こんにちは、臨床工学技士の秋元です。
当たり前ですが、透析において透析液の組成(濃度)というのは非常に重要です。しかし、日々の業務の中で透析液の組成(濃度)を変化させることはほとんどありません。たまに、食事がほとんど摂れていないような患者さんで低K血症になってしまっている場合に、透析液にKを添加したりするくらいではないでしょうか?
とはいえ、透析に従事するスタッフとして、なぜ透析液の組成(濃度)がそうなっているのかというのは知識として知っておく必要があると思います。
そこで本記事では、透析液の組成(濃度)について、できるだけ詳しくまとめてみました。
目次
透析液の組成(濃度)
商品名 | メーカー | Na mEq/L |
K mEq/L |
Ca mEq/L |
Mg mEq/L |
Cl mEq/L |
HCO3- mEq/L |
Acet mEq/L |
Glu g/dL |
クエン酸 mEq/L |
Dドライ透析剤3.0S | 日機装 | 140 | 2.0 | 3.0 | 1.0 | 113 | 25 | 10※※ | 100 | - |
Dドライ透析剤2.75S | 日機装 | 140 | 2.0 | 2.75 | 1.0 | 112.75 | 25 | 10※※ | 100 | - |
キンダリー透析剤AF2号 | 扶桑薬品工業 | 140 | 2.0 | 3.0 | 1.0 | 110 | 30 | 8※※ | 100 | - |
キンダリー透析剤4E | 扶桑薬品工業 | 140 | 2.0 | 2.75 | 1.0 | 112.25 | 27.5 | 8※※ | 125 | - |
キンダリー透析剤5E | 扶桑薬品工業 | 140 | 2.3 | 2.6 | 1.2 | 113.9 | 30 | 4.2※※ | 150 | - |
カーボスター®透析剤 L | 陽進堂 | 140 | 2.0 | 3.0 | 1.0 | 111 | 35 | 0 | 150 | 2.0 |
カーボスター®透析剤P | 140 | 2.0 | 3.0 | 1.0 | 111 | 35 | 0 | 150 | 2.0 |
※※:pH調整剤の氷酢酸2mEq/Lも含みます。
日本で市販されている透析液の一例を上の表にまとめています。
基本的に透析液の電解質の組成は、細胞外液の組成に準じています。
そして、透析液の理想は血液の浸透圧を大きく変化させず、除去したい物質を除去できるという条件をクリアすることです。
これを踏まえて、これら透析液の組成(濃度)について、詳しく解説していきます。
なお、透析患者さんの血液検査の基準値は上記の本を参考にしています。
透析液のNa濃度
- 透析液のNa濃度:140mEq/L
- 透析患者の血清Na濃度の基準値:136~145mEq/L
透析液のNa濃度は、血漿浸透圧に大きく影響を与える物質ですので、血液中と同じくらいの濃度になっています。
現在の透析液 Na 濃度の主流は、生理的な濃度の140mEq/Lとし、血清Na濃度の変動を少なくするようにしています。
ただし、透析中の血圧低下など循環動態が不安定な患者さんに対し、透析液のNa濃度を高めた透析を行う場合もあります。透析液のNa濃度を高めることによって、血漿浸透圧を上昇させ、細胞内液から細胞外液へ水分移動を促し、透析中の低血圧を予防することができます。さらには筋痙攣や透析の導入時期の不均衡症候群の頻度を減少させます。しかし、透析液のNa濃度を高くすると、透析後の口渇が強くなり(血漿Na濃度の上昇が口渇中枢を刺激するため)、水分コントロールが不良になりやすいです。そのため、最近では高Na透析は積極的に行われていません。逆に透析液のNa濃度を130~135mEq/Lと低くすると、濃度勾配で体内からNaの除去、口渇感や体重増加の減少に効果がありましたが、血液中の浸透圧低下による血圧低下や不均衡症候群をきたす可能性が高まりました。
透析液のK濃度
- 透析液のK濃度:2.0~2.3mEq/L
- 透析患者さんの透析前の血清K濃度の基準値:3.6~5.0mEq/L
現在、日本で市販されている透析液のK濃度は2~2.3mEq/Lです。
長らく透析液のK濃度は2.0mEq/Lでしたが、透析後の低Kを防止するため、透析液K濃度が2.3mEq/Lのものが新たに発売されています。
なお、日本の透析液のK濃度は、1970年代から大きな変化はなく、血液からKを除去するために、血清Kの下限の2.0mEq/Lで設定されています。
腎不全では基本的に高K血症となります。ですので、Kをガンガン除去するために透析液にKを含めなければいいと思う人も思いますが、透析後に血清Kが下がりすぎるのも危険なため、透析後の血清K濃度を下げすぎないように、透析液のK濃度は2.0mEq/Lに設定されています。
ただし、食事がほとんどとれていないような人、慢性の下痢のある人、長時間透析をしている人では透析による透析後の低K血症によって不整脈が誘発される可能性があります。ですので、そういった場合には、Kを透析液に添加して、透析液のK濃度を2.5~3.0mEq/Lにやや高めて設定する必要があります。
また、透析後の血清Kについては、3.5mEq/L以下にしないほうが、体のだるさ、筋力低下、不整脈が起こりにくくなるという報告もあります(1)。
維持透析患者さんで、透析前の血清K濃度が低い場合、定められた分量で果物の摂取を推奨することもあります。
透析液のCa濃度
- 透析液のCa濃度:2.5mEq/L、2.75mEq/L、3.0mEq/L
- 透析患者さんの血清Ca濃度の基準値:8.4~10.0 mg/dL
(血清Caの約半分はALBと結合していて透析膜を通過しにくく、拡散によって通過できるのは残りのイオン化Ca(4.2~5