをエンドポイント共有結合で固定化。透析AVGに限定した無作為化試験では、長期開存の明確な上乗せは示されず、初期血栓の低減は概ね5か月程度までとの報告があります。
参考文献:Shemesh 2015(RCT)/PROPATEN 技術・引用
ePTFE標準・リング/テーパー設計:Gore「INTERING」/Getinge「Advanta VXT」
GORE® INTERING®:サポート部を壁内に一体化。国内ページに透析VA向けショートテーパー規格の明記があります。
Advanta VXT:強化ePTFE(二層)。日本語ページに透析AVアクセス適応が明記されています。
参考文献:INTERING 日本語ページ/INTERING 規格(VAショートテーパー)/Advanta VXT 日本語ページ
ポリウレタン(PU):Goodman「ベクトラ」
ベクトラ人工血管:同一PUの三層、壁内スパイラル補強、セルフシーリング性。VA用途が日本語ページと添付文書に記載。早期穿刺の運用に向く場面があります(施設プロトコル準拠)。
参考文献:グッドマン 製品ページ/ベクトラ 添付文書(IFU)
特殊ソリューション(流出路確保):Merit「HeRO® Graft」
HeRO® Graft:完全皮下で静脈吻合を使わず、中枢静脈狭窄をバイパスして流出路を確保。メーカー資料ではカテーテル比で感染率低下・透析適正の改善などが示されています(適応評価とチーム運用が前提)。
参考文献:HeRO 日本語ページ/HeRO 紹介記事
人工血管の種類②:形状・配置で見る
前腕ストレート/ループ、上腕ループ、大腿の使い分け
基本は前腕から検討し、条件により上腕、困難時に大腿も選択。リングやテーパー設計は穿刺性・吻合設計・皮下トンネルの取りやすさに影響します(製品カタログで構成が一覧化)。
参考文献:FLIXENE 日本語ページ(構成)/INTERING 規格
早期穿刺AVGの運用ポイント(CVC日数短縮をねらう)
具体条件の例:ACUSEAL/FLIXENE/PU
ACUSEALは埋植後早期穿刺を想定。FLIXENEは24〜72時間の早期穿刺に関する文献が提示。PU(ベクトラ)はセルフシーリング性・補強構造が特長。いずれも創管理・針径・回路血流量など製品別条件に従います。
参考文献:ACUSEAL 日本語ページ/FLIXENE 日本語ページ/FLIXENE 資料/ベクトラ 製品ページ
比較知見の要点(エビデンスの読み方)
早期穿刺型同士の比較では、初回穿刺までの時間は概ね同等だが、初期の穿刺部出血はACUSEALが多いとした報告があります。施設の創管理や手技差の影響も考慮します。
参考文献:Yu 2025(Acuseal vs Flixene)/Yu 2025 PubMed抄録
合併症と材質・構造の視点
血栓・狭窄・感染・針穴瘤(総論)
合併症は解剖・吻合・穿刺・創管理・材質など多因子。ヘパリン結合ePTFEは初期血栓の低減が示される一方、長期開存の一貫した優越は示されていません。運用(穿刺間隔・止血・ドレッシング)を標準化します。
参考文献:Shemesh 2015(RCT)/Davies 2016/KDOQI 2019
近年の注意喚起・話題
早期穿刺型の層剝離(delamination)に関する報告があります。製品別の留意点と院内方針を最新情報で確認します。
参考文献:Wang 2024(ecAVGのdelamination)/Wang 2024(Full article)
国内で確認できる主要製品(まとめ一覧)
Gore(日本ゴア)
- ACUSEAL(三層・早期穿刺、CBASヘパリン)
- PROPATEN(ヘパリン結合ePTFE)
- INTERING(壁内一体型サポート/VAショートテーパー)
参考文献:ACUSEAL/PROPATEN/INTERING
Getinge(ゲティンゲ)
- FLIXENE(三層ePTFE、早期穿刺データ)
- Advanta VXT(強化ePTFE、AVアクセス適応)
