こんにちは、臨床工学技士のナキです。
私は透析室で働いているんですが、透析患者さんのほとんどは低アルブミン血症なので、血清カルシウムの評価には、血清アルブミンで補正した補正カルシウムを一般的に用います。
そこで本記事では、なぜアルブミンでカルシウムを補正する必要があるのかを解説したいと思います。
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結論:臨床ではPayne式が日本で広く用いられるが、0.8係数式(KDOQI/KDIGO系)も併記し、条件によりiCa測定を優先。
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理由:国内ではPayne式が簡便で普及。一方、0.8式の方がiCaとの相関が良い報告あり。
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根拠:JSDTはPayne式を紹介・容認、K/DOQI・KDIGO系は0.8式が一般的。近年は“補正Caは過信禁物”の議論も。
目次
補正カルシウムとは?(総CaとiCaの違いを30秒で)
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総Ca(total Ca)=血清中のカルシウム総量。内訳はおおむね iCa 45–50%/アルブミン結合 40%前後/陰イオン結合 ~10%。基準目安 8.6–10.2 mg/dL(2.15–2.55 mmol/L)。
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iCa=生理活性を持つCa。基準目安 1.12~1.32 mmol/L(≒ 4.5~5.3 mg/dL)。pHの影響を強く受け、pHが0.1上がると iCaは約0.05 mmol/L低下(目安)。
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補正Ca(corrected Ca)=アルブミン低値で“見かけ上”低く出る総Caを推算で補正した値(代表式:Payne式、0.8式など)。iCaの代替ではなく目安。
計算式(mg/dL、mmol/L)
- 補正カルシウム濃度(mg/dL)=総カルシウム濃度(mg/dL)+4-Alb(g/dL)
上記の補正カルシウムの計算式はPayneの式と呼ばれており、世界中で使われています。
参考:慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の臨床ガイドライン
実測した総カルシウム濃度に4を足して、アルブミン値を引くことで補正カルシウム濃度を求めることが可能です。
補正Ca:— mg/dL
式:cCa = tCa + 4 − Alb(単位は mg/dL)
補正カルシウムの計算式を使うのはいつ?
補正カルシウムの計算式は、アルブミンが基準範囲外のときに使用します。
アルブミンが基準範囲内であるならば、実測した総カルシウム濃度で評価します。
臨床ではアルブミンが低下することがほとんどなので、補正カルシウムの計算式は低アルブミン血症のときにつかうことが一般的です。Payneらも低アルブミン血症のときにのみこの補正カルシウムの計算式を使うべきと主張しています。
日本透析医学会「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」
低アルブミン血症(4.0g/dL未満)がある場合には、以下の式を用いて計算される補正Ca濃度を目安として用いる。
補正Ca濃度=実測Ca濃度+(4-Alb濃度)[Payneの補正式]
日本透析医学会の「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」では、アルブミンの値が4.0g/dL未満の場合に、Payneの式を使うことを推奨しています。
補正カルシウムの計算例
- 補正カルシウム=総カルシウム+4-アルブミン
=8.5mg/dL+4-3.6g/dL
=8.9mg/dL
総カルシウム濃度が8.5mg/dL、アルブミンが3.6g/dLのとき、補正カルシウムの計算式は上記のようになります。
その他の計算式:Payne式/0.8式/0.704式
臨床では Payne式「補正Ca = 総Ca + (4 − Alb)」が簡便で国内でも広く使われますが、0.8式「補正Ca = 総Ca + 0.8 × (4 − Alb)」を採る施設も多く、0.704式「補正Ca = 総Ca + 0.704 × (3.4 − Alb)」も代替として用いられます。
補正カルシウムとはなにか?
補正Ca(calcium)値は、アルブミン(Albumin;ALB)が基準範囲外のときに、生理的に重要なCaイオン(Ca2+)が足りないのか、足りているのかを判断するための指標である。
補正カルシウムは、アルブミンが基準範囲外のときにカルシウムを評価する指標です。
ALBが基準範囲内ならば、実測した総カルシウム値で評価します。
なぜアルブミンなのか?
