サイトアイコン 透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】

プラズマリフィリングとはなに?【膠質浸透圧・速度】

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

先日下記のツイートをしました。

上記のツイートのとおり、透析中の血圧低下の最大原因は除水による循環血漿量の低下です。

知ってのとおり、透析では血管内の水分からしか除水することができません。

しかし、血漿の量(血液の量ではありません)は体重の5%とされていて、1回の透析では体重の5%程度除水することもありますが、血液の水分である血漿はゼロにはなりません。

その理由は、血管外から血管内への水分の移動であるプラズマリフィリングがあるからです。

そこで本記事では、透析室で働いているスタッフには絶対知ってほしい、プラズマリフィリングについてわかりやすく解説したいと思います。

なお、プラズマリフィリングをきちんと理解するためには「膠質浸透圧」と「血漿浸透圧」の2種類の浸透圧について理解しておく必要がありますので併せて解説します。

浸透圧とは分子が水を引き付ける力のことであり、分子の数に比例します。

プラズマリフィリングとはなに?【膠質浸透圧・速度】

 単純に考えると,透析で除水をすればするほど循環血漿量はどんどん減り,血圧もどんどん下がってしまうように思いますが,実際には除水をおこなっても大抵の場合,血圧は維持されます.そのメカニズムのひとつとしてプラズマリフィリングによる循環血漿量の調節機構があります1)

プラズマリフィリングとは,循環血漿量が減少した場合に,血管内の膠質浸透圧によって間質液(体重の15%)から血管内へ水分が移動してくることを指します.

引用:〜至適透析を理解する〜 血液透析処方ロジック

上記で引用した書籍「~至適透析を理解する~血液透析処方ロジック」では、プラズマリフィリングとは、循環血漿量が減少した場合に、血管内の膠質浸透圧によって間質液が血管内に移動してくるとされています。

しかし、膠質浸透圧に限定されず、他の文献などでは血管外から血管内への水分の移動のことを「プラズマリフィリング」としていることが多いです。

ちなみに、プラズマとは「血漿」のことで、リフィリングには「再充填」とか「補充」という意味があります。つまり、プラズマリフィリングを日本語に直訳すると「血漿再充填」という意味となります。

  • プラズマリフィリング:血管外から血管内への水分の移動のこと
  • プラズマ:血漿という意味
  • リフィリング:再充填、補充という意味

ここでプラズマリフィリングを理解するときに知っておかなければならない2つの浸透圧があります。

  1. 膠質浸透圧
  2. 血漿浸透圧(晶質浸透圧)

膠質浸透圧は血管の内外、血漿浸透圧(晶質浸透圧)は細胞内外の水分の移動に関与している浸透圧として一般的には知られています。

結論をいえば、透析における除水によって膠質浸透圧は上昇してプラズマリフィリングは促進します。

しかし、透析によるBUNなどの毒素の除去によって血漿浸透圧は低下して、プラズマリフィリングは阻害されます。

膠質浸透圧と血漿浸透圧(晶質浸透圧)について

細胞内外の水分移動は血漿浸透圧(晶質浸透圧)が規定し,血管内外の水分移動は膠質浸透圧が規定する.

引用:宮尾秀樹,すぐに役立つ輸液の知識,日本臨床麻酔学会第29回大会教育講演

  1. 膠質浸透圧:主にアルブミン
    血管内外の水分の移動に関わる。
  2. 血漿浸透圧(晶質浸透圧):電解質、尿素窒素、グルコースなど
    細胞内外の水分の移動に関わる

生体内の浸透圧には、膠質浸透圧と血漿浸透圧(晶質浸透圧)の2種類があります。

膠質浸透圧は、血管内血漿と間質液での体液移動に関与しています。

血漿浸透圧(晶質浸透圧)は、細胞内液と細胞外液の体液の移動に関与しています。

浸透圧の大きさ

浸透圧の大きさ
  • 膠質浸透圧:25mmHg
  • 血漿浸透圧(晶質浸透圧):5,600mmHg

1mOsm/kgH2O=19.3mmHg

基本的には血漿浸透圧のほうが桁数が2桁ほども大きいです(5,600mmHg対25mmHg)。

1モルの溶質が解けた水溶液が持つ浸透圧を1オスモル(Osm)といいます。生理学でつかわれる溶液浸透圧はミリオスモル(mOsm)で表現されます。

ただし、血管内皮細胞は臓器によって穴(内皮細胞間隙)の大きさが違いますので、膠質浸透圧の大きさにも違いがあります。

例えば、肝臓では内皮細胞間隙の穴は数百nmの大きさがあり、アルブミンの数nmよりも数十倍大きいので、膠質浸透圧は0mmHgです。

一方で、脳の血管の内皮細胞間隙はアルブミンをほぼ通さないので、膠質浸透圧は40mmHgと高めとなっています。また、脳の血管はアルブミンだけでなく、ナトリウムも通さないので、脳血管での血管内外の水分移動は血漿浸透圧(晶質浸透圧)が制御しています。

