臨床工学技士のナキです。
今回は、実際に末梢血幹細胞採取に従事している臨床工学技士、臨床検査技師や看護師さんに向けて、末梢血幹細胞採取に必要な知識をまとめてみました。
目次
末梢血幹細胞採取とは?
末梢血幹細胞採取とは、G-CSFなどで骨髄内の造血幹細胞を末梢血へ動員したうえで、Spectra Optiaという装置を用いて、循環血から造血幹細胞を分離・採取することです。
採取した細胞は、自家/同種造血幹細胞移植に用いられます。
参考:Stem Cell Transplants in Cancer Treatment
採取手順と装置設定【Spectra Optia】
ここでは、Spectra Optiaの実際の設定項目の解説をしていきます。
基本パラメータ
上記はあくまで目安です。
AIMとは?
光学センサで「採取ポートを通る細胞濃度」を常時監視し、血漿ポンプの流量を自動で調整して分離層(インターフェイス)を安定させる制御システムのことです。
遠心分離でできる層(血球層と血漿層)の位置を、この血漿ポンプの流量を調整することで、採取ポートを流れる細胞濃度を安定させています。
参考:Spectra Optia Operator’s Manual
インターフェイスとは?
インターフェイスとは、遠心分離チャネル内で形成される層の「境目」のことです。具体的には、赤血球層と血漿層のあいだに生じるバフィーコート(白血球・血小板が集まる薄い層)付近の境界のことです。ここをどの位置に保つかで「どの成分が採取ポートに流れ込むか」が左右されます。
AIMとインターフェイスの関係
すなわち、インターフェイス=チャネル内の境界層(主に血漿/赤血球)のこと。AIMはここを光学センサで監視し、血漿ポンプの流量で微調整して、目的成分の採取を狙っているということです。
バフィーコート
バフィーコートとは、遠心力により血漿と赤血球の間にできる白色の薄い層のことです。主に白血球(単核球・顆粒球)と血小板が集まった部分です。
末梢血幹細胞採取では、このバフィーコートを狙うことで、目的の造血幹細胞を採取することができます。
採取プリファレンス(CP)
採取プリファレンス(CP)は、AIMが採取ポートを流れる細胞濃度の目標値として参照する値です。
CMNCではCP=50がデフォルトの設定となっており、状況に応じてCPを上下させます。
例えばCPを下げた場合、赤血球層寄りに狙いをつけて採取することになり、採取する細胞濃度を上げること(採取バッグは赤みが強くなります)ができますが、RBCの混注に注意が必要です。
逆にCPを上げる場合、血漿層側寄りに狙いをつけて採取することになるため細胞濃度は減ります(採取バッグの赤みは薄くなります)。
ようするに、CPはバフィーコートのどれくらいの位置で採取するかの目標値です。
代表的な合併症と対策
クエン酸反応(低Ca)
抗凝固薬であるACD(クエン酸)がイオン化カルシウムをキレートして、低Ca血症となり、しびれ(口周囲・指先)、筋痙攣、悪心、めまい、重症例ではテタニー不整脈などが起こることがあります。
対応:iCaを経時的に測定、カルチコールの持続投与。AC注入率を下げる。
VVR(血管迷走神経反射)
徐脈・血圧低下・冷汗がみられたら、体位調整・会話で安心させて、輸液などで対応します。
穿刺・血管トラブル
返血圧上昇・脱血不良は安全優先。無理に続けず、仕切り直しも選択肢です。
よくある質問(F&Q)
採取はいつ始めますか?
末梢血CD34+が10〜20/µLの範囲に入ったら開始を検討します。10/µL未満は動員不十分のサインです。
目標のCD34+量はどのくらいですか?
最低 2×10^6個/kg、可能なら5×10^6個/kgを目標にします。
低Ca対策はどうしますか?
クエン酸反応の予防としてCa製剤の持続投与を行います。イオン化Caの確認とAC比の調整をセットで行います。
取れが悪いときの対応は?
初回で目標の1/3未満しか採れない場合は、次回にプラリキサフォル(モゾビル)の追加を検討します。化学療法歴や骨髄抑制も評価します。
採取時間が長引くときの優先順位は?
採取よりも安全を優先します。
患者さんの症状や回路トラブルが続く場合は、採取に固執せずに、翌日に仕切り直して採取することを考慮します。
まとめ
- 開始は末梢血CD34+ 10〜20/µL、目標は2〜5×10^6個/kgが目安です。
- Spectra Optiaの設定はAC 12〜13:1/CP 50前後/から始め、症状と混入で微調整します。
- 低Ca・VVRは予防と早期対応で安全に進めます。CE1/CE2は次回の設定調整に活かします。
※本記事は一般的な目安です。各施設のプロトコール、装置マニュアルに従って運用してください。