サイトアイコン 透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】

人工呼吸器の人工鼻|加温加湿器との違い・使い分け【交換は何時間?】

最初に結論
  • 違い:人工鼻は「呼気の熱と水分をためて次の吸気に戻す」。加温加湿器は「水を温めて湿ったガスを作り、回路で温度・湿度を保って口元まで届ける」。
  • 使い分け:短期・分泌物少・リークなしなら人工鼻。小児/低い一回換気量、分泌物が多い、長期管理、リークが大きいときは加温加湿器を基本とする。
  • 禁忌:人工鼻と加温加湿器の併用はしない。吸入療法(ネブライザー)時は人工鼻を外す。
  • 交換:人工鼻は原則24〜48時間。汚染・抵抗上昇・目詰まり兆候は即交換。製品の取扱説明書(IFU)を最優先。
STEP 1|まず確認:分泌物は多い? 一回換気量は低い? リークは大きい?
→ いずれかYES加温加湿器が基本
→ すべてNO(成人・短期・リークなし):人工鼻で開始
症例条件 推奨 理由(1行)
成人・短期・分泌物少・リークなし 人工鼻 装置管理が簡便/必要湿度を満たしやすい
小児・低VT・リーク大 加温加湿器 人工鼻は加湿低下・死腔不利になりやすい
分泌物が多い/気道出血 加温加湿器 人工鼻は目詰まり→抵抗↑・閉塞リスク
高い分時換気量 加温加湿器 人工鼻では熱・水分交換が追いつきにくい
吸入療法(ネブライザー)実施 人工鼻は外す 粒子捕集→薬剤到達低下&目詰まり

目次

最初に結論(使い分け・禁忌・交換)

ざっくり比較

人工鼻は、患者さんの呼気に含まれる熱と水分をいったん内部にため、次の吸気で戻します。

加温加湿器は、専用チャンバで水を温めて水蒸気を発生させ、回路の制御で冷えを抑えながら口元まで湿ったガスを届けます。

併用しない/吸入療法時は外す

両者の併用は人工鼻の過湿・閉塞→換気不良につながるため禁止。また、吸入療法(ネブライザー)中は人工鼻を外してから行います。

交換の基本

人工鼻は多くの製品で24〜48時間の交換推奨。汚染・分泌物付着・抵抗上昇・臭気・目詰まりがあればただちに交換します。

参考文献:
医療安全情報:人工鼻と加温加湿器の併用禁止(PMDA)
加温加湿デバイスのトラブルと対策(2022)
加湿の基礎と人工鼻の特性(2018)

人工鼻の原理(どんな仕組み?どこに付ける?)

呼気の熱と水分をためて、次の吸気に戻す

人工鼻の内部素材(繊維・紙・スポンジ等)が呼気の熱と水分を捕まえて保持し、次の吸気に戻します。

取り付け位置はYピースと気管チューブの間です。

加湿性能・気流抵抗・機械的死腔量、微生物捕集性能は製品で異なります。

加湿の目安(生理的ゴールは44 mg/L)

人工鼻の吸気絶対湿度はおおむね27〜35 mg/Lです

生理的には口元37℃・相対湿度100%で44 mg/Lのため、やや加湿不足です。

参考文献:
人工鼻の原理と種類(2016)
加温加湿の必要性と目標(2022)
人工鼻の加湿量の実測と限界(2018)

人工鼻の使用上の注意(現場チェック)

抵抗と死腔を意識する

目詰まり・閉塞の早期発見

リークに弱い

小児やカフなしでリークが大きいと、呼気の熱・水分が人工鼻へ十分戻らず、吸気絶対湿度が30 mg/L未満へ低下しやすくなります。加湿不足は分泌物の粘稠化→閉塞リスク増大に直結します。

参考文献:
人工鼻の抵抗・死腔(2018)
人工鼻とフィルタの特徴(2021)
リークで加湿が低下(Chikata 2012, Respir Care)

人工鼻を避けるべき場面(切り替えの判断)

参考文献:
人工鼻の禁忌・適正評価(2016)
小児・リーク時の加湿低下(Chikata 2012)
死腔低減でPaCO2改善(Lipes 2012)

吸入療法(ネブライザー)と人工鼻

原則:投与中は人工鼻を外す(理由)

人工鼻はエアロゾル粒子を捕集・吸着するため、薬剤の肺到達が大幅に低下します。さらに、粒子付着で人工鼻が早く目詰まりし、抵抗上昇や換気不良の原因になります。だからこそ、投与中は外して終了後に再装着します。

参考文献:
吸入療法と人工鼻の併用禁忌(2021)
重症患者の吸入療法コンセンサス(2023)
人工鼻で吸入薬が低下(Ari 2018)

加温加湿器(「水を温めて湿ったガスを届ける」方式)

加温加湿器は,貯水槽の水面から水を蒸発させるタイプ(pass‒over 型)が多く使用されています。

MR850 加温加湿器は、口元・チャンバー、ヒータプレートの温度をセンサで感知し、回路のホースヒータ(熱線)とヒータプレートの電力を制御することによって,呼吸器回路の患者側の温度および湿度を安定化させています。

回路で冷えを抑える仕組み(なぜ結露しにくい?)