浸透圧の理解について不安な方は、下記の記事でわかりやすく解説していますので併せてご覧ください。

【図を多用】浸透圧とはなにかをわかりやすく解説してみた

膠質浸透圧とは?

  1. 血漿
    ほぼ水(91%)、その他にタンパク質(7%)、電解質、栄養素、老廃物、ホルモンなどが含まれる
  2. 膠質
    膠質とはコロイドのこと。コロイドとは粒子が液体中に分散したもの。
  3. 浸透圧

(血漿)膠質浸透圧とは、主にアルブミンによって引き起こされる浸透圧のことです。

血漿膠質浸透圧とは、「血漿の中の膠質によって引き起こされる浸透圧」という意味です。
血漿中のアルブミン濃度は3.5~5.5g/dLで、間質液中のアルブミン濃度は約1.5g/dLです。

臨床的には、血漿タンパクの6割を占めるアルブミンが1g/dLにつき5.5mmHg、4.5g/dLでは約25mmHgの膠質浸透圧となります。これは全血漿膠質浸透圧の8~9割にあたります。

ですので、血漿膠質浸透圧は、ほぼアルブミンの濃度の依存しています。

血清アルブミン濃度が1.0g/dL程度の患者さんに、全身浮腫、腹水、胸水の貯留があることは珍しくありませんが、肺水腫となることはありません。これは、肺毛細血管内皮の物質透過性が低いことがその一因です。

膠質とは

膠質(コロイド)とは、直径10~1000A(オングストローム、10-8cm)の粒子(たとえばアルブミン)が媒体(たとえば水)の中に分散している状態のものです。

Starlingの仮説

Starlingは1896年に、毛細血管での水の濾過と再吸収について、「毛細血管での水の移動方向と移動速度は、毛細血管の内外の静水圧、膠質浸透圧、管壁の性質に依存する」との仮説を提唱しました1)

このStarlingの仮説では、毛細血管の動脈側では、血管内圧(静水圧)が高いため、血管から間質に水が濾過されます。静脈側では逆に、血管内圧が低く、膠質浸透圧によって間質から血管内に水が再吸収されます。

しかし、Starlingの仮説を修正した修正Starlingにおいては、毛細血管の壁の血管内皮細胞の表面を覆うグリコかリックスと呼ばれる層を挟んで形成される膠質浸透圧が重要であるという考えになっています。これによると、古典的なStarlingの法則で考えられている毛細血管のモデルより、実際の水分移動はもう少し複雑であることが示されています。

血漿浸透圧(晶質浸透圧)とは

 浸透圧は分子の数(モル濃度)に比例し,血清浸透圧は主にNa,Cl,重炭酸と,グルコース,尿素窒素などで規定される.

引用:国際医療福祉大学三田病院腎臓・高血圧内科,石黒喜美子他,浸透圧,内科 Vol. 125 No. 4(2020)

血漿浸透圧を規定する主な物質
  • Na
  • Cl
  • K
  • 重炭酸
  • グルコース
  • 尿素窒素

血漿浸透圧は、主にNa、Cl、K、重炭酸、グルコース、尿素窒素などの物質で規定されます。

血漿中の主な浸透圧物質(分子数の多いもの)は、陽イオンの電解質ではNa+、K+、Ca2+、Mg2+です。本当は、これら陽イオンすべての和を求めるべきですが、簡便法としてはNa+とK+の和だけで十分です。陰イオンの電解質としては、Cl、HCO3などいくつか種類がありますが、実はこの2つだけで陰イオンのほとんどを占めています。

