- CHDFは、循環が不安定な患者さんで「体液・電解質・酸塩基」を補正する治療です。
- 浄化量の基本は20–25 mL/kg/時。
- 抗凝固は未分画ヘパリン(UFH)またはナファモスタットが中心。出血リスクが高ければナファモスタット(おおむね10–30 mg/時)。
- モニタは動脈圧(陰圧側)・静脈圧(陽圧側)・TMPの「変化」を見るのが基本。アラーム発生時はアクセス→回路→膜の順に原因を考えます。
- 低リン・低K(カリウム)は起こりやすいので注意が必要。
目次
CHDFとは
CHDFの定義(日本語名とCRRT内の位置づけ)
CHDF(Continuous Hemodiafiltration)は、日本語では持続的血液濾過透析と呼ばれます。
主にICUやCCUで、急性腎障害(AKI)や多臓器不全を合併し、特に循環動態が不安定(血圧低下など)の重症患者さんに対して行われる血液浄化法の一つです。24時間体制で持続的に治療を行うため、CRRT(持続的腎代替療法)の一つに分類されます。
CHDFの原理(透析と濾過の“いいとこ取り”)
- 血液透析(HD:拡散):透析液との濃度差を利用して小分子(尿素窒素BUN、クレアチニンなど)を効率よく除去。
- 血液濾過(HF:濾過/対流):圧をかけて濾液を抜き、同時に中分子の除去します。抜いた分は補充液(サブラッドなど)で置き換える。
CHDFはこの拡散+濾過(=HDF)を連続的に行うため、小分子から中分子まで幅広く、かつ緩やかに除去できます。
なぜ敗血症に効くのか(メカニズム)
CHDFが敗血症で注目される理由は、腎機能の代替にとどまらず、炎症の原因物質(サイトカイン等)を取り除く働きがあるためです。
PMMA(ポリメチルメタクリレート)膜など一部の膜は、拡散・濾過とは異なる「吸着(adsorption)」でIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインを膜そのものにくっつけて除去します。これにより、サイトカイン過剰の悪循環(サイトカインストーム)を鎮め、血圧の安定や臓器障害の進行を抑えることを狙います。
- ポイント:PMMAやAN69ST、oXiris等の「吸着能」をもつ膜では、24時間連続の“弱い吸着”を積み重ねるイメージです。
- 注意:循環動態の改善や昇圧薬の減量は報告されていますが、死亡率改善は一貫して確立していません(膜の種類によって結果にばらつきあり)。
参考文献:
PMMAのサイトカイン吸着:包括解析(2022)/吸着型ヘモフィルタ概説(2016)/AN69ST vs PMMAの吸着比較(2023)
適応と導入判断(いつCHDFにするか)
適応の目安(看護の着眼点)
- 尿量低下、体液過剰で呼吸苦・浮腫が強い
- 高K(カリウム)、重度アシドーシス、高アンモニア血症などが持続
- 敗血症性ショックで間欠透析だと血圧がさがってしまう
研究で示される主な適応領域
- AKIと循環維持:短時間IHDだと血圧が下がりやすい症例でも、CHDFは緩やかな除水と浄化で施行しやすい。
- 敗血症と炎症性物質の管理:サイトカイン吸着を活かす戦略(PMMA/AN69ST/oXiris等)。循環動態の改善や昇圧薬減量の報告はある一方、死亡率改善は未確立。
- 難治性うっ血性心不全:利尿不応で体液過剰が強い場合に、心負荷を抑えつつ除水する目的で選択。
- その他:肝不全関連の意識障害の覚醒効果(高アンモニア血症)、内分泌クリーゼ等(主に症例報告)。
ガイドラインでのRRT開始基準(要点)
腎代替療法(RRT)は、生命を脅かす体液・電解質・酸塩基の異常がある場合に緊急に開始します。代表例は以下のとおりです。
- 標準治療に反応しない高K/重度の代謝性アシドーシス
- 利尿で改善しない肺水腫
- 尿毒症の合併症(意識障害、けいれん、心外膜炎 など)
- 高窒素血症の進行で全身状態や他臓器に悪影響が出ている
開始判断は単一のBUN/Crでは決めないのが原則。循環が不安定ならCHDFを第一に考えます。
CRRTとIHDの比較(AKIのアウトカム)
AKIに対するCRRT(CHDFを含む)とIHDの死亡率・腎回復については、明確な優位性は一貫して示されていません。一方で循環が不安定、脳圧を亢進させたくないなどの状況では、CRRTが選ばれます。
新人向けチェック(適応)
- 「何が目的のCHDFなのか(体液・電解質・酸塩基)」を毎回メモ。
- 高K・重度アシドーシス・肺水腫・尿毒症症状に注意
