サイトアイコン 透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】

レストレスレッグス症候群とオンラインHDFの関係|前希釈/後希釈と置換液量の考え方

レストレスレッグス症候群(RLS/むずむず脚)とは【やさしい解説】

どんな症状?

夜になると脚の奥が「むずむず・ジリジリ」してじっとしていられない
動かすと少し楽になるけれど、止まるとまた気になる——これがRLSの典型です。こむら返り(筋けいれん)とは違い、
痛みよりも不快感やうずく感じが中心で、寝つきの悪さや途中で目が覚める原因になります。

なぜ起こる?(イメージ)

RLSは一つの原因だけで起こる病気ではありません。鉄分の不足や薬の影響(睡眠薬・抗うつ薬など)、
そして透析の方では尿毒素(からだにたまる不要物)が関係すると考えられています。

受診の目安

※透析中に「じっと寝ていられない」「脚を動かしてしまう」方もRLSの可能性があります。早めに医療者へ相談を。

参考文献
水崎 浩輔 ほか:レストレスレッグス症候群—早期発見,専門医紹介ポイント,ケア—.腎と透析 90(4), 2021.
小池 茂文:透析患者のレストレスレッグス症候群にはどのように対策を行いますか?.臨牀透析 34(7), 2018.

まず押さえる:RLSの評価と二次性要因の洗い出し

診断・スクリーニング

  • 「むずむず脚の国際研究グループが定めた診断の目安(4条件)」に沿って聴取:①脚を動かしたい強い衝動/不快感 ②安静で悪化 ③動くと楽 ④夕方〜夜に悪化。
  • 似ている別の症状(こむら返り、関節痛、むくみ、末梢神経のしびれ)で説明できないかも確認。
  • 家族などから「寝ていると足が周期的にピクピク動く」と言われる場合は、睡眠中の周期的な足のぴくつき(周期性四肢運動)の可能性を考慮(RLSと一緒に起こることが多い)。
  • 施設問診は「透析中の安静保持困難」「夜間の入眠困難・中途覚醒」「症状の時間帯」を定型化。

二次性RLSの除外・是正

  • 鉄欠乏:フェリチン/TSATを確認(フェリチン50–100 μg/mL、TSAT≥20%目安)。JSDTの鉄補充適応を遵守。
  • 薬剤:ドパミン遮断薬、SSRI/SNRI、三環系、抗ヒスタミン、カフェインなどは誘因。減量・中止・変更を優先。
  • 電解質・MBD:Ca・Pの是正、透析効率(Kt/Vだけでなくβ2-ミクログロブリンなど中分子)を再評価。

参考文献
小池 茂文:透析患者のレストレスレッグス症候群にはどのように対策を行いますか?.臨牀透析 34(7), 2018.
水崎 浩輔 ほか:レストレスレッグス症候群—早期発見,専門医紹介ポイント,ケア—.腎と透析 90(4), 2021.

オンラインHDFで狙う病態介入のコア

α1-ミクログロブリンを“ターゲット”にする理由

α1-ミクログロブリン(約33 kDa)は中〜大分子除去の指標です。除去は概ね相関し、
体内では活性酸素を無害化するはたらきがあります。機能を終えた“劣化型”をHDFで適切に除去し、
肝での新規産生(turnover)を促すことで酸化ストレス負荷を下げる——この仕組みがRLS・瘙痒などの症状軽減に寄与すると考えられています。

目標値(実務の目安)

  • 症状軽減:α1-ミクログロブリン除去率 ≧35%
  • 寛解をねらう:除去率 ≧40% + 除去量 180–200 mg/回
  • アルブミン漏出:概ね 3–5 g/回 を目安に管理(施設方針でも≲5 g/回を推奨)。アルブミンが下がる場合は条件調整。

前希釈と後希釈の使い分け(実務のコツ)

  • 前希釈(日本の主流):大量置換(=濾過量)を入れやすく、膜の目詰まりに強い。RLSや瘙痒の症状介入で高置換を組みやすい。
  • 後希釈:同じ置換量でも中分子除去効率が高い一方、アルブミン漏出や目詰まりリスクに注意。膜選択・膜の圧差の上限設定が鍵。

処方設計の実例(RLSを想定)