なお、陽イオンがあれば、必ずその陽イオンのプラスの電荷を打ち消すだけの陰イオンがあります。

とくに、浸透圧の異常が起こる中でもNaの異常が原因として多いです。

血漿浸透圧の計算式

血漿浸透圧の計算式は上記のとおりです。

電解質による浸透圧は簡易的に2×(Na+とK+)で求めることもできます

計算の根拠としては、Na+が140mmol/L、K+が4mmol/Lとすると、140+4=144。これが電解質の陽イオンの浸透圧です。陰イオンはこれと同じだけあるとすると、144を2倍するので電解質の合計の浸透圧は288mOsm/kgH2Oとなります。

陽イオンとは、電子を放出して正の電荷を帯びたイオン、陰イオンとは電子を受け取って負の電荷を帯びたイオンのことです。

非電解質では、ブドウ糖は分子量が180なので、mg/dLをmmol/Lに換算するために18で割ります。

尿素窒素も同様に計算すると、BUNを2.8で割ります。

膠質浸透圧と血漿浸透圧(晶質浸透圧)の違い

主な浸透圧物質 標的半透膜 単位(正常値)
晶質浸透圧 電解質、ブドウ糖、尿素窒素 細胞膜 約285mOsm/kgH2O
(5,500mmHg)
膠質浸透圧 アルブミン 血管内皮細胞の穴 約25mmHg

血漿浸透圧は約285mOsm/kgH2Oですが、この発生源はナトリウムやカリウムなどの毛細血管を自由に通過できる低分子物質です。

しかし、血漿と間質の濃度差はほとんどないため、血漿と間質との間で血漿浸透圧差はほとんどありません。

一方の膠質浸透圧は、血漿と間質を隔てる血管壁をそれほど自由に通過できない高分子量タンパク質であるアルブミンによって生じます。

したがって、膠質浸透圧は約25mmHgで、血漿浸透圧の1/200に満たないですが、このわずかな差が非常に重要な意味を持ちます。

透析におけるプラズマリフィリング

ここでは、透析におけるプラズマリフィリングについて解説します。

除水と膠質浸透圧の上昇

引用:片山俊郎他,生体インピーダンスと血漿膠質浸透圧の同時計測による生体内水分量の推定,生体医工学 43(4):717-723,2005

上の図はECUMによって膠質浸透圧が上昇していることを示しているグラフで、最初の60分間は線形に膠質浸透圧が上昇しています。次の60~90分の間では、膠質浸透圧は一定となっていますが、これはプラズマリフィリングと除水が釣り合っている状態で、90分以降では再び線形に膠質浸透圧が上昇しています。これは、プラズマリフィリングが減少していることを意味しています。

ようするに、透析での除水によって、膠質浸透圧が上昇して間質から血管への水分の移動が促進、すなわちプラズマリフィリングが促進されているということです。

また、除水によって血管内のボリュームが減って血管内の圧が下がることも、プラズマリフィリングを促進する要因となります。

除水によって血管内の水分を除去すると循環血漿量が減少して、血管内圧が低下します。また、除水によって血漿は濃縮されて血漿膠質浸透圧が上昇します。
血管内圧低下と血漿膠質浸透圧の上昇は、ともに細胞内や組織間の水分の血管内への移動を促して、循環血漿量の減少を補充します。

ですので、その患者さんの循環血液量の減少の程度は、除水とプラズマリフィリングレートのバランスによって決まっています。

透析前後の血漿膠質浸透圧は、透析前で20mmHg、透析後で24mmHgであり、わずか4mmHgの膠質浸透圧の変化によって、間質液から血管内への水分の移動を促し、透析中における除水を可能にしていると報告されています1)

拡散と血漿浸透圧

  • 透析中の血漿浸透圧の低下は主に尿素窒素の除去による影響
  • 血漿浸透圧の低下はプラズマリフィリングの速度を遅める

透析中において、小分子量物質(主に尿素窒素)が拡散によって積極的に除去されるため、血漿浸透圧は低下します。

この血漿浸透圧の低下の主な理由は、透析患者さんでは血中濃度が高い尿素窒素の除去のためで、とくに透析開始の1時間ほどまでの血漿浸透圧の低下が著しいです。

透析は連続的に血液中の溶質を除去し続ける治療ですので、血管内液、間質液、細胞内液で常に溶質の濃度差が発生しています。

なお、透析患者さんの血漿浸透圧は、健常者に比べて高めの値となります。これは、尿素窒素などが体内に蓄積しているためで、透析によってこれらが除去されると血漿浸透圧は低下します。

