目次
この記事のゴール
「小児」「肝不全」「血漿交換(PEX)」の基礎を、看護の視点で短時間に把握します。まず“何のために行うか”を押さえ、次に“いつ・どう併用するか(CHDFなど)”と“観察ポイント”を整理します。
参考文献:NASPGHAN/ESPGHAN 小児急性肝不全ポジションペーパー(2022)
小児の急性肝不全とは?(まず全体像)
急に肝機能が悪化し、凝固障害(PT/INRの悪化)や肝性脳症が進む状態です。原因は年齢で異なり、乳児では代謝性疾患、学童期以降ではウイルス・自己免疫性肝炎などが含まれます。治療は集中ケア+原因治療に加え、必要に応じて人工肝補助(PEXやCHDF)を使い、肝移植や自己回復までを“つなぐ”ことが目的です。
参考文献:EASL Acute Liver Failure ガイドライン(2017)/NASPGHAN/ESPGHAN 2022
小児の急性肝不全をやさしく解説
肝臓は「栄養の処理」「有害物質の解毒」「血を固める因子を作る」など多くの仕事をしています。急性肝不全では、これらの働きが短期間で弱まり、出血しやすくなる(凝固因子が不足)、意識が悪くなる(アンモニア上昇→脳浮腫)といった問題が同時に起こります。子どもは体が小さく、悪化も回復も早いのが特徴です。そこで、必要な成分を外から補充しながら、血液中の有害な物質を減らす治療を組み合わせ、肝臓が回復するまで/移植が決まるまでを安全に乗り切ります。
なぜ血漿交換(PEX)を行うの?
役割:不足因子の補充と、血漿成分の入れ替え(置換)
PEXは患者さんの血漿を入れ替える治療です。肝不全で作れなくなった凝固因子を補充するだけでなく、血漿を入れ替えることで血中の有害な物質を減らすという側面もあります(例:アルブミンに結合した物質や炎症関連物質など)。つまり、「補充」と「入れ替え(除去)」の両方をねらいます。
参考文献:ASFA アフェレシスガイドライン(2023)/Larsen ら, N Engl J Med(2016)
いつ考える?(目安のイメージ)
出血傾向が強い、PT-INRが大きく延長している、ビタミンKやFFPを投与しても改善がみられないときに検討されます(最終判断は主治医)。
参考文献:EASL 2017/NASPGHAN/ESPGHAN 2022
どれくらい入れ替える?(置換量の目安)
小児のPEXは体重×100〜150 mL/kg/回が目安です。例:体重10 kgなら1.0〜1.5 Lを入れ替えます。施行は6〜10時間(slow PEX)で行う報告が多く、別法として約100 mL/kgを6〜8時間で回す設定もあります。出血リスクや循環動態、採血結果(PT/INR・フィブリノゲンなど)を見ながら調整します。
参考文献:ASFA 2023/NASPGHAN/ESPGHAN 2022
CHDFは何をしているの?(PEXとの役割分担)
CHDFのねらい:水溶性の有害物質を連続的に除去する
肝不全ではアンモニアなどが上がり、脳浮腫の原因になります。CHDF(持続血液浄化)はこうした水溶性の物質を連続的に除去していく治療で、脳症の悪化を防ぐ“時間稼ぎ”になります。
参考文献:小児高アンモニア血症と腎代替療法の国際コンセンサス(2020)/Deep ら, Pediatr Crit Care Med(2016)
PEX+CHDFの並走:どう良い?
PEXは補充+入れ替え、CHDFは連続的な除去と役割が違うため、併用で互いを補完します。FFP由来のクエン酸でカルシウムが下がるなどの電解質異常が生じても、CHDF側で補正しやすくなります。
参考文献:ASFA 2023/NASPGHAN/ESPGHAN 2022
置換量の計算早見(小児PEX)
計算式と目安
置換量(mL/回)= 体重(kg) × 100〜150(mL/kg)
施行時間の目安:6〜10時間(slow PEX)/別法:約100 mL/kgを6〜8時間
参考文献:ASFA 2023/NASPGHAN/ESPGHAN 2022
予後をよくできる可能性は?
成人データだがヒントになる研究
成人の高用量血漿交換(High-volume PEX)では、移植なしで生き残る割合が増えたという質の高い研究があります。小児にそのまま当てはめることはできませんが、「補充+入れ替え(置換)」と「連続的な除去」を適切に組み合わせるという考え方の参考になります。
参考文献:Larsen ら, N Engl J Med(2016)
よくある質問(Q&A)
Q1. PEXだけで脳症は良くなりますか?
A. 脳症の背景となるアンモニアなどはCHDFの方が減らしやすいです。多くの場合はPEX+CHDFの併用で対応します。
参考文献:小児高アンモニア血症コンセンサス(2020)/Deep ら(2016)
Q2. PEXの置換量の目安は?
A. 体重に応じて100〜150 mL/kg/回を基本に、病状に合わせて時間は6〜10時間程度(slow PEX)で調整します。別法として約100 mL/kgを6〜8時間とする設定もあります(最終的な処方は主治医の指示に従います)。
参考文献:ASFA 2023
まとめ
PEXは「補充+入れ替え(置換)」の治療、CHDFは「連続的な除去」の治療。役割の違いを踏まえて併用することで、出血リスクの低減と脳症の進行抑制を同時にねらいます。看護は「出血」「意識・アンモニア」「電解質・水分」「連携」の4点を押さえると、チームの中で力を発揮できます。
参考文献:NASPGHAN/ESPGHAN 2022/EASL 2017/ASFA 2023
