臨床工学技士の秋元です。
本記事では、透析のときに使う低分子ヘパリン(LMWH)の種類(商品名+有効成分名)を紹介したいと思います。
低分子ヘパリンの特徴としては、抗Xa/トロンビン活性比が未分画ヘパリンよりも高く(相対的にトロンビンを阻止しにくい)、このため出血の副作用が少ないことがあげられます。
この低分子ヘパリンには、ヘパリンの分解方法や分子量分布により、主に以下の3つの有効成分が透析では使用されています。
- パルナパリンナトリウム
- ダルテパリンナトリウム
- レビパリンナトリウム
目次
透析のときに使う低分子ヘパリン(LMWH)の種類【商品名も紹介】
販売名(商品名) | 有効成分 | 平均分子量 |
---|---|---|
ローヘパ透析用®100単位/mLシリンジ20mL 添付文書 |
パルナパリンナトリウム | 4,500~6,500 |
ローヘパ透析用®150単位/mLシリンジ20mL | パルナパリンナトリウム | 4,500~6,500 |
ローヘパ透析用®200単位/mLシリンジ20mL | パルナパリンナトリウム | 4,500~6,500 |
ミニへパ透析用®500単位/mL バイアル10mL 添付文書 |
パルナパリンナトリウム | 5,000 |
フラグミン静注5000単位/5mL 添付文書 |
ダルテパリンナトリウム | 約5,000 |
ダルテパリンNa静注5000単位/5mL「日医工」 添付文書 |
ダルテパリンナトリウム | 4,400~5,600 |
リザルミン®静注5000単位/5mL 添付文書 |
ダルテパリンナトリウム | 約5,000 |
クリバリン®透析用1000単位/mL バイアル5mL 添付文書 |
レビパリンナトリウム | 約4,000 |
透析で使われる低分子ヘパリン(LMWH)の種類には上記のものがあります。
それぞれの低分子ヘパリンの違い
それぞれの低分子ヘパリンは、平均分子量が若干異なっています。
そのため、抗Xa/抗Ⅱa活性比に違いが出てきます。ただし、実際の臨床上、優位に抗Xa/抗Ⅱa活性比で説明できるような違いはありません。
低分子ヘパリンの作用機序
低分子ヘパリン(LH:low molecular weight heparin)は、主にAT-Ⅲと結合して、凝固因子の第Xa因子の活性を阻害することで、抗凝固作用を発揮しています。
各低分子ヘパリンの投与量
各低分子ヘパリンの投与量は、同じ単位数でかまいません。
つまり、自施設でパルナパリンナトリウムを採用していて、他院でダルテパリンナトリウムをワンショット500単位、持続300単位/時間で使用していた方が自施設にこられたとします。この場合、パルナパリンナトリウムをダルテパリンナトリウムと同じ分量(ワンショット500単位、持続300単位/時間)投与して透析をおこなって大丈夫です。
血液透析では、軽度の出血傾向のある人などに、この低分子ヘパリンはよく使われています。
低分子ヘパリンの半減期
低分子ヘパリンの半減期は2~3時間です。
したがって、透析時間が4時間であれば、透析開始時のワンショットのみでも問題なく治療をおこなえます。
低分子ヘパリンはACT測定によるモニタリング不可
低分子ヘパリンはトロンビン阻害作用が弱いためACT測定によるモニタリングができません。
低分子ヘパリンは透析で除去される?
低分子ヘパリンは、平均分子量が5000くらいですので、ある程度透析で除去されると考えられますが、実際にどの程度除去されるのかは不明です。
出血傾向のある患者に低分子ヘパリンを使う理由
低分子ヘパリンは、主にAT-Ⅲと結合して、凝固因子の第Xa因子の活性を阻害することで、抗凝固作用を発揮しています。
低分子ヘパリンの特徴は、未分画ヘパリン(いわゆるヘパリンと呼ばれているもの)に比べて、Ⅱaを抑制する作用は小さく、Xaを抑制する作用は強いです(1)。
ポイント:低分子ヘパリン(LMWH)の抗凝固作用は、主にXaの抑制作用
体外循環回路の抗凝固作用は、Xaの抑制作用に依存していることが知られています。
また、Ⅱaを抑制する作用が小さいため、血液本来の凝固能の低下が少ないです。
ですので、低分子ヘパリンと未分画ヘパリンで、同一のXa抑制作用を示した場合、APTTの延長時間が低分子ヘパリンのほうが短くなります。
(一般に低分子ヘパリンはAPTTを延長させないといわれています)
以上のことをまとめると、低分子ヘパリンは、回路内での抗凝固作用をしっかりと発揮しつつ(Xaの抑制作用が強く)、にもかかわらず血液本来の凝固能の低下が少ないため(APTTを延長させないので)、出血を助長する危険性が少ないということです。
Xaの阻害だけでいいの?
低分子ヘパリンの抗凝固作用は、主にXaの抑制作用です。
血液凝固機序には、内因系と外因系がありますが、両者の経路はXa因子をつくるという点で共通しています。
ですので、Xa因子を阻害することは、抗凝固作用を効率的におこなうために重要です。
また、トロンビンの直接的な阻害と比較して、活性型第X因子の阻害では、止血に必要な最小限のトロンビンはつくられますので、出血性の副作用は小さくなります。
つまり、抗Xa薬のほうが、抗トロンビン薬よりも出血性の副作用は少ないというわけです。
というわけで今回は以上です。
一言に低分子ヘパリン(LWMH)といっても、色んな商品がありますが、平均分子量に若干の違いがあるのみで効果に大きな違いはなく、投与量も同じ単位数でかまいません。