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HIF-PH阻害薬の作用機序をわかりやすく&詳しく解説します

こんにちは、臨床工学技士の秋元麻耶です。

今回は、2019年11月から日本でも使用可能になった、腎性貧血の新しい治療薬であるHIF-PH阻害薬の作用機序を解説します。

特に、HIF(低酸素誘導因子)あたりの作用機序に関しては、かなり詳しく&わかりやすく解説します。

腎性貧血の治療薬としては30年くらいネスプをはじめとしたESAが使われています。しかし、全く異なる機序で貧血を改善する薬として「HIF-PH阻害薬」が、国内では2019年11月より使用可能となっています。

このHIF-PH阻害薬は、自分自身の身体からエリスロポエチンを作り出したり、体内での鉄利用を最適化することで、ヘモグロビン(Hb)値を上昇させて貧血を改善しています。ですので、ESA使用による副作用や高コストを回避し、ESA低反応性貧血を改善させることが期待されている。

HIF-PH阻害薬の作用機序をわかりやすく&詳しく解説

HIF-PH阻害薬は、プロリン水酸化酵素(PH)を阻害する薬です。

通常の酸素状態では、HIF-αはPH(プロリン水酸化酵素)を介して分解されるため、細胞内にはほとんど存在していません。

常に細胞内では、酸素濃度の高い・低いに関係なく、HIF-αは一定量産生されています。しかし、酸素が十分にある状態ではHIF-αはPH(プロリン水酸化酵素)を介してすぐに分解されてしまいます。

しかし、HIF-PH阻害薬を内服することで、PH(プロリン水酸化酵素)を阻害することで、HIF-αの分解を阻害します。

その結果、HIF-αが転写因子として機能して、遺伝子に作用してエリスロポエチンの産生を促進します。

さらにHIF-PH阻害薬には鉄の利用率を改善することによる貧血改善効果も期待されています。

エリスロポエチンってなに?という方は下記の記事をご覧くださいませ。

腎臓から出るエリスロポエチンとはなに?簡単にわかりやすく解説してみた
HIF-PH阻害薬の作用機序のまとめ
  • HIF-αを分解するプロリン水酸化酵素(PH)を阻害することで、体内でのエリスロポエチンの産生を増やします。加えて、鉄の利用能を亢進させます。これが貧血改善のメカニズム。

HIF(低酸素誘導因子)について

HIF-1αの構造

引用:Wikipedia「低酸素誘導因子」

HIFとは?
  • HIFは、HIF-α(αサブユニット)とHIFβ(βサブユニット)で構成されるタンパク質であり、転写因子の一つ。

補足:HIF-αにはHIF-1α、HIF-2α、HIF-3αの3つのアイソフォームがありますが、いずれも酸素が存在する環境下ではプロリン水酸化酵素(PH)の働きで水酸化修飾を受けます。HIF-βには、HIF-1β、HIF-2β、HIF-3βがあります。

ここでは、HIF-PH阻害薬の「HIF」という物質について、より詳しく解説します。

HIFとは、英語でhypoxia inducible factorといい、その頭文字をとったもので、hypoxiaは低酸素、inducibleは誘導される、factorには因子という意味があります。ですので、日本語でHIFは、「低酸素誘導因子」と呼ばれています。

hypoが低いとか少ないという意味で、oxiaがoxygen(酸素)からきています。

名前からも、どういう物質なのかはある程度分かり、低酸素によって、誘導されてくる、つまり低酸素になると増えてくる物質ということです。

ここでのポイントは、HIF(低酸素誘導因子)というのは低酸素に関係してくる物質だということです!

このHIFは、HIF-αとHIF-βをあわせて「HIF」といいます。

HIF-1αは全身の組織に広く発現していますが、主に尿細管上皮細胞、HIF-2αは血管内皮細胞や繊維芽細胞において発現すると報告されています。この2つのHIF-αには重複している部分もありますが、エリスロポエチンの産生には主にHIF-2αによる制御を受けています。HIF-3αは、胎盤で高度に発現しています。これらHIFのそれぞれのアイソフォームは、固有の役割があります。
PH(プロリン水酸化酵素)には、PH1、PH2、PH3の3つのアイソフォームがありますが、HIF-αの分解は主にPH2が関与していると考えられています。

HIF-αの安定と分解のメカニズム

引用:https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2019/press-release/

この図は、ノーベル賞の公式サイトから引用したもので、HIF-αの分解と安定、そして作用機序を解説したものになります。

英語で書かれていて、初めてみると意味不明だと思いますが、これから解説していきますので安心してください。

HIF-αの分解のメカニズム(通常の酸素状態)

HIF-αの分解の流れ
    1. HIF-αのプロリン残基が、PH(プロリン水酸化酵素)によって水酸化(-OHがつく)を受ける。
    2. 水酸化されたHIF-αは、VHL(プロリン水酸化酵素)を介したユビキチン化の標的となる。
    3. ユビキチン化されたHIF-αはプロテアソームによって分解される。

通常の酸素状態では、HIF-αのプロリン残基が、PH(プロリン水酸化酵素)によって水酸化(-OHがつく)を受けます。

PH(プロリン水酸化酵素)は、酸素依存性に活性をもち、HIF-αのプロリン残基を水酸化します。

水酸化されたHIF-αは、VHL(フォンヒッペルリンドウ)を介してユビキチン化されます。

HIF-αとVHL(フォンヒッペルリンドウ)が結合するためには、HIF-αのプロリン残基が水酸化(-OHがつくこと)されることが必要です。

ユビキチン化されたHIF-αはプロテアソームによって分解されます。

つまり、細胞の中に酸素が十分にある状態では、HIF-αはほとんど存在しないため、HIFの機能は抑制されています。

HIF-αの安定のメカニズム(低酸素状態)

