このページは、主要な抗菌薬について「点滴の最小投与時間(外さないライン)」と、現場で見落としやすい注意点を簡潔にまとめたものです。添付文書・国内ガイドラインを優先し、必要に応じて国際ガイドラインも併記します。
- 敗血症性ショックは認知から1時間以内に抗菌薬。ショックでない敗血症は最長3時間以内に投与の是非を判断し、可能性が高ければ投与。
- 点滴時間は添付文書の最小ラインを厳守(例:バンコマイシンは1g>60分、1.5g>90分、2g>120分)。
- セフトリアキソンは新生児(≤28日)でカルシウム製剤同時投与禁忌。28日超では同時投与回避+十分フラッシュで順次投与可。
- 初期広域カバーでバンコマイシン+タゾバクタム/ピペラシリン(T/P)はAKIリスクが高め。代替としてバンコマイシン+セフェピム/メロペネムも選択肢。
- βラクタムの延長/持続投与は重症例・MIC高めで有益。一律ではなく条件付きで検討。
目次
敗血症では「いつ投与するか」を先に決める
敗血症性ショックでは、認知から1時間以内の速やかな投与が推奨です。ショックでない敗血症では、まず感染と非感染の鑑別を素早く進め、最長3時間以内に投与の是非を判断します。可能性が高い場合は遅らせない方針で動きます。
参考文献:
Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 /
Evans L, et al. Intensive Care Med. 2021 /
J-SSCG 2024(日本版ガイドラインの概要)
抗菌薬の点滴時間・最小投与時間(成人)
腎機能、濃度・容量、静脈路の条件により延長が適切な場合があります。
| 薬剤 | 最小投与時間 (標準用量時) |
メモ |
|---|---|---|
| バンコマイシン(VCM) | 1 g > 60分/1.5 g > 90分/2 g > 120分 | 投与時関連反応の回避に有用。TDM前提で用量設計。 |
| レボフロキサシン 500 mg(IV) | 約60分 | 国内添付文書の標準。腎機能で調整。 |
| アジスロマイシン 500 mg(IV) | 2時間 | 日本の添付文書では2時間。海外ラベルは1–3時間など可変。 |
| セフトリアキソン(CRO) | 30分以上 | 新生児(≤28日)はCa含有製剤との同時投与禁忌。28日超は同時投与回避+ライン十分フラッシュで順次投与可。 |
| セフェピム(CFPM) | 30分〜1時間 | 高用量や刺激症状が出る場合は延長も選択。 |
| メロペネム(MEPM) | 30分以上 | 化膿性髄膜炎では高用量投与あり。腎機能で調整。 |
| タゾバクタム/ピペラシリン(T/P) | 30分以上 | 腎機能で調整。高リスク例では延長投与も考慮。 |
参考文献:
KEGG Medicus:バンコマイシン(用法・用量と60分以上) /
抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン 2022(VCMの投与時間目安) /
KEGG Medicus:レボフロキサシン(約60分) /
レボフロキサシン点滴静注バッグ500mg 添付文書 /
KEGG Medicus:ジスロマック点滴静注用500mg(2時間) /
KEGG Medicus:セフェピム(30分以上) /
日本薬局方:メロペネム(30分以上) /
日本薬局方:タゾバクタム・ピペラシリン(30分以上)
セフトリアキソン × カルシウム(年齢で対応が変わります)
新生児(≤28日)は併用禁忌です。28日を超える患者では同時投与は避け、ラインを十分にフラッシュして順次投与します。
参考文献:
FDA ラベル(CROとCa:≤28日で禁忌/28日超は順次投与可) /
配合変化レビュー(CROとCaに関する国内解説)
バンコマイシン+T/PのAKIリスクに注意
観察研究とネットワーク・メタ解析の蓄積から、バンコマイシン+T/Pはバンコマイシン+セフェピム/メロペネムと比べてAKIリスクが高い傾向が一貫して示されています。初期治療では、患者背景と感染臓器に応じてVCM+CFPM/MEPMも選択肢に置き、必要最小限の期間でデエスカレーションしましょう。
参考文献:
Pan K, et al. 2024:ネットワーク・メタ解析 /
Alshehri AM, et al. 2025:系統的レビュー/メタ解析
βラクタムの延長/持続投与は「条件付きで有用」
重症肺炎やICU患者では、延長/持続投与で%fT>MICの達成率が上がり、一部で転帰改善が示されています。一方で効果の大きさにはばらつきがあり、重症例・MIC高め・クリアランス亢進が疑われるケースで優先度が上がります。ルート事情や同時投与薬、看護負荷も踏まえて運用を選びます。
参考文献:
J-SSCG 2024(抗菌薬投与法の項) /
Li Y, et al. AAC 2025:ICU肺炎でのRCTメタ解析 /
Li Y, et al. AAC 2025:βラクタム延長・持続投与のメタ解析
「セフェムは腸球菌に無効」の例外(心内膜炎)
一般論としてセフェムは腸球菌に乏効ですが、Enterococcus faecalis の感染性心内膜炎では、アンピシリン+セフトリアキソンのβラクタム二剤併用が選択肢として確立しています(E. faeciumには用いません)。
参考文献:
日本循環器学会 JCS 2017 心内膜炎ガイドライン /
Beganovic M, et al. Clin Infect Dis. 2018(総説)
まとめ
- 点滴時間は「最小ライン」を外さないのが安全策。VCMは1 g > 60分を基準に、用量に応じて延長。
- 敗血症性ショックは1時間以内、非ショック敗血症は3時間以内に判断→高疑いなら投与。
- CROとCaは新生児で同時投与禁忌。それ以外は同時投与回避+十分フラッシュで順次投与。
- VCM+T/PはAKIリスク高め。VCM+CFPM/MEPMも選択肢。
- 延長/持続投与は重症・MIC高めで優先。