こんにちは、臨床工学技士の秋元です。
お酒を飲むと、主に肝臓で「エタノール→アセトアルデヒド→酢酸」へと代謝されていきます。
これらの物質のうち、気分が良くなるのはエタノールの作用、逆に顔が赤くなったり、気分が悪くなったりするのはアセトアルデヒドの作用です。
本記事では、「エタノールからアセトアルデヒド」への代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)について、アイソザイムや遺伝子多型などを含めて、どこよりも詳しく、かつわかりやすく解説します。
目次
アルデヒド脱水素酵素とは?わかりやすく解説してみた
お酒を飲むと、主に肝臓でADH(アルコール脱水素酵素)とALDH(アルデヒド脱水素酵素)という2つの酵素によって、最終的には酢酸という無害な物質へと代謝されます。
- ADH(アルコール脱水素酵素)
- ALDH(アルデヒド脱水素酵素)
本記事では、このALDH(アルデヒド脱水素酵素)について、そのアイソザイムや遺伝子多型について詳しく解説していきます。
ちなみに、お酒のことをアルコールといったりしますが、アルコールは総称名で、化学的にはエタノールといいます。
アルコールとエタノールの違いは下記の記事で解説していますので、興味のある人はご覧ください。
【お酒】アルコールとエタノールの違いをわかりやすく解説してみたお酒(エタノール)の代謝
お酒を飲むと、胃や腸から吸収されて、大部分のお酒(エタノール)は肝臓で処理されます。
エタノールの代謝経路は、様々な酵素が関わっていますが、主に肝臓におけるアルコール脱水素酵素(ADH1B)、アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)による代謝が大きな比重を占めています。
なお、ADH1B(旧名:ADH2)とALDH2の遺遺伝子型の違いによって、お酒に強いかどうかという体質が決まります。
エタノールの代謝の詳しい説明
エタノールの約80%が細胞質のADH(アルコール脱水素酵素)によってアセトアルデヒドに代謝されます。
残りが小胞体の薬物代謝酵素CYP2E1を中心とするミクロソームエタノール酸化酵素系(MEOS)、あるいはペルオキシソームのカタラーゼ系により、それぞれアセトアルデヒドへと代謝されます。
次に、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素)によりアセトアルデヒドは酢酸に代謝されます。
最終的に酢酸は全身の組織に入り、クエン酸回路によって二酸化炭素と水にまで代謝され、汗、尿、呼気を通して出ていきます。
アルデヒド脱水素酵素の構造
ALDH2は、4量体の構造です。
ALDH2を構成しているそれぞれのサブユニットは、単独の遺伝子の翻訳によってつくられます。
例えば、ALDH2*1遺伝子から1つのサブユニット、ALDH2*2遺伝子から1つのサブユニットという感じです。
アルデヒド脱水素酵素の種類【アイソザイムは19種類】
上の表のように、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)には19種類のアイソザイムがあります。
このアイソザイムの中で、アセトアルデヒドを代謝するのに特に重要なのは肝細胞のミトコンドリアにあるALDH2です。
アイソザイムについて詳しく知りたい人は下記の記事をご覧ください。
アイソザイムとはなに?わかりやすく解説してみたALDH2の遺伝子多型【アセトアルデヒドの代謝に特に重要】
- ALDH2*1遺伝子:活性型
(アセトアルデヒドの代謝の活性が強い) - ALDH2*2遺伝子:非活性型
(アセトアルデヒドの代謝の活性が弱い)
ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)には2つの遺伝子多型があり、お酒に強いかどうかはこのALDH2の遺伝子多型で決まっています。
アルデヒドの代謝の活性が強い活性型のALDH2遺伝子はALDH2*1、活性のない非活性型のALDH2遺伝子はALDH2*2と呼びます。
どの遺伝子多型を持っているかは人によって違っていて、これがアセトアルデヒドに対する代謝能力の個人差ということになります。
例えば、ALDH2*1/*2の遺伝子型を持っている人は、ALDH2*1遺伝子由来のサブユニットが1個、ALDH2*2遺伝子由来のサブユニットが1個ずつの比率、つまり1:1の割合でつくられます。これらサブユニットがランダムに組み合わさって4量体となります。そして、4つのサブユニットのうちの1つにこのALDH2*2遺伝子由来のサブユニットが入った場合、2つの2量体の一方の立体構造が崩れ、酵素活性がなくなります(しかし、もう片方の2量体の活性は残るため、4量体として50%の酵素活性となります)。