低酸素の状態ではPH(プロリン水酸化酵素)は酵素活性を失います。ですので、HIF-αを水酸化することができません。

水酸化されないHIF-αはVHL(フォンヒッペルリンドウ)を介したユビキチン化を受けないため、HIF-αは低酸素の状態では分解されないということになります。

分解を免れたHIF-αは、細胞の核の中に移動して、そこでHIF-β(ARNT)と結合し、ヘテロダイマーを形成します。

このヘテロダイマーが、DNA上に存在するHREs(hypoxia-response elements)と結合することにより、エリスロポエチンを含む、標的遺伝子の転写が促進されます。

なお、HIFによって制御される遺伝子には、造血を促進するエリスロポエチン、血管新生を促進する血管内皮増殖因子(VEGF)、嫌気的代謝を促進するピルビン酸脱水素酵素キナーゼなどがあり、私たちはこれらの物質を介して、低酸素の環境に適応しようとします。

まとめ:HIF-αの安定と分解のメカニズム

引用:https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2019/press-release/

  1. 通常の酸素状態
    →HIF-αは常に分解されるので機能しない
  2. 低酸素状態
    →HIF-αは分解されず、転写因子として機能する

ようするに、通常の酸素状態ではHIF-αは常に分解されていて、HIFとしての作用を発揮することができません。

しかし低酸素状態では、HIF-αは分解されず、細胞の核の中に移動して転写因子として作用します。

HIF-PH阻害薬の種類

商品名 一般名
エベレンゾ錠20mg/50mg/100mg ロキサデュスタット
バフセオ錠150mg/300mg バダデュスタット
ダーブロック錠1mg/2mg/4mg/6mg ダブロデュスタット

2020年11月現在、国内で発売されているHIF-PH阻害薬は上記の3種類です。

ロキサデュスタット(商品名:エベレンゾ錠)

一般名 ロキサデュスタット
商品名 エベレンゾ錠20mg/50mg/100mg
効能・効果 透析施行中の腎性貧血
用法・用量 週3回経口投与
製造販売 アステラス製薬(株)

添付文書:エベレンゾ錠20mg/50mg/100mg

エベレンゾ錠は世界初の腎性貧血治療薬で、日本では2019年11月20日に発売となっています。

エベレンゾ錠の名前の由来は、山脈のいただき、エベレスト「Everest」と酵素阻害薬を意味する「Enzyme inhibitor」を合わせてEVRENZO(エベレンゾ)です。なぜエベレストなのかというと、作用機序をみればわかりますが、体内を疑似的に低酸素状態にする=高地にいるのと同じ状態にする、高地といえば「エベレスト」という流れです。

適応としては、透析施行中の腎性貧血に限定されています。

バダデュスタット(商品名:バフセオ錠)

一般名 バダデュスタット
商品名 バフセオ錠150mg/300mg
効能・効果 腎性貧血
用法・用量 1日1回経口投与
製造販売 田辺三菱製薬(株)
(コプロモーション:扶桑薬品工業(株))

バフセオ錠は、2020年8月26日に国内で発売が開始となっています。

適応としては、エベレンゾ錠と違い、透析患者さんだけでなく、透析をまだ導入していない保存期のCKD患者さんにも使用できます。

ダブロデュスタット(商品名:ダーブロック錠)

一般名 ダブロデュスタット
商品名 ダーブロック錠1mg/2mg/4mg/6mg
効能・効果 腎性貧血
用法・用量 1日1回経口投与
製造販売元 グラクソ・スミスクライン(株)
販売元 協和キリン(株)

ダーブロック錠もバフセオ錠と同じく、2020年8月26日に国内で発売が開始となっています。

適応としては、エベレンゾ錠と違い、透析患者さんだけでなく、透析をまだ導入していない保存期のCKD患者さんにも使用できます。

HIF-PH阻害薬とESAの違い

従来のESAを使った治療は、体内で不足するエリスロポエチンを直接補充するというものです。

それに対しHIF-PH阻害薬は、自分自身の体内でエリスロポエチンを産生させるのを促進させます。

エリスロポエチンってなに?という方は下記の記事をご覧くださいませ。

腎臓から出るエリスロポエチンとはなに?簡単にわかりやすく解説してみた

それだけでなく、HIF-PH阻害薬には、鉄吸収や鉄利用に関係する遺伝子の発現調節を介して、鉄の利用効率を高めことが期待されています。

まとめ:HIF-PH阻害薬の作用機序

HIF-PH阻害薬は、プロリン水酸化酵素(PH)を阻害する薬です。

通常の酸素状態では、HIF-αはPH(プロリン水酸化酵素)を介して分解されるため、細胞内にはほとんど存在していません。

常に細胞内では、酸素濃度の高い・低いに関係なく、HIF-αは一定量産生されています。しかし、酸素が十分にある状態ではHIF-αはPH(プロリン水酸化酵素)を介してすぐに分解されてしまいます。

しかし、HIF-PH阻害薬を内服することで、PH(プロリン水酸化酵素)を阻害することで、HIF-αの分解を阻害します。

その結果、HIF-αが転写因子として機能して、遺伝子に作用してエリスロポエチンの産生を促進します。

それだけでなく、HIF-PH阻害薬には、鉄吸収や鉄利用に関係する遺伝子の発現調節を介して、鉄の利用効率を高めことが期待されています。

 

 

というわけで、今回はHIF-PH阻害薬の作用機序について解説してみました。少しでも参考になれば幸いです。

 

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