セプザイリスとは?AN69ST膜の仕組みとサイトカイン吸着・効果・適応・敗血症への位置づけ

「今日の受け持ち患者さん、CRRTの膜が『セプザイリス』になってる…これって普通の膜となにが違うの?」

重症の敗血症治療で登場する特殊な血液浄化膜「セプザイリス(SepXiris)」
この記事では、新人看護師さんがベッドサイドで知っておくべき「看護のポイント」をわかりやすく解説し、後半ではエビデンスに基づいた「詳細なスペック」を深掘りします。

最初に結論:セプザイリスとは?

セプザイリス(SepXiris)は、AN69ST膜を用いたCHDF/CRRT専用の「サイトカイン吸着膜」です。主に高サイトカイン血症を伴う敗血症性AKIで使われています。

  • 仕組み:陰性荷電をもつAN69膜に表面処理を加えることで、IL-6などの炎症性サイトカインを電気的に吸着します。
  • 効果:血圧・乳酸値の改善などは報告されていますが、大規模な研究での死亡率改善は「示唆レベル」です。
  • 注意点:ナファモスタット(フサン)や一部の抗菌薬も吸着してしまうため、凝固や薬物濃度に注意が必要です。
  • 位置づけ:「標準治療+CRRT」に追加するオプション治療(アジュバント療法)です。

【新人ナース向け】セプザイリスとは?イメージで理解するAN69ST膜CHDF

1. ひとことで言うと「毒素を吸着するすごい膜」

通常のCRRT(持続的腎代替療法)は、腎臓の代わりに「老廃物」や「水分」を捨てるのが仕事です。
セプザイリスはそれに加えて、敗血症で体中を暴れまわっている「悪い物質(サイトカイン)」を、膜にくっつけて取り除いてくれる機能を持っています。

  • 普通のCRRT膜: ゴミ捨てと水抜きが得意
  • セプザイリス: ゴミ捨て+炎症の親玉(サイトカイン)を捕まえるのが得意

2. なぜ悪い物質が取れるの?(磁石のイメージ)

仕組みは「静電気」「磁石」に近いです。
敗血症の悪い物質(サイトカインなど)の多くは、電気的に「プラス(+)」の性質を持っています。そこで、セプザイリスの膜の奥深くには「マイナス(-)」の電気を帯びた素材が使われています。

血液が流れると、悪い物質(+)が膜のマイナス(-)に引き寄せられ、ピタッ!と吸着されます。こうして炎症物質をこし取っているのです。

3. 看護師が絶対知っておくべき「3つの観察ポイント」

ここが一番重要です。セプザイリス使用中は以下の点に注意してください。

① お薬が吸着されちゃうかも?(回路凝固に注意)セプザイリスは「悪い物質」だけでなく、大事なお薬まで吸着してしまうことがあります。

  • ナファモスタット(フサン®):膜に吸着されやすいため、通常と同じ投与量のままだと普通のCRRTより回路が固まりやすくなることがあります
    ACT(活性化凝固時間)をこまめにチェックし、凝固傾向があれば医師に報告しましょう。
  • 抗菌薬(バンコマイシンなど):吸着されて血中濃度が下がることがあります。
    → TDM(血中濃度測定)の結果をしっかり確認しましょう。

② 血圧低下に注意(ACE阻害薬内服中)従来のAN69膜では、ACE阻害薬(レニベース®など)を飲んでいる患者さんで、膜との相互作用により「ブラジキニン」という物質が増え、急激な血圧低下やアナフィラキシー様反応が多数報告されています。AN69STでは表面処理によりリスクはかなり減っていますが、まれに同様の反応が起こりうるとされており、注意が必要です。

対策:特に開始直後のバイタル変動と皮膚症状を見逃さないようにしましょう。

③ あくまで「治療の補助」であるセプザイリスだけで敗血症が治るわけではありません。抗生剤や循環管理などの標準治療が最優先です。
観察の指標:治療が効いていれば、昇圧薬(ノルアドレナリン)の減量や、乳酸値(Lactate)の低下が見られるはずです。

【詳細版】セプザイリス(AN69ST膜)とは|基本スペックとエビデンス

ここからは、より専門的な知識を深めたい方向けに、膜の構造や臨床研究の結果(エビデンス)について解説します。

セプザイリス(SepXiris)の製品概要と膜構造

セプザイリスは、ポリアクリロニトリル系膜(AN69)をベースに表面をポリエチレンイミン(PEI)でコーティングした「AN69ST膜」を用いたヘモフィルタです。成人用には0.6 m2クラス(sepXiris 60)があり、プライミングボリュームは約47 mLです。

