サイトアイコン 透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】

心不全 NPPV:2025年ガイドライン対応|適応・初期設定・禁忌を最短整理

最初に結論

急性心不全に伴う呼吸不全では、禁忌がなければNPPV(CPAP/BiPAP=S/T)を早期導入します。
対象は、強い呼吸困難・頻呼吸・呼吸補助筋使用などの臨床所見に加えて、動脈血ガスで低酸素血症優位(PaO2/FiO2<200)または高二酸化炭素血症を伴うアシドーシス(PaCO2≧45 mmHg かつ pH<7.35)を示す患者です。
導入後30–60分で反応を再評価し、改善が乏しければ挿管へ切り替えます。初期設定はCPAP 5–10 cmH2O、またはS/T:IPAP 10–12 / EPAP 3–5 cmH2Oを起点に、酸素化(EPAP/PEEP)と換気(IPAP/PS)を分けて最小必要量で設定します。

この記事のゴール(30秒で要点)

参考文献:ERS/ATS NIVガイドライン 2017ESC 2021 急性心不全レビューBTS 酸素療法ガイドライン(要約)

NPPVとは?【S/TとCPAP】

NPPV(非侵襲的陽圧換気)は、気管挿管を行わずにマスクで陽圧をかける人工呼吸です。

主なモードにはCPAPと、二相性のBiPAP(S/Tモード)があります。

心不全では、酸素化の改善(肺胞虚脱の防止)に加え、前負荷・後負荷の同時軽減で呼吸苦を速やかに和らげます。

参考文献:日本呼吸器学会 NPPVガイドライン 改訂第2版ERS/ATS 2017

心不全関係のガイドラインでは、NPPVについては呼吸数>25回/min、SpO2<90%の場合や、SpO2≧90%でも起坐呼吸やあえぎ呼吸など強い呼吸困難を伴う場合などを開始の目安として挙げています。

S/Tとは(かんたん解説)

S/T(Spontaneous/Timed)二相性陽圧換気(BiPAP)で、吸気の高さ(IPAP)呼気の底(EPAP)の2つの圧を使い分けます。

基本は患者さんの自発呼吸に合わせて補助し(Spontaneous)、ペースが落ちたり止まりそうな時は、あらかじめ設定した回数で“最低限の息継ぎ”を機械が補う(Timed)仕組みです。

IPAPで「息を吸う仕事」を肩代わりするので、呼吸筋疲労の軽減とPaCO2低下が期待できます。

参考文献:日本呼吸器学会 NPPVガイドライン 改訂第2版

CPAPとは(かんたん解説)

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)は、吸う時も吐く時も同じ圧(=EPAP=PEEP)を一定に保つ方法です。しぼみかけた風船を少し膨らませたままにしておくイメージで、肺胞がつぶれにくくなり酸素が取り込みやすくなります。同時に胸腔内圧が少し上がることで、左室が血を送り出す時の圧較差(後負荷)が下がり、静脈から戻る血の量(前負荷)も軽減します。

参考文献:ESC 2021 急性心不全レビューERS/ATS 2017

S/TとCPAPの違い(要点)

参考文献:ERS/ATS 2017日本呼吸器学会 NPPVガイドライン

適応と導入タイミング(いつNPPVを選ぶか)

対象となる急性呼吸不全の具体像

参考文献:ESC 2021 急性心不全レビューERS/ATS 2017

30–60分での反応評価(継続か挿管か)

適切な介入後でも SpO2が保てない、P/Fが大きく改善しない、pH<7.20や呼吸数持続高値、循環不安定が続く場合は挿管へ切替を検討します。

参考文献:ERS/ATS 2017

NIV失敗予測:HACORスコア

HACOR(心拍数・Acidosis・意識・酸素化・呼吸数)を導入後1時間で再評価し、>5ならNIV失敗リスクが高いため早期の挿管を強く検討します。

参考文献:Critical Care 2022(Updated HACOR)Review 2022(HACORの予測力)

参考文献:ESC 2021 急性心不全レビューERS/ATS 2017

禁忌と「最初から挿管」すべき状況

絶対禁忌/相対禁忌の整理

参考文献:日本呼吸器学会 NPPVガイドラインERS/ATS 2017

NPPVの初期設定【CPAPとS/T】

モード選択と開始値

参考文献:Cochrane 2019(ACPEのNIV)ERS/ATS 2017

圧調整のコツ(EPAP=酸素化/IPAP=換気)

参考文献:日本呼吸器学会 NPPVガイドライン

酸素化目標とFiO2

SpO2目標は94–98%(COPDなど高CO2リスクは88–92%)。過度の高酸素は避け、目標を満たす最小FiO2で調整します。

参考文献:BTS 2017 Oxygen guideline

NPPVはなぜ効くのか(循環生理の要点)

前負荷・後負荷を同時に軽減する

陽圧で胸腔内圧がわずかに上がると、左室が血を送り出す時の圧較差(transmural pressure)が下がり=後負荷が軽減します。同時に静脈還流が適度に抑えられて前負荷が軽減され、肺うっ血の悪循環を断ち切ります。

参考文献:ESC 2021 急性心不全レビュー

後負荷軽減【図解で説明】

収縮期の左室内圧は大動脈圧と等しいです。

収縮期血圧を100mmHgと仮定した場合、胸腔内圧が-10mmHgの場合には(左図)、胸腔内圧は矢印のとおり左室の収縮と逆になります。
一方、胸腔内圧が+10mmHgの陽圧時(右図)には矢印の方向は逆になり、左室の収縮を後押しする方向に働き、後負荷が軽減します。

心原性肺水腫になぜNPPVが効くのか

心原性肺水腫は、左室うっ血で肺毛細血管圧が上がり、間質→肺胞へ水がしみ出してガス交換面積が減ることで低酸素血症になります。

NPPVは、
①肺胞を開いたまま保つ(EPAP/PEEPで虚脱防止→酸素化↑)
②肺毛細血管の実効圧を下げてうっ血を和らげる
③左室の後負荷を下げて駆出を助ける
④前負荷を軽減する
さらに努力呼吸が強いときは⑤S/Tで吸気の仕事を肩代わり(IPAP)してPaCO2を是正
——という複合効果で、呼吸と循環を同時に立て直します。

参考文献:ERS/ATS 2017ESC 2021 急性心不全レビュー

効果と限界(心原性肺水腫でのアウトカム)

挿管率・死亡のエビデンス

総合的には、NPPV(CPAP/S/T)は挿管・院内死亡の低下に寄与する可能性が示されています(Cochrane 2019)。一方、3CPO試験(NEJM 2008)単独では早期改善はあるものの死亡差は示されず、エビデンスは統合的に判断します。

参考文献:Cochrane 2019(ACPEのNIV)NEJM 2008(3CPO)

導入前の最終チェック

禁忌の除外・原因確認・装着準備

参考文献:日本呼吸器学会 NPPVガイドラインERS/ATS 2017

まとめ(チェックリスト)

参考文献:Cochrane 2019ERS/ATS 2017ESC 2021 急性心不全レビューBTS 2017 Oxygen guideline

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