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透析患者さんのCKD-MBDとは?ガチで機序を解説してみた

こんにちは、臨床工学技士の秋元麻耶です。

本記事では、慢性腎臓病(CKD)である透析患者さんの慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD:chronic kidney disease-mineral and bone disorder:)の機序についてわかりやすく解説します。

透析患者さんにおけるCKD-MBDの概要

  • CKD-MBD:Mineral and Bone Disorder
    (骨・ミネラル代謝異常)

腎臓は、体内のミネラルの恒常性を維持するために重要な臓器です。

末期腎不全の透析患者さんでは、骨・ミネラル代謝異常(MBD:mineral bone disorder)が起こります。

これは以前までは、骨病変のみに主眼が置かれていたので、腎性骨異栄養症(ROD:renal osteodystrophy)と呼ばれていました。しかし、骨病変や副甲状腺の異常だけでなく、全身の血管石灰化にともなって生命予後に大きく影響します。ですので、全身性疾患として「慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(chronic kidney disease-mineral and bone disorder:CKD-MBD)」という概念でとらえられています。

血清カルシウムと血清リンがある一定濃度を超えると、イオン状態が破綻し、結晶化してリン酸カルシウムとなります。このリン酸カルシウム血症が血管などに沈着し、血管石灰化を含む異所性石灰化へと進展します。

本記事では、透析患者さんのCKD-MBDの機序について解説しています。

CKD-MBDの3つのポイント【検査異常・骨代謝異常・石灰化】

  1. カルシウム(Ca)、リン(P)、副甲状腺ホルモン(PTH)の検査異常
  2. 骨代謝異常
  3. 血管、軟部組織の石灰化

CKD-MBDにおいては、上記3つにポイントを分けることができます。

1つはカルシウム(Ca)、リン(P)、副甲状腺ホルモン(PTH)の検査の異常です。

2つ目は骨密度が低いといった骨代謝の異常。そして、3つ目は血管や軟部組織の石灰化です。

この3つが組み合わさった全身性の疾患がCKD-MBDで、生命予後にも大きく影響します。

慢性腎臓病によるCKD-MBDの機序の詳しい解説

慢性腎臓病によるCKD-MBDの機序

  1. 腎機能の低下、これによる腎臓からのリン排泄の低下
    (これがすべての始まりです)
  2. ビタミンDの活性化障害
  3. PTH(副甲状腺ホルモン)の上昇
  4. さらなる腎機能の低下
  5. 透析導入期

1.腎機能の低下によるリンの排出の低下

まず、腎機能の低下による腎臓からのリンの排出の低下です。これがCKD-MBDのすべての始まりです。

ただ、腎臓からのリンの排出が低下したからといって、すぐに血中のリンが上がるわけではありません。血中のリンの上昇に対し、骨細胞からFGF-23が分泌されます。

このFGF-23は腎臓の尿細管に作用してリンの再吸収を抑制し、尿中のリンの排出を増加させます。これにより血中のリンの上昇を抑えます。また、FGF-23は活性型ビタミンDの産生を抑制し、これにより後述しますがCKD早期におけるPTH分泌の原因となります。

慢性腎不全の患者さんは、高リン血症を防ぐためにFGF-23というリンを下げるホルモンが比較的早期(eGFRが60mL/min/1.73m2程度)から分泌が増加します。研究者の中では、FGF-23の上昇は、CKD-MBDにおいて最初に起こる出来事であり、CKD-MBD発症の指標になると考えている人もいます。最近の研究によると、eGFRが70mL/min/1.73m2を下回るとFGF-23 が上がり始めてくるようです。

2.ビタミンDの活性化障害

腎臓の実質が障害されると、ビタミンDの活性化障害が起こります。そして活性型ビタミンDが不足しますと、腸管からのカルシウムの吸収が低下し、低カルシウム血症が起きてきます。

ビタミンDは1α水酸化酵素により活性化されます。しかし、腎不全ではビタミンDを活性化することができないため、カルシウムの吸収が十分にできなくなり、血中のカルシウム濃度は低下します。より詳しくは下記の記事で解説しています。

しかし、この活性型ビタミンDの低下は、eGFRが50~60mlmL/min/1.73m2と比較的早い段階で始まります。

このように、腎臓の実質の障害と比べて、活性型ビタミンDの低下が起こる原因は、FGF-23が主な原因であると考えられています。

慢性腎不全の患者さんは、高リン血症を防ぐためにFGF-23というリンを下げるホルモンが比較的早期(eGFRが60mL/min/1.73m2程度)から分泌が増加します。
2007年に発表されたLevinらの研究によると、血清リンと血清カルシウムは末期CKDまで正常範囲に保たれるが、PTHの上昇と活性型ビタミンDの低下はeGFRが50~60mlmL/min/1.73m2で比較的早い段階から始まるとされています(1)。