- 循環が不安定ならCHDFを検討。
参考文献:
KDIGO AKIガイドライン 2012/CRRT vs IHD メタ解析(2017)/CRRT vs IHD メタ解析(2024)
初期設定(Qb・Qf・Qd・UF)
Qb(血流量)の目安と調整
成人は100–150 mL/分から開始が一つの目安です。
脱血圧がが過度に下がる(例:−100 mmHg前後を超える)と、吸い込み不足・屈曲・体位不良の可能性。Qbを一段階下げて、体位やラインを整えます。
Qf/Qd(置換液・透析液)の組み立て
届く浄化量(mL/kg/時)を20–25に確保するのが基本です。
浄化量のイメージ(体重別の具体例)
「浄化量20–25 mL/kg/時」がどれくらいの流量かを、体重ごとに数字で確認します。
- 例1:体重60 kg
・浄化量=20–25 mL/kg/時 → 1.2–1.5 L/時
・設定例:前希釈(Qs:200mL/時)+透析液(Qd:1000 mL/時)(合計1.2 L/時)
上記の設定で、除水をしない場合、濾過量(Qf:1200mL/時)にします。
除水
除水は血圧をみながら少しずつ。
新人向けチェック(初期設定)
- 開始前に目標(尿量・電解質・pH・体重)をチェック。
参考文献:
KDIGO AKI/RENAL(高強度の無益性)
抗凝固(無ヘパリン/UFH/ナファモスタット)
無ヘパリンで開始する場面
術直後や出血リスクが高いときは無ヘパリンでCHDFを開始することがあります。
ただし回路寿命は短くなりやすいので、動脈圧・静脈圧・TMPの「じわじわ変化」していたら要注意。短時間で詰まりやすければ、抗凝固の導入・切替を主治医と相談します。
未分画ヘパリン(UFH)
出血リスクが許容できるときの選択肢。APTTやACT、回路圧の推移を合わせて見ます。ヘパリン起因性血小板減少(HIT)が疑わしければ中止します。
ナファモスタット(出血高リスクで扱いやすい)
半減期が短く、出血リスクが高い症例で使いやすい薬剤です。運用レンジは10–30 mg/時が目安。
新人向けチェック(抗凝固)
- 出血リスク(ドレーン出血、血小板、凝固系)を開始前に確認。
- 抗凝固変更時は「いつ・なぜ・どれだけ」を申し送りに残す。
参考文献:
AN69STとナファモスタットの相互作用(2017)
膜・回路・補液の選び方(炎症・電解質に先回り)
膜素材の考え方(AN69ST/PMMA/PSなど)
炎症性物質の吸着を期待できる膜(PMMA、AN69ST、oXirisなど)の活用報告があります。
循環の安定化や昇圧薬減量の報告はありますが、死亡率の明確な改善は未確立です。基本は感染源コントロール・抗菌薬最適化を優先します。
リン・K(カリウム)含有液
低Kは頻発します。サブラッドなどの置換液にKを加えて補正する場合もあります。
参考文献:
oXiris:システマティックレビュー(2023)/oXirisレビュー(2023)
血管アクセスと再循環の最小化
基本戦略
- 第一選択は右内頸静脈(SVCへ直線的で血流が安定しやすい)。
- 先端位置はSVC〜右房接合部付近を目安にし、屈曲や壁当たりを避けて固定。
参考文献:
KDOQI VA 2020
監視(動脈圧・静脈圧・TMP)とアラーム対応
脱血圧の見方
過度の陰圧(例:−100 mmHg前後を超える)が続くと、吸い込み不足・屈曲・先端壁当たりを疑います。Qbを一時的に下げて→体位/ライン位置調整→再評価の順で対処します。
静脈圧(陽圧側)の見方
静脈圧上昇はVチャンバ凝固のサインです。
TMP(膜間圧)の見方
じわじわ上がるのは膜の目詰まりのサインです。
トラブルシューティング(詰まり・圧上昇・除水不良)
フィルタ凝固・寿命短縮
- 圧の推移(TMP上昇/フィルタ差圧上昇)で早めの交換を検討。
抗菌薬投与(“効かせる”コツ)
基本
βラクタムは時間依存性です。
初回負荷+延長/持続投与で目標濃度を保ちやすくなります。
βラクタムは「時間依存性」とは?(やさしく解説)
結論:βラクタム(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)の殺菌力は、血中の遊離薬物濃度がMIC(最小発育阻止濃度)を超えている時間の長さで決まります。
これを fT>MIC と表します。「一瞬だけ高濃度」より、できるだけ長い時間MICを上回り続けることが大事、という意味です。
- なぜ“時間”が大事?