  • ベース:4 h、血液流量 220–300 mL/min、透析液(+補充液)流量 500–600 mL/min。
  • 前希釈の置換液量:40–70 L/回から開始(RLSが強い時は 55–70 L/回まで段階増量)。
    補足:とくに前希釈で40 L/回以上を確保できると、患者予後との関連が報告されています。
  • 膜選択:α1-ミクログロブリン除去率とアルブミン漏出のプロファイルを把握(ロット差もあるため定期点検)。
  • 見直し:2–4週ごとに除去率/量とアルブミン、むずむず脚の症状の点数(IRLS)で評価し、35%→40%へ段階的に引き上げ。

“効かない/維持できない”ときの見直し

  • 除去量の不足:症状が残る時は実除去量(mg/回)も確認し、180–200 mgを目標に微調整。
  • アルブミン低下:血清アルブミン 3.2–3.4 g/dL未満では置換量や膜スペックを一段階緩める。必要に応じ栄養介入。
  • 膜/方式の切替:炎症が強い場合は膜材質変更、ビタミンE固定化膜、間欠補液のHDF(I-HDF)併用などで調整。

参考文献
櫻井 健治:オンラインHDFの適応.臨牀透析 39(5), 2023.
櫻井 健治 ほか:ヘモダイアフィルタの選択基準.医工学治療 35(2), 2023.
櫻井 健治:オンラインHDFの臨床効果とその未来.医工学治療 36(2), 2024.
櫻井 健治:本邦のオンラインHDFの実際(合併症ごとの治療条件).臨牀透析 33(5), 2017.

ヘモダイアフィルタの選び方(オンラインHDF向け)

何を優先するかを決める

  • 症状改善(中〜大分子をより除去):α1-ミクログロブリンまで“狙える”分画特性(いわゆる蛋白リーク型を含む)を検討。アルブミン漏出は3–5 g/回の範囲で管理。
  • 栄養保持(アルブミン低下を避けたい):アルブミンの通りにくい“非リーク寄り”の膜を選び、置換液量はやや保守的に。
  • 血行動態が不安定:目詰まりに強い前希釈+生体適合性の高い膜(例:ビタミンE固定化、PMMA、セルローストリアセテートなど)を優先。
参考文献
櫻井 健治:オンラインHDFの適応.臨牀透析 39(5), 2023.
櫻井 健治:本邦のオンラインHDFの実際(合併症ごとの治療条件).臨牀透析 33(5), 2017.

分画特性の見方:α1-ミクログロブリンとアルブミン漏出のバランス

  • ねらい(例):α1-ミクログロブリン除去率35–40%を目標に、アルブミン漏出3–5 g/回で最適化。
  • フィルタ選択:α1-ミクログロブリンの通りが良い膜は症状に効きやすい反面、アルブミンもわずかに通す傾向。許容レンジ内かを連続監視(血清アルブミン、体重・食思、透析液側の蛋白リーク観察)。
  • 方式との組合せ:前希釈は大量置換しやすく目詰まりに強い。後希釈は同量でも効率が高いが、アルブミン漏出や目詰まりに配慮。
参考文献
van Gelder MK, et al. 透析法別のアルブミン取り扱い(総説).Nephrol Dial Transplant 33:906–913, 2018.
Cuvelier C, et al. HDFにおけるフィルタ間のアルブミン損失差.BMC Nephrol 20:58, 2019.

膜材料・構造の特徴(製品名に依らない考え方)

  • ポリスルホン/ポリエーテルスルホン系:高い水透過・機械的強度。設計により“非リーク寄り〜ややリーク”まで幅。
  • PMMA(ポリメチルメタクリレート):吸着性と生体適合性に特徴。かゆみ・炎症の強い症例で選択肢。
  • セルローストリアセテート(CTA):補体活性化が少なく、生体適合性に配慮したい時に。
  • ビタミンE固定化膜:酸化ストレス低減の観点から併用価値。立ち上がり安定化にも寄与し得る。
  • いわゆる“蛋白リーク型”:α1-ミクログロブリンまで通しやすい。回あたりのアルブミン漏出量が許容内かを必ず点検。
参考文献
櫻井 健治 ほか:ヘモダイアフィルタの選択基準.医工学治療 35(2), 2023.
van Gelder MK, et al. NDT 2018;Cuvelier C, et al. BMC Nephrol 2019.

