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血漿交換の基本:置換液・処理量・注意点を新人看護師・臨床工学技士向けに解説

アフェレシスの現場で頻出する単純血漿交換(PE)。しかし「置換液はFFPとアルブミンのどちら?」「1回の処理量はどれくらい?」「低Ca血症や血圧低下の注意点は?」など、新人看護師・臨床工学技士が最初につまずきやすいポイントは少なくありません。この記事では、血漿交換の基本を明日から使える実務目線で解説します。

置換液の選び分け(FFP/アルブミン/併用)、標準的な処理量の考え方、モニタリングと合併症対策(低Ca血症・循環変動・アレルギー)を、最短で理解できる構成にしました。用語はできるだけ平易に、チェックリストや計算のコツも添えています。

この記事でわかること

読み終えれば、単純血漿交換について一通りわかります。まずは基本を正しく押さえ、病態に応じて応用していきましょう。

単純血漿交換とは:目的・仕組みの基本

血漿交換とは、血漿分離器や遠心分離機を用いて、血液を血球成分と血漿成分に分離することによって行う治療です。

英語ではplasma exchange(PEX)とも呼ばれます。

アルブミン、フィブリノゲン、IgMやIgGをはじめ分子量の大きなタンパク質を含む、すべての血漿の除去が可能です。

一方、体内に必要なアルブミンや凝固因子なども除去されてしまいます。

参考:アフェレシスとは,日本アフェレシス学会

単純血漿交換の目的

血漿交換の目的は、体外循環で血漿中の病因物質(自己抗体・免疫複合体・毒素・異常タンパクなど)を速やかに除去し、臓器障害の進行を抑えて症状を安定化させることです。

廃棄と置換の概念

単純血漿交換では、血漿分離器や遠心分離機を用いて、血液を血球成分と血漿成分に分離し、血漿は廃棄します。それと同時に、廃棄した分の同量の置換液(アルブミンやFFP)を患者さんに補充(置換)します。

単純血漿交換の主な適応疾患

単純血漿交換は、血漿中の”悪さをする物質”を早く減らす治療法です。

単純血漿交換の主な適応疾患は、ギランバレー症候群、重症筋無力症、多発性骨髄腫、視神経脊髄炎、全身性エリテマトーデス、劇症肝炎、急性肝不全、術後肝不全、ABO不適合移植などです。

置換液の選択:アルブミンかFFP

置換液に関しては、出血リスクのない自己免疫疾患(ギランバレー症候群、重症筋無力症など)ではAlbが第一選択です。欠点は、血液凝固因子の補充をおこなうことができないため、出血リスクが高い患者さんには不向きということです。

FFPは、血液凝固因子などを含むため、TTP、重症肝不全、劇症肝炎、ANCA関連血管炎などでは第一選択です。欠点はアレルギーが起こりやすく、また低Ca血症となってしまうためカルチコールでのCaの補充が必要なことです。

各置換液の特徴(FFP置換/アルブミン置換)

FFPの主なデメリットは、アレルギー、未知のウイルス感染、低Ca血症、輸血関連急性肺障害(TRALI)です。特に、痒みや発疹などのアレルギーはかなりの頻度でみられます。

FFPには抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが含まれています。このクエン酸は血中のカルシウムイオンとキレート結合します。その結果、低Ca血症を引き起こす可能性があります。したがって、FFP置換での血漿交換の場合は、カルチコールといったCa製剤を持続投与しながら、カルシウムイオンを適宜測定して血漿交換を実施します。

また厚生労働省から出ている血液製剤の使用指針においても凝固因子の補充を必要としない血漿交換の置換液として、Alb製剤の使用が強く推奨されています。

アルブミン製剤の場合、FFPと比較して感染症やアレルギーなどの副作用の危険が少なく、安全に治療をおこなうことができます。

ただアルブミン製剤には、凝固因子やグロブリンが含まれていないため、頻回にAlb置換の血漿交換をおこなった場合、易出血や易感染症に注意をする必要があります。

症例別の使い分け(自己免疫はAlb中心)

FFPには、アレルギー、未知のウイルス感染、輸血関連急性肺障害(TRALI)といった副作用があるため、凝固因子の補充を必要としない、あるいは出血のリスクが高くない患者さんでは、アルブミン溶液を置換液の第一選択とします。