血液がダイアライザーの通過後で血漿浸透圧の低下することは複数の研究で確かめられています。実際にどの程度、血漿浸透圧が低下するのかというと、透析液Na濃度 140mEq/Lを使用した透析において、透析前の血漿浸透圧308±6 mOsm/kgでしたが、徐々に低下していき、透析終了時には290 mOsm/kgの低下したと報告しています1)。一方、透析液Na濃度 160mEq/Lを使用した透析では、終始血漿浸透圧の低下がみられず、ほぼ一定であったとのことです1)。このように、透析中の血漿浸透圧の低下を、高Na透析によって補正することができます。

血漿浸透圧の低下は、血管内から間質への水分の移動を促すため、プラズマリフィリングを低下させます。

したがって、透析効率を下げることで、溶質の除去を低下させ、血漿浸透圧の低下を緩徐にすることで、循環血液量の減少を抑え、血圧低下などを予防することができます。

透析によって血漿浸透圧が低下すると、浸透圧の高い間質へ水分が移動します。そして間質液は、さらに浸透圧の高い細胞内へ移動して細胞内溢水が起こります。これは不均衡症候群の原因となります。

DW(ドライウェイト)とプラズマリフィリング

  1. DWを甘めに設定:プラズマリフィリングレートは大きくなる
  2. DWをきつめに設定:プラズマリフィリングレートは小さくなる

DW(ドライウェイト)とプラズマリフィリングレートとの間には関係があります。

DWを甘めに設定した場合はプラズマリフィリングレートは大きいです。

一方、DWをきつめに設定した場合はプラズマリフィリングレートは小さくなります。

DWを甘めに設定しているということは、血管外の水分も多いということですので、プラズマリフィリングレートも大きくなります。

したがって、プラズマリフィリングレートはDW設定の指標の一つとなります。

プラズマリフィリングに影響する因子

ほかの重要な因子としては,栄養不良などによる低アルブミン血症では膠質浸透圧が低値となりplasma refilling rateが減少し,除水に伴う間質から血管内への体液移動が不十分となって血圧低下を惹起する可能性がある。

引用:日本透析医学会(編):血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン,透析会誌

プラズマリフィリングに影響する因子
  1. 血清Na濃度
  2. 血清アルブミン濃度
  3. ヘマトクリット
  4. 糖尿病の有無
  5. 血管透過性
  6. DW

一般的にプラズマリフィリングは血清中Na濃度や血清アルブミン濃度、ヘマトクリットにより影響を受けるとされています1)

ヘマトクリットもプラズマリフィリングに影響を与えるとされていますが、実際にどの程度の影響があるのかはわかりませんでした。

なお、糖尿病患者さんでは、除水による循環血液量の変化が大きな場合には、非糖尿病患者さんより有意にプラズマリフィリングが低いことが報告されています2)

プラズマリフィリングの速度

プラズマリフィリングの速度には個人差がありますが、一般的に体重1kgに対して5~7mL/hrのプラズマリフィリングの速度といわれています。

例えば、体重60kgの人だと、300~420ml/hrのプラズマリフィリングとなります。

ただし、動脈硬化、糖尿病、低栄養だとプラズマリフィリングの速度は遅くなり、1kgに対して3~5mL/hrとなります。

参考:大垣徳洲会病院「どうしてる?ドライウェイトの設定」

なお、プラズマリフィリングレートは循環血液量のモニタリング(日機装のBV計)で知ることができます。

プラズマリフィリングを考慮にいれた時間延長を

ここまでで、プラズマリフィリングとはいったいなんなのか?そしてのプラズマリフィリングと透析の関係について解説してきました。

一般的に、透析中に血圧が低下すればすぐにDWを上げなければ、という思考になってしまう人もいるかもしれません。

しかし、安易にDWを上げるのではなく、透析時間を延長しプラズマリフィリングを最大限使用した除水の検討も大切です。

長時間透析におけるプラズマリフィリング

透析時間を延長することで、除水速度を下げることができ、少ないプラズマリフィリングレートでも血圧が低下しにくくなります。

したがって、DWを低下させることができ、高血圧のコントロールがしやすくなります。

透析患者さんは低アルブミン血症の方が多く、プラズマリフィリングレートが透析の除水に追いつかないのでは?ということを常に念頭に置きましょう。

このプラズマリフィリングをしっかり行いながら除水をするためにも、除水速度を下げれるように透析時間を延長する必要があります。

 

 

というわけで今回は以上です。

透析室で働いているスタッフであれば必ず知っておきたい「プラズマリフィリング」についてわかりやすく解説してみました。

少しでも参考になれば幸いです。

 

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