サイズ選択と運転:膜面積・血液流量・圧管理

  • 膜面積:体格・血液流量・治療時間に合わせて選ぶ。面積を上げる=置換を上げやすいが、初期アルブミン漏出が増えることがあるため立ち上がりは慎重に。
  • 血液流量/補充液流量:前希釈で40–70 L/回(4時間)を目安に、症状とアルブミンで微調整。後希釈は血液流量が十分取れる症例で有利。
  • 圧の管理(膜の圧差):過度の上昇は目詰まりのサイン。定圧・定速いずれでも、立ち上がり30分はアルブミン挙動を重点監視。
参考文献
櫻井 健治:オンラインHDFの適応.臨牀透析 39(5), 2023.
櫻井 健治:本邦のオンラインHDFの実際(運転条件と監視).臨牀透析 33(5), 2017.

“変えるサイン”と見直しの順番

  • 症状が残る:α1-ミクログロブリン除去率→除去量の順に引き上げ(35%→40%、実除去180–200 mg/回)。
  • アルブミンが下がる:まず置換量を一段階下げ、改善なければ“非リーク寄り”の膜へ変更。
  • 圧が高い/目詰まり傾向:前希釈比率を上げるか、膜面積を見直し。
参考文献
櫻井 健治:オンラインHDFの臨床効果とその未来.医工学治療 36(2), 2024.
van Gelder MK, et al. NDT 2018;Cuvelier C, et al. BMC Nephrol 2019.

併用療法:薬物治療と生活指導

薬物療法

  • 第一選択:ロチゴチン貼付(肝代謝・24 h製剤)。プラミペキソールは腎排泄で蓄積や増悪(薬に慣れて早い時間から症状が悪化し、効きが落ちてくる現象)に配慮し少量から。
  • 増悪への配慮:短時間作用型より長時間作用型の方が増悪は起きにくい傾向。過量・漫然投与は避ける。
  • 注意:ガバペンチンエナカルビルは透析患者では禁忌。

非薬物療法

  • 睡眠衛生(就寝・起床時刻の固定、寝室環境)、カフェイン/アルコール/喫煙の制限、適度な運動を指導。

参考文献
小池 茂文:透析患者のレストレスレッグス症候群にはどのように対策を行いますか?.臨牀透析 34(7), 2018.
水崎 浩輔 ほか:レストレスレッグス症候群—早期発見,専門医紹介ポイント,ケア—.腎と透析 90(4), 2021.

4) 即用メモ:RLS介入の処方チャート(目安)

目的 α1-ミクログロブリン除去率 α1-ミクログロブリン除去量 アルブミン漏出 置換液量(前希釈) 備考
症状の軽減 ≧35% (参考)≥150–180 mg/回 3–5 g/回 40–55 L/回 2–4週で評価し増強可
寛解を狙う ≧40% 180–200 mg/回 3–5 g/回 55–70 L/回 アルブミンとむずむず脚の症状の点数(IRLS)を並走管理

※とくに前希釈で40 L/回以上を確保できると予後との関連が報告されています。施設の水質・機器、膜特性、患者背景(アルブミン値、循環動態)により調整。

参考文献
櫻井 健治:オンラインHDFの適応.臨牀透析 39(5), 2023.
櫻井 健治:本邦のオンラインHDFの実際(合併症ごとの治療条件).臨牀透析 33(5), 2017.
櫻井 健治 ほか:ヘモダイアフィルタの選択基準.医工学治療 35(2), 2023.
櫻井 健治:オンラインHDFの臨床効果とその未来.医工学治療 36(2), 2024.

まとめ

  • まず二次性要因(鉄、薬剤、MBD、尿毒症環境)を是正。
  • オンラインHDFはα1-ミクログロブリン基準で“症状に届く”濾過設計を。目安は35%で軽減、40%+除去量180–200 mgで寛解狙い
  • アルブミン漏出は3–5 g/回を目安に。

参考文献
櫻井 健治:オンラインHDFの適応.臨牀透析 39(5), 2023.
水崎 浩輔 ほか:レストレスレッグス症候群—早期発見,専門医紹介ポイント,ケア—.腎と透析 90(4), 2021.

※本記事は一般情報です。最終的な診療判断は各施設のプロトコル・添付文書・学会ガイドラインに従ってください。

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