4量体のすべての組み合わせについて、酵素活性、出現頻度、半減期を考慮して計算すると、ALDH2*1/*2の遺伝子型を持っている人は、ALDH2*1/*1の遺伝子型を持っている人と比べて、理論上1/16の酵素活性しか残りません。
遺伝子型とお酒に対する強さの関係
アセトアルデヒドの代謝に重要なのはALDH2ですが、このALDH2遺伝子には2種類の遺伝子多型「ALDH2*1」と「ALDH2*2」があり、私たちはいずれかを2つもっています。
つまり、ALDH2*1とALDH2*1を持っている人、ALDH2*1とALDH2*2を持っている人、ALDH2*2とALDH2*2を持っている人の3パターンがあります。
- ALDH2*1/*1:野生型、NN型
(ALDH2*1とALDH2*1を持っている人) - ALDH2*1/*2:ヘテロ欠損型、ND型
(ALDH2*1とALDH2*2) - ALDH2*2/*2:ホモ欠損型、DD型
(ALDH2*2とALDH2*2を持っている人)
野生型の遺伝子を持っている人はアセトアルデヒドの代謝能力がもっとも強くお酒に強いタイプ、ヘテロ欠損型を持っている人は野生型に比べてアセトアルデヒドの代謝能力は1/16、ホモ欠損型ではほぼアセトアルデヒドの代謝能力はありません。
ちなみに日本人では、約50%が野生型、約40%がヘテロ欠損型、約10%がホモ欠損型です。
つまり、日本人の約半分はお酒に弱いタイプであるといえます。
ALDH2遺伝子多型を簡単に確認する方法
「ビールコップ1杯程度の飲酒で顔が赤くなりますか?」「飲み始めた頃の1~2年間はそういう体質でしたか?」という質問に対して、いずれかが「はい」であれば、90%の感度、特異度でALDH2不活性者と判断できます(1)。
アセトアルデヒドの毒性
アセトアルデヒドには毒性があって、発がん性もあります。
消化管の常在細菌は、アルコールを代謝してアセトアルデヒドを産生するため、消化管内腔では飲酒後のアセトアルデヒド濃度が著しく高いです。
フラッシング反応
ALDH2欠損者は、少量の飲酒で顔が赤くなったり、眠気、頭痛などのフラッシング反応を起こしやすいです。
ちなみに、お酒を飲んで顔が赤くなる人というのは白人や黒人にはいません。これは黄色人種限定の所見です。
この理由は先ほど説明したように、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素)の酵素活性の個人差によるものです。
日本人の約半数は、ALDH2の酵素活性がすごく低いか、ゼロです。
お酒で顔が赤くなる理由
お酒で顔が赤くなる理由は、アセトアルデヒドのせいです。
アセトアルデヒドのせいで交感神経が刺激されて、毛細血管が拡張して、血液が多く流れるので顔が赤くなります。
酒で赤くなる人は要注意
お酒を飲むと癌になるリスクが上がります。
一般的に、食道癌に関しては4倍程度上がるといわれています。4倍程度なら、まぁ自分は大丈夫、と大抵の人は思うかもしれませんが、お酒を飲んで顔が赤くなるようなタイプの人は、さらにその食道がんのリスクが数十倍~百倍上がるといわれています。
ですので、顔が赤くなる人は基本的にお酒は飲まないほうがいいです。
また熊本機能病院に水野医師らによると、お酒を飲んで顔が赤くなるような、アセトアルデヒドを分解する能力が低い人は、飲酒によって冠攣縮性狭心症が誘発され、心臓突然死のリスクが高くなると報告しています。
交感神経に対する影響
アセトアルデヒドには交感神経を刺激する作用があります。しかも、それがかなり強力です。
この交感神経刺激作用によって、脈が上がったり、血圧が上がったり、動悸がしたりといったことが起こってきます。
まとめ:アルデヒド脱水素酵素とは?
アルデヒド脱水素酵素(ALDH)とは、エタノールをアセトアルデヒドに代謝する酵素です。
一般的にお酒に強い人、弱い人というのは、このアルデヒド脱水素酵素の遺伝子多型によって決まっています。
上の表にまとめたとおり、ALDH2*1/*1(ALDH2*1遺伝子とALDH2*1遺伝子を持っている人)はお酒に強く、ALDH2*1/*2(ALDH2*1遺伝子とALDH2*2遺伝子を持っている人)はお酒に弱く、ALDH2*2/*2(ALDH2*2とALDH2*2を持っている人)はお酒を全く飲めません。
ですので、自分がお酒に弱いタイプの遺伝子を持っている人は、無理にお酒を飲むのは辞めましょう。お酒を飲めるタイプの人よりも、発がん性や心疾患のリスクが高いといわれていますので。
というわけで今回は以上です。エタノールをアセトアルデヒドに代謝する酵素であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)について、どこよりもわかりやすく、かつ詳しく解説してみました。この記事が少しでも皆様の参考になったのなら幸いです。
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