血清カルシウムは3つの形態で存在し、イオン化したもの(50%)、小分子陰イオンにキレートされたもの(10%)、タンパク質(多くがアルブミン)と結合しているものである。
木澤は「血清カルシウムのアルブミン補正とその意義」の中で「低タンパク血症ではカルシウムイオン(Ca2+)が正常であってもタンパクと結合しているカルシウムが低下しており,見かけ上低カルシウム血症と判断される」と記しています。
そもそも、血液中のカルシウムの約50%はカルシウムイオン(Ca2+)として存在しています。残りの約50%は結合型カルシウムとして存在しています。
そして、これらのカルシウムの形態の中で生理的に活性をもつのは、カルシウムイオン(Ca2+)だけです。
ですが、通常の生化のスピッツで採血している血液検査では、これらすべてを合わせた総カルシウム濃度を測定しています。
しかし、低アルブミン血症の場合、アルブミンと結合したカルシウムが減少してしまい、その結果、総カルシウム濃度も減少してしまいます。
このとき、アルブミンと結合しているカルシウムが減少しているのか、それともカルシウムイオン(Ca2+)が少ないのかがわかりません。
(本当に、生体で活性のあるカルシウムイオン(Ca2+)が低下しているのかが不明ということ)
つまり、低アルブミン血症によるカルシウムイオン(Ca2+)の過少評価を避けるために補正カルシウムが必要だということです。
そこで、実測したアルブミンと総カルシウム濃度から補正カルシウムを計算してます。
補正カルシウムの信頼性
このように、補正Ca値が基準範囲下限未満であったとしてもCa2+値基準範囲内であったり、補正Ca値が基準範囲内であっても、Ca2+値は基準範囲下限未満であったりすることがある。患者さんの状態や他のデータをみて総合的に判断することが必要である。
補正カルシウムを測定する理由というのは、血清カルシウムイオン(Ca2+)を過少に評価しないためです。
(医者がほんとうに知りたいのは、生理的な活性をもつカルシウムイオン(Ca2+)です。)
しかし、補正カルシウムはあくまで計算上のものであり、実際のものではありません。
したがって、本当の低カルシウム血症を見逃してしまう可能性があります。
ですので、臨床的に怪しいなと思った場合、血液ガス分析装置で実際に測定して真の血清カルシウムイオン(Ca2+)を測定しましょう。
計算機
結果:—
※1 mmol/L ≈ 4.0 mg/dL(概算)
参考文献
- Payne RB, Little AJ, Williams RB, Milner JR. Interpretation of Serum Calcium in Patients with Abnormal Serum Proteins. BMJ. 1973;4(5893):643–646. BMJ
- National Kidney Foundation (K/DOQI). Bone Metabolism and Disease in CKD – Pediatric Guidelines, Guideline 7(補正式:Corrected total calcium = total Ca + 0.8×[4 − albumin])。NKF K/DOQI
- KDIGO 2009 CKD–MBD Clinical Practice Guideline(CKDにおける補正Caの扱い・限界についての言及)。PDF
- Guideline Working Group, Japanese Society for Dialysis Therapy (JSDT). Clinical Practice Guideline for the Management of CKD–MBD. JSDT PDF
- Labriola L, et al. The impact of the assay for measuring albumin on corrected (“adjusted”) calcium concentrations. Nephrol Dial Transplant. 2009;24(6):1834–1838. Full text
- Lian IA, et al. Should total calcium be adjusted for albumin? A retrospective observational study. BMJ Open. 2018;8:e017703. BMJ Open
- Desgagnés N, et al. Use of Albumin-Adjusted Calcium Measurements in Hospitalized Adults. JAMA Netw Open. 2025.(補正式の精度に関する近年の検討)Article
- MSD Manual Professional. Hypocalcemia(Alb 1 g/dL低下につきCa約0.8 mg/dL低下の目安)。MSD Manual
- Laboratory Medicine International. New formulas for iCa estimation over a wide range…(K/DOQI式として 0.704×(3.4−Alb) と 0.8×(4−Alb) を明記)。J-STAGE
というわけで、今回は以上です。
血清カルシウムの約半分はアルブミンと結合しているため、低アルブミン血症の場合には、臨床でわたしたちが生化学のスピッツで測定している血中のカルシウム値は低くなります。そのため、血清アルブミンが4g/mL未満の場合には、Payneの式をなどを使って補正カルシウム値を計算して評価する必要があるということです。
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