実際、FFPを置換液に単純血漿交換を実施すると、高率で皮膚の痒みや発疹といったアレルギー症状が出現します。

治療条件の決め方:処理量など

治療条件の決め方、具体的にどれくらいの血漿を処理すればよいのかなどについて解説します。

推定血漿量(PV)の計算式

体内の血液量は概ね体重の1/13とされています。また血漿量は、血液量×(1-Ht (%))と考えるため、体内血漿量は上記の計算式で求めることができます。

大半の施設で、この1~1.5倍(通称:1~1.5PV)の処理量で血漿交換を実施しています。

自己免疫疾患などであれば、1~1.2PV処理すれば十分かと思います。

血漿処理量について

単純血漿交換では0.5PVで39%、1.0PVで63%、1.5PVで78%、2.0PVで86%、3.0PVで95%の血漿を除去することが可能です。しかし、1.5PV以上処理しても、除去率はそこまで増加しません。

また、例えばターゲットであるIgGは血管外にも分布しています。血漿交換終了後には血管外から血管内に移行します。したがって、一回で過剰に血液を処理(置換)するよりも、1.0~1.5PV程度を複数回の方が効率的です。

加えて処理量を増やすほど、凝固因子低下による出血のリスク上昇、クエン酸負荷による低Ca血症のリスク上昇があります。

したがって治療時間の延長やコスト、有害事象の可能性を考えると多くても1.5PV程度までの血漿処理量が適切と考えられます。

参考:Kaplan AA. Therapeutic plasma exchange: Core Curriculum 2008. Am J Kidney Dis. 2008;52(6):1180–1196.

血漿処理量について(米国アフェレシス学会 ガイドライン)

ASFA(米国アフェレシス学会)が作成したガイドライン「Guidelines on the Use of Therapeutic Apheresis in Clinical Practice – Evidence-Based Approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: The Eighth Special Issue」では、単純血漿交換の1回あたりの処理量は1~1.5PVが標準と明記されています。

血液流量と分離速度の目安

血液流量の速度は60~120ml/minとするのが一般的です。

血漿の分離速度は、血漿分離器での溶血を防ぐために、最大でも血液流量の30%です。

つまり、血液流量が100ml/minであれば、血漿分離速度は最大で30ml/minとなります。

血管アクセス選択(短期留置カテーテル/皮静脈)

一般的に、右内頸静脈に短期留置カテーテルを挿入することが多いです。

ただし、皮静脈が発達していて、十分な血液流量(80ml/min)程度の脱血流量が得られるのであれば、皮静脈を選択することもあります。

抗凝固薬の選択とCa補正

ヘパリン/ナファモスタットの選び方

一般の維持透析と同じで、出血傾向がない場合にはヘパリンを選択し、ACTは150~180秒程度でコントロールします。

しかし、単純血漿交換をおこなう症例の場合は、出血傾向がある場合も多く、この際にはメシル酸ナファモスタットを使用します。投与速度は30~40mg/hが一般的です。

低Caに注意

FFPにはクエン酸が含まれていて、このクエン酸が血中のカルシウムイオンとキレート、簡単にいえば結合してしまい、血中のカルシウムイオンが低下して、低Ca血症となることがあります。

とくに肝疾患では、クエン酸の代謝が低下しているため、血中のカルシウムイオンはさらに低下しやすいです。

低Ca症状では、テタニー症状(口唇周囲のしびれ、不随意な筋収縮など)が出現します。さらに進行すると、心筋脱分極のプラトー期が延長することにより(QT延長)、致死的不整脈をきたす可能性があります。

低Ca血症の予防

FFPには抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが含まれています。このクエン酸は血中のカルシウムイオンとキレート結合します。その結果、低Ca血症を引き起こす可能性があります。

したがって、FFP置換での血漿交換の場合は、カルチコールといったCa製剤を持続投与しながら、カルシウムイオンを適宜測定して血漿交換を実施します。

なお、血漿交換とHDを同時に実施している場合は、カルチコールは不要です。

まとめ

単純血漿交換(PE)は、血漿中の自己抗体・免疫複合体などの病因物質を置換して迅速に減らす治療です。

置換液は原則アルブミン、ただし凝固因子の補充が必要なTTPや重症肝不全ではFFPを選択します。

1回の処理量は患者の循環血漿量(TPV)の1.0〜1.5倍が標準で、1.5倍以上では除去効率の上乗せが小さく、安全性・コスト面のメリットがあまりありません。

血漿交換中はクエン酸負荷による低Ca血症、血圧低下、アレルギー(FFP)に注意しましょう。

 

というわけで、新人看護師・臨床工学技士向けに単純血漿交換の基礎について解説しました。少しでも参考になれば幸いです。

 

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