参考文献:FLIXENE/Advanta VXT
Goodman(グッドマン)
- ベクトラ(PU三層、セルフシーリング、VA用途)
参考文献:ベクトラ 製品ページ/ベクトラ IFU
Merit Medical(メリット)
- HeRO® Graft(完全皮下、静脈吻合なし/中枢静脈狭窄の回避)
参考文献:HeRO 日本語ページ
補完:国内製品・情報
Gore 標準ePTFEの規格(STRETCH/リング付・リムーバブルリング)
VA向け規格(ショートテーパー)の明記、リング構造や壁厚バリエーションの情報がカタログで確認できます。
参考文献:INTERING 規格
Getinge トンネラー(関連器具)
皮下トンネルを安定して作る器具が関連製品として案内されています。ルートの深さ・曲率を一定に保つのに有用です。
参考文献:FLIXENE ページ(関連製品)
Merit Super HeRO® アダプター
HeROの流出路側に他社グラフトを接続できるアダプター。中枢静脈病変症例での選択肢を広げます。
参考文献:Super HeRO 日本語ページ
材質メモ(国内解説より)
ePTFE・PUに加え、PEP(polyolefin-elastomer–polyester)系が紹介される解説もあります(流通は時期で変動)。
参考文献:MediPress 解説
よくある質問(Q&A)
Q1. どの製品が一番“長持ち”しますか?
A. 一概に言えません。開存は解剖・吻合・穿刺・創管理・材質など多因子で決まり、KDOQIは個別最適化を推奨しています。
参考文献:KDOQI 2019
Q2. 早期穿刺は本当に安全?
A. 製品ごとの条件に適合すればCVC日数短縮に寄与しますが、比較研究では出血傾向などの差も示されています。院内基準とメーカー資料に沿ってください。
Q3. ヘパリン結合ePTFEは開存に有利?
A. 透析AVGに限った無作為化試験では長期優越は明確でなく、初期血栓の低減が主に示されています。症例・方針に合わせて選択します。
参考文献:Shemesh 2015(RCT)/Davies 2016
製品比較表(メーカー×商品名×素材)
| メーカー | 商品名 | 素材 |
|---|---|---|
| W. L. Gore(日本ゴア) | GORE® ACUSEAL Vascular Graft | 三層ePTFE(ePTFE–低出血中間層–ePTFE)+CBAS®ヘパリン表面 |
| W. L. Gore(日本ゴア) | GORE® PROPATEN® Vascular Graft | ヘパリン結合ePTFE(CBAS®ヘパリン表面) |
| W. L. Gore(日本ゴア) | GORE® INTERING® Vascular Graft | ePTFE(壁内サポート一体型/テーパー・リング規格あり) |
| Getinge(ゲティンゲ) | FLIXENE™ Vascular Grafts | 三層ePTFE(早期穿刺モデル) |
| Getinge(ゲティンゲ) | Advanta VXT Vascular Graft | 強化ePTFE(二層) |
| Goodman(グッドマン) | ベクトラ人工血管 | ポリウレタン(PU)三層+スパイラル補強 |
| Merit Medical(メリット) | HeRO® Graft | ハイブリッド:ePTFE(動脈側グラフト)+シリコーン等のアウトフロー(完全皮下) |
まとめ:選定アルゴリズム(簡易)
1)AVF困難→AVG候補/2)早期穿刺の要否を確認/3)解剖と感染リスクで材料・形状を決める/4)CVCは最短化
「早期穿刺=ACUSEAL/FLIXENE/PU」「抗血栓性配慮=PROPATEN」「流出路問題=HeRO」を軸に、前腕→上腕→大腿の順で配置を検討し、リング・テーパーなど構造を組み合わせて最終決定します。
参考文献:KDOQI 2019/JSDT 2011