ビタミンDってなに?という方は下記の記事でビタミンDについて解説しているので、よかったら併せてごらんください。

ビタミンD2とD3の違いってなに?【ビタミンDの種類など】

3.PTH(副甲状腺ホルモン)の上昇

PTH(副甲状腺ホルモン)の上昇は、eGFRが50~60mlmL/min/1.73m2と比較的早い段階で始まります。

この比較的早期からのPTH上昇の主な原因は、活性型ビタミンDの減少によるものと考えられています。

副甲状腺にはビタミンD受容体(VDR)があり、活性型ビタミンDによるビタミンD受容体の活性は、直接的に副甲状腺機能を抑制します。ですので、活性型ビタミンDが減少すると、直接的にPTHの分泌を促します。
2007年に発表されたLevinらの研究によると、血清リンと血清カルシウムは末期CKDまで正常範囲に保たれるが、PTHの上昇と活性型ビタミンDの低下はeGFRが50~60 mL/min/1.73m2で比較的早い段階から始まるとされています(1)。

保存期の早期では、古典的トレードオフでいわれているように、低カルシウム血症と高リン血症がPTHの分泌の刺激となるわけではありません。活性型ビタミンDの低下が、PTH分泌の最初の刺激だといわれています。

4.さらなる腎機能の低下

しかし、さらに腎機能が低下するとFGF-23のみではリンの上昇を代償しきれなくなります。さらに、PTHの分泌増加でも代償しきれなくなると、最終的に血清リンが増加し始めます。

ただし、PTHには骨吸収の亢進によってはリンを上昇させるようにも作用します。しかし、慢性的な血中のリンの濃度調節に大きく影響するのは、腎近位尿細管でのリンの再吸収抑制です。ですので、基本的にPTHはリン再吸収抑制作用から血中のリンを下げます。

血清のリンが実際に上昇してくるのは、FGF-23とPTHでもリン利尿が限界となるeGFRが30 mL/min/1.73m2以下に低下してからで、かなり腎不全が進行してからです。

CKD保存期の細かい研究によると,GFRが70 mL/min/1.73m2を切るとFGF-23 が上がり始め、eGFRが50 mL/min/1.73m2程度でもうひとつのリン利尿因子である PTH が上昇してきます。それでも代償しきれなくなったeGFRが30 mL/min/1.73m2以下でリンが上昇してきます。

Isakovaらの研究ではeGFRが40~49mL/min/1.73m2でリンが上昇するのは10%未満であると報告しています(2)。

このように、透析を導入していない保存期のCKD患者さんでは血清リンはあまり上昇しません。しかし、FGF-23とPTHは上昇してきます。

5.透析導入期

透析導入する末期CKDの状態にまでなってくると、血清リンは上昇してきますし、活性型ビタミンD低下による血清カルシウムの低下も出現しています。

これらが適切に管理されていなければ、PTH分泌が持続的に刺激されるため、二次性副甲状腺機能亢進症がさらに進展し、骨折リスクの増大や全身の血管石灰化の原因となり、生命予後を悪化させます。

まとめ:CKD:MBDの機序

  • 腎機能の低下による腎臓からのリンの排出の低下、これがCKD-MBDのすべての始まり
    (ただし、ここではFGF-23によって血清リンは上昇しない)
  • 活性型ビタミンDは比較的早い段階(eGFRが50~60mlmL/min/1.73m2)で減少(1)
    (主な原因はFGF-23の分泌増加)
  • PTHは比較的早い段階(eGFRが50~60mlmL/min/1.73m2)で上昇(1)
    (主な原因は活性型ビタミンDの低下)
  • 血清リンと血清カルシウムは末期CKDまで正常範囲に保たれる
  • 透析導入期には血清リンの上昇と血清カルシウムの低下が起こり、これらが適切に管理されていなければ二次性の副甲状腺機能亢進症がさらに進行する

まとめますと、PTHの分泌を刺激するものは、①リンの系、②ビタミンDの系、③カルシウムの系があります。これがCKDにおける二次性副甲状腺機能です。

この3つがCKDにおける二次性副甲状腺機能亢進症であり、CKDの進展とともにこれら3つが破綻し、二次性副甲状腺機能亢進症が完成します。

 

というわけで今回は以上です。

 

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