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透析シャント閉塞とは?原因と起こりやすい場所
透析患者さんにとって、シャント(バスキュラーアクセス:VA)は「命をつなぐ血管」です。閉塞が起きると透析ができなくなり、カテーテル挿入などの緊急対応が必要になります。看護師による日々の観察が、トラブルを未然に防ぐ鍵になります。
シャント閉塞の多くは、血管の内側が厚くなる「静脈狭窄」によるものです。
血流が悪くなると血のかたまり(血栓)ができやすくなり、透析中の血圧低下や脱水が重なると一気に詰まります。
参考:高橋英夫ほか.バスキュラーアクセス狭窄に対する薬剤付きバルーンの有用性.腎と透析 92(7):705-710, 2022.
狭窄が起こりやすい部位
- 吻合部(動脈と静脈をつなぐ部分)
- 穿刺部(普段針を刺す場所)
- 上腕の静脈が心臓に戻る部分(セファリックアーチ)
吻合部では脱血不良や急な閉塞、穿刺部では止血しにくさや再循環率の上昇がみられます。セファリックアーチでは腕のむくみを伴うこともあります。
血管内で起きている変化
血管壁に強い流体の力(せん断応力)が加わり続けると、内皮細胞が損傷し、修復の過程で内膜が厚くなります。これが狭窄のはじまりです。
血管が細くなると流れが不規則になり、血液がよどむ部分ができます。そこに血小板が集まり血栓ができます。
全身的な影響も関係する
- 糖尿病:血管がもろくなりやすい。
- 高リン血症や副甲状腺機能亢進:血管の石灰化が進む。
- 長期透析:慢性炎症によって内膜が厚くなる。
こうした背景疾患があると、血管の再狭窄も起こりやすくなります。
透析中・透析後に見られるシャント閉塞のサイン
日々の観察の中で、シャント閉塞の初期サインに気づくことが最も大切です。看護師がすぐに判断できるチェックポイントをまとめます。
聴診と触診
- 正常:低い「シャー」という連続音、しっかりしたスリル。
- 異常:音が高くなる・途切れる・スリルが弱くなる。
音が高くなったり途切れたりするのは狭窄のサインです。スリルが弱くなれば血流低下を疑います。
参考:野口大介ほか.シャント閉塞に対する局所管理.臨床泌尿器科 75(8):789-794, 2021.
透析中のモニタリング
- ポンプの設定血流量(Qb)に到達しにくい場合も要注意。
これらの変化は静脈側の狭窄が始まっている可能性を示します。
穿刺部・透析後の変化
- 止血に時間がかかる、再出血する、穿刺部が腫れる。
止血時間の延長や局所腫脹は静脈側の血流障害を示すことがあります。観察時に前回透析との違いを意識しましょう。
超音波(エコー)による評価
シャントエコーは、透析シャントの状態を客観的に評価するための重要な検査です。Bモード・カラードップラー・パルスドップラーを組み合わせて、血管の構造や血流を確認します。
1. エコーで何がわかるか
- 血管の形や内腔径、血流の速さ、血流量(Qa)を測定できる。
- 狭窄の部位や範囲、血栓の有無を視覚的に確認できる。
カラードップラーでは血流方向と速度の分布が色で表示され、乱流が起きている場所が分かります。パルスドップラーでは、血流速度の波形(PSV:最高血流速度)を測定できます。
吻合部・静脈枝・セファリックアーチなど、触診では分かりにくい部位の狭窄も特定可能です。
参考:Saeed M et al. Duplex ultrasound evaluation of hemodialysis access: A comprehensive review. Clin Nephrol 99(4):251-259, 2023.
2. PTAを検討すべきエコー所見
- 狭窄率が50%以上(内腔径が半分以下)
- 血流量(Qa)が500 mL/min未満、または25%以上の低下
- 血流速度(PSV)が400 cm/sを超える、または狭窄前後の速度比が2倍以上
- 狭窄部で乱流が顕著、血管壁の肥厚や石灰化が進行
これらの所見がみられた場合、血管拡張術(PTA)の適応を検討します。
特に、血流量の急激な低下や局所の速度上昇は、数週間以内に閉塞に進むリスクが高いと報告されています。
参考:Asif A et al. Diagnostic criteria and predictors of arteriovenous access stenosis. J Vasc Access 21(6):852-859, 2020.