βラクタムは濃度を上げても一定以上は“頭打ち”になりやすく、効果を伸ばすには谷(トラフ)をMICより上に保つのが近道だからです(=fT>MICを伸ばす)。 - どれくらい上回れば良い?(目安)
一般に、ペニシリン系は≳50% fT>MIC、セフェム系は≳60–70%、カルバペネム系は≳40%が目標の目安です。重症例では100% fT>MIC(場合により4×MIC)を狙う考え方もあります。 - どうやって時間を稼ぐ?(投与の工夫)
延長投与(3–4時間かけて点滴)や持続投与にすると、ボーラス(30–60分)よりもfT>MICを長く確保しやすく、到達率や一部アウトカムの改善が報告されています。 - CHDF(CRRT)中のポイント
CHDFでは薬が“抜けやすい・分布が大きい”ことが多く、短時間ボーラスだと谷がすぐ下がりやすいです。原則は初回負荷投与→延長/持続投与、中断(CT搬送・回路交換など)を見越した設計、可能ならTDM(治療薬物モニタリング)で確認します(具体の用量は院内プロトコルに従ってください)。
Critical Care 2018:抗菌薬PK/PDの基礎(fT>MICの概念)/
Front Pharmacol 2022:βラクタムのPD閾値(系統別の%fT>MIC)/
Pharmacotherapy 2022:延長・持続投与レビュー/
BMC Nephrol 2022:CRRT下のβラクタム投与実態(100% fT>4×MICを目標とする傾向)
膜の吸着と薬剤濃度低下(注意)
吸着能のある膜(PMMA/AN69ST等)では、抗菌薬・抗真菌薬なども膜に吸着して血中濃度が下がることがあります。
とくにバンコマイシン、テイコプラニン、ゲンタマイシンなどで報告があり、用量の再検討やTDMの活用が重要です。
TDM(治療薬物モニタリング)
目的:「効かせるのに足りない」を防ぎつつ、「多すぎて毒性」を避けるために、血中濃度を測って用量と投与法を調整する手順です。
CHDF中は薬剤が抜けやすく、回路・設定の変更でもクリアランスが変わるため、定期的な見直しが重要です。
- 対象となりやすい薬剤
・バンコマイシン(VCM):AUC/MIC 400–600を目標(通常はMIC=1を仮定)。トラフ単独よりAUCベースを推奨します。
・テイコプラニン(TEIC):重症感染では目標トラフ(例:15–30 mg/L)の設定が一般的。
・アミノグリコシド系(ゲンタマイシン等):ピーク(Cmax)/MIC ≧8–10を目標に投与設計。
・βラクタム系(施設でTDM可能なら):fT>MIC(できれば100%または4×MIC)を狙えるよう、延長/持続投与と組み合わせて確認します。 - 採血タイミングの基本
・VCM:負荷投与→24–48時間以内に採血し、ベイズ法などでAUC推定(持続投与中でも可)。回路交換・設定変更(エフルエント増量)後は翌日以降に再評価。
・TEIC:定常状態(初回から48–72時間目)でトラフ確認。重症・吸着膜使用時は早めに一度確認。
・アミノグリコシド:投与後30–60分のピークと、次回投与直前のトラフで濃度勾配を把握。
・採血は透析回路から直接は避ける(希釈・吸着の影響)。基本は末梢静脈または中心静脈ラインから。 - CHDF設定とのひも付け(濃度が下がる理由)
・Qs+Qd+Qf+除水量を上げるほど薬のクリアランス↑。
・吸着能のある膜(PMMA/AN69ST等)は初期に濃度を余分に下げることがある → 十分な負荷投与+早めのTDM。 - 投与法のコツ(CHDFで「切らさない」)
・βラクタム:負荷投与→延長(3–4時間)または持続投与を優先。fT>MICを伸ばしやすい。
・VCM:負荷投与→AUC 400–600を外さないよう、持続投与や短間隔投与+TDMで調整。
・AGs:濃度依存性を活かすためピーク確保(必要なら投与量↑)+腎毒性回避でトラフ低値を意識。 - よくある落とし穴
・延長/持続投与中に点滴を中断して採血→実際より低く見える。投与状況を記録してから採血。
・採血時刻の記録漏れ→解析不能。投与開始/終了・採血時刻は毎回メモ。
・「腎機能改善=用量減らす」だけでは不十分。CHDF条件も同時に見直す。 - 申し送りの最小セット
「薬剤名/投与方法(ボーラス・延長・持続)/投与開始・終了時刻/採血時刻と部位/CHDF条件(Qs・Qd・Qf・除水量・膜名)/変更点(回路交換)」を一行で残すと、次の担当がすぐ判断できます。
参考文献:
Vancomycin AUCガイダンス(ASHP/IDSA 2020)/
延長・持続投与レビュー(Pharmacotherapy 2022)/
CRRT下のβラクタム到達率(BMC Nephrol 2022)/
アミノグリコシドPK/PD概説(AAC 2021)
栄養・微量元素(“失われる前提”で補う)
何が失われる?
CHDFでは、アミノ酸・水溶性ビタミン(B1・C)・微量元素(銅・セレンなど)が失われます。
新人向けチェック(栄養)
- 入出量と栄養投与量を毎日確認(体重・浮腫もセット)。
- ビタミンB1は乳酸代謝に関わるため、欠乏に注意。
参考文献:
Micronutrient/Amino acid losses(2019)
評価と離脱・切替
達成目標の確認
- 尿量の回復、乳酸の改善、電解質の安定、昇圧薬の減量が見られるか。
- 膜交換を繰り返しても改善が乏しければ、治療目標を見直します。
IHD/OHDFへの切替・中止後の再導入
循環変動の許容が得られたらIHD/OHDFへ。
参考文献:
KDIGO AKI
よくある質問(FAQ)
Q. 抗凝固は何を選べば良い?
出血リスクが高ければナファモスタット 10–30 mg/時を検討。許容できればUFH。HITの既往・疑いがあればUFHは避けます。
参考文献:
RENALまとめ(RRT 2016)