AN69ST膜は、膜内部が陰性荷電、血液側表面が陽性荷電(PEI)という二重構造になっており、サイトカインやDAMPs(HMGB1など)を電気的相互作用で吸着しやすい設計になっています。

保険適応:重症敗血症・敗血症性ショック

日本では、重症敗血症・敗血症性ショックに対する「サイトカイン吸着を目的としたCHDF用ヘモフィルタ」として、2014年7月から公的医療保険の非腎適応として承認されています。従来の「腎補助目的のCRRT」とは別枠の位置づけです。

AN69ST膜の吸着メカニズムと特徴

1. 陰性荷電と陽性荷電サイトカインのイオン結合
多くの炎症性サイトカイン(IL-8、MIP-1αなど)は生理的pHで「陽性荷電」を帯びています。これらが膜内部の陰性荷電部位に静電的に結合し、吸着されます。

2. 表面処理による生体適合性の向上
従来のAN69膜は陰性荷電が強く、ブラジキニン産生による血圧低下が課題でした。AN69ST膜は表面をPEI(陽性荷電)でコーティングし、さらにヘパリンを固定化することで、ブラジキニン産生や血栓形成を抑制しています。

臨床研究とエビデンスレベル

多施設前向き研究(Shigaら, 2014)
重症敗血症・敗血症性ショック症例において、28日生存率73.5%、平均動脈圧の上昇、乳酸値・IL-6の低下が報告されています。これが承認の根拠の一つとなりました。

他膜(PMMAなど)との比較
PMMA膜と比較して生存率が良いとする報告(Kobashiら)がある一方、有意差なしとする報告(Nakamuraら)もあり、膜による決定的な優劣は結論づけられていません。

現在の国際的なガイドライン(SSC 2021等)では、血液浄化によるサイトカイン除去は「標準治療として推奨する段階ではない」とされており、あくまでアジュバント療法(補助療法)としての位置づけです。

セプザイリスの運用と設定

  • 血流量:80〜150 mL/min
  • 透析液+置換液量:20〜35 mL/kg/h 程度
  • 治療時間:24時間連続で1〜3日間集中的に使用し、その後は非吸着膜へ切り替えるケースが多いです。

薬剤吸着に関する注意点(詳細)

AN69ST膜は、メシル酸ナファモスタット(NM)やバンコマイシン等の薬剤を吸着します。研究では、AN69ST使用群で同じACTを得るために必要なNM投与量が有意に多いことが示されています。
NMの投与量を通常より多めに設定する、あるいはA側/V側への分注を行うなどの工夫が必要な場合があります。

まとめ:敗血症治療における位置づけ

現時点でのセプザイリスは、「標準治療をやり切ったうえで、それでもショックが強く、腎代替療法も必要な症例」に対して、リスクとベネフィットを考慮して選択する「追加の一手」です。

新人看護師の皆さんは、まずは「回路凝固」「バイタル・データの推移」に注目して管理を行いましょう。

参考文献・引用元:
1. Hattori N. Cytokine-adsorbing hemofilter: old but new modality for septic acute kidney injury. Ren Replace Ther. 2016.
2. Shiga H, et al. Continuous hemodiafiltration with a cytokine-adsorbing hemofilter in patients with septic shock. Blood Purif. 2014.
3. Nakamura Y, et al. Adsorption of nafamostat mesilate on AN69ST membranes. Ther Apher Dial. 2017.
4. 西田修. 集中治療における血液浄化のあらたな知見─AN69ST,あらたな血液浄化療法戦略. 医のあゆみ. 2017.

セプザイリスに関するよくある質問(FAQ)

セプザイリスとは何ですか?

セプザイリスとは、AN69ST膜を用いたサイトカイン吸着型のCHDF/CRRT用ヘモフィルタです。重症敗血症・敗血症性ショックで高サイトカイン血症を伴う患者さんに使用されます。

セプザイリスと通常のCRRT膜の違いは何ですか?

通常膜は主に「老廃物と水分の除去」が目的ですが、セプザイリスはそれに加えて、IL-6などの炎症性サイトカインを電気的に吸着する点が大きな違いです。

セプザイリスの適応となる患者さんはどのようなケースですか?

重症敗血症・敗血症性ショックで、昇圧薬が必要な患者さん、高乳酸血症や高サイトカイン血症が疑われる患者さん、AKIによりCRRTが必要なケースで検討されます。

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