3. 看護師が関わるポイント
- 聴診・触診の変化を記録し、超音波検査を依頼するきっかけを作る。
- 超音波結果(管腔径・血流量・速度)を理解して次回透析時に比較する。
- 異常所見があれば速やかに医師・臨床工学技士へ報告する。
「前回のQaが600→今回420 mL/minに低下」「PSVが400 cm/s超」など具体的な変化を報告できると、対応が早くなります。
看護師が最初に“気づく”ことが、血管を守る第一歩です。
参考:Zheng Y et al. Clinical value of ultrasound monitoring for early detection of vascular access dysfunction in hemodialysis patients. Kidney Blood Press Res 47(5):497-505, 2022.
シャント閉塞を防ぐ看護のコツと日常ケア
穿刺部位のローテーション
- 同じ場所を避け、毎回1cmずつ位置をずらす。
同一点穿刺は血管の瘢痕化や仮性動脈瘤の原因になります。定期的に位置をずらすことで、血管を長持ちさせられます。
日常生活での血管保護
- シャント肢での採血・血圧測定は禁止。
- 腕を締めつける服や時計は避ける。
- 重い荷物を長時間持たない。
日常生活での圧迫が続くと、血流が阻害されて狭窄が進みます。患者指導では「腕を守る」という意識づけを重視します。
PTA(経皮的血管拡張術)とは
PTAは、狭くなった血管に細いカテーテルを挿入し、バルーンで内腔を広げる治療です。局所麻酔で行われ、成功率が高く、術後すぐに血流が改善します。
参考:Quencer KB, Harland RC.Hemodialysis access thrombosis.Am J Kidney Dis 69(2):256-266, 2017.
薬剤付きバルーン(DCB)
再狭窄を防ぐために薬剤をコーティングしたバルーンが使用されることがあります。バルーンを膨らませると薬剤が血管内膜に浸透し、過剰な細胞増殖を抑えます。PTAを何度も行っている患者さんでは、再発予防に有効な選択肢です。
参考:高橋英夫ほか.バスキュラーアクセス狭窄に対する薬剤付きバルーンの有用性.腎と透析 92(7):705-710, 2022.
閉塞時の初期対応
- スリルが消えたら、すぐに医師・臨床工学技士へ報告。
- 軽度の閉塞ではマッサージやウロキナーゼで改善することも。
早期対応が血管を守るポイントです。閉塞から時間が経つと再開通率が下がります。
参考:野口大介ほか.シャント閉塞に対する局所管理.臨床泌尿器科 75(8):789-794, 2021.
特殊なケース(橈骨動脈閉塞など)
吻合部近くの動脈が詰まってしまった場合でも、VAIVT(バスキュラーアクセス血管内治療)で再開通が可能な場合があります。ガイドワイヤーを血管内に通してバルーンで拡張する治療法です。
参考:井上智浩ほか.橈骨動脈閉塞例に対するVAIVTの1例.臨牀透析 31(1):64-67, 2015.
まとめ|スリルの変化を見逃さないために
- 透析シャント閉塞の多くは静脈狭窄が原因。
- 観察の基本は「聴く・触る・見る」。
- エコーを組み合わせた早期評価が閉塞予防のカギ。
- 早期発見・早期治療でシャントを長く使い続けられる。
日々の小さな観察が、シャント閉塞を防ぐ最も確実な方法です。今日の透析から「スリルの変化」に意識を向けてみましょう。
参考文献:
1. 高橋英夫ほか.バスキュラーアクセス狭窄に対する薬剤付きバルーンの有用性.腎と透析 92(7):705-710, 2022.
2. 野口大介ほか.シャント閉塞に対する局所管理.臨床泌尿器科 75(8):789-794, 2021.
3. 井上智浩ほか.橈骨動脈閉塞例に対するVAIVTの1例.臨牀透析 31(1):64-67, 2015.
4. Quencer KB, Harland RC.Hemodialysis access thrombosis.Am J Kidney Dis 69(2):256-266, 2017.
5. Asif A et al. Diagnostic criteria and predictors of arteriovenous access stenosis. J Vasc Access 21(6):852-859, 2020.
6. Zheng Y et al. Clinical value of ultrasound monitoring for early detection of vascular access dysfunction in hemodialysis patients. Kidney Blood Press Res 47(5):497-505, 2022.
7. 日本透析医学会.バスキュラーアクセスの管理指針.2020.