加温加湿器は、ヒータプレート+加湿チャンバ+温度プローブ+ヒータワイヤ付き回路を組み合わせ、次の考え方で「回路内の冷え(=結露)」を抑えます。

運用の注意(よくあるトラブルを防ぐ)

参考文献:
AARCガイドライン:侵襲的換気の加湿目標(2012)
換気中の加湿レビュー(2024)
加温加湿デバイスの原理と使用法(2020)
F&P MR850 ユーザーマニュアル

エビデンスの要点(PubMedまとめ)

VAPや死亡への影響:差は小さい/質は低〜中

人工鼻と加温加湿器を比較したメタ解析では、肺炎や死亡で明確な優劣は示されていません。選択は患者要因(低い一回換気量・リーク・分泌物)重視で問題ありません。

低い一回換気量や高い死腔では切替が有利

人工鼻は機械的死腔を増やすため、肺保護換気やCO2制御が課題の場面では、死腔の少ない加温加湿器へ切り替えるとPaCO2やドライビングプレッシャーを下げられます。

リークがあると人工鼻の加湿は低下

小児・カフなし等でリークが大きいと、人工鼻の絶対湿度は30 mg/Lを下回りやすく、加湿不足になります。

参考文献:
人工鼻 vs 加温加湿器(Cochrane, 2017)
人工鼻と加温のメタ解析(2017)
死腔低減でPaCO2改善(2012)
死腔低減でVT/Driving圧を抑制(2020)
リークで加湿低下(2012)

製品別の交換目安(IFUまとめ/10pt)

メーカー 代表製品 交換目安(最大使用時間) 特記事項(抜粋) 情報源
Intersurgical Filta-Therm™/Inter-Therm™ 等 24時間(最大) 単回使用。使用中は抵抗上昇や汚染で早期交換。 HMEs and HMEFs(製品ページ)FAQ(最大24時間)
Medtronic DAR™ Filter-HME(機械式/静電式) 24時間(最大) 単回使用。CO2ポート付モデルあり。抵抗増で交換。 製品ページIFU(最大24h)
SunMed / AirLife HME 78081 ほか 24時間ごとに交換 単回使用。必要に応じてより短く。 IFU(2021改訂)製品資料(推奨24h)
Sterimed HME Filter(IFU一般) 最大24時間 短期使用。乾燥保管・再使用不可。 IFU(最大24h)

参考文献:
Intersurgical 製品ページ(最大24h)
Intersurgical FAQ(最大24h)
Medtronic DAR 製品ページ
Medtronic DAR IFU(最大24h)
SunMed/AirLife IFU(24h交換)
AirLife 製品資料(24h)
Sterimed IFU(最大24h)

交換・観察の実践チェックリスト(理由つき)

人工鼻の交換:24〜48時間/汚染・抵抗↑・臭気・外観汚れ・CO2波形乱れで即交換(なぜ?)

人工鼻内部の素材は呼気水分と分泌物を繰り返し含みます。時間経過で細菌増殖・バイオフィルム形成のリスクが上がり、におい(臭気)や外観汚れとして現れます。

同時に通気断面が狭くなり抵抗が上昇、換気量が落ちてCO2波形の振幅低下や平坦化が出やすくなります。したがって時間(24〜48h)または兆候が出た時点で交換するのが安全です。

観察:Ppeak・ΔP、SpO2、CO2波形、外観(分泌物・結露)を見る(なぜ?)

Ppeak・ΔPは回路〜患者側の抵抗やコンプライアンスの変化に敏感で、人工鼻の目詰まり・閉塞を早期に捉えます。

SpO2は酸素化の全体像、CO2波形は死腔増加や換気量不足を可視化します。外観の分泌物付着や結露の量は最も早く気づけるフィジカルサインで、これらのセット観察で見落としを減らせます。

切替判断:分泌物増加・リーク・高い分時換気量・低い一回換気量・PaCO2上昇・呼吸仕事量増加(なぜ?)

これらはすべて人工鼻の性能が発揮されにくい条件です。分泌物増加は目詰まり→抵抗上昇、リークは呼気の熱・水分が戻らず加湿不足、高い分時換気量は熱・湿気の交換が追い付かず乾燥しやすいです。

低い一回換気量では人工鼻の死腔が相対的に大きく、PaCO2が上がりやすく呼吸仕事量も増えます。こうしたサインが揃えば、加温加湿器へ切り替える意義が高いと判断します。

吸入療法:人工鼻は外す→投与→再装着。呼気弁・フィルタの点検頻度も前倒し(なぜ?)

人工鼻はエアロゾル粒子を捕集してしまうため、薬剤到達が落ち、人工鼻の目詰まりを加速します。さらに、薬剤や水分は回路の呼気弁やフィルタにも付着し、抵抗上昇や作動不良の原因になります。

したがって投与中は人工鼻を外し、投与後は呼気弁・フィルタの状態を通常より頻回に点検します。

参考文献:
加温加湿・回路のチェックポイント(2022)
吸入療法と人工鼻の取り扱い(2021)
人工鼻で吸入薬が低下(Ari 2018)

まとめ(早見表)

項目 人工鼻 加温加湿器
加湿の仕組み 呼気の熱・水分を保持→次回吸気に戻す チャンバで水を加熱→湿潤ガスを生成し回路制御で保持
加湿の目安 27〜35 mg H2O/L(条件で不足) 33〜44 mg H2O/L(34〜41℃)
向いている場面 成人・短期・分泌物少・リークなし 小児/低一回換気量・分泌物多・長期・リークあり
禁忌/注意 加温加湿器と併用NG、吸入療法中は外す 温度プローブ位置・結露管理・水補充
交換・管理 原則24〜48h/汚染・抵抗↑で即交換 結露除去・水位・温度確認をルーチンで
CO2への影響 機械的死腔増→低VTでは不利 死腔少→PaCO2やDriving圧を下げやすい

参考文献:
人工鼻の加湿量・抵抗・死腔(2018)
最新レビュー(2024)
死腔低減の利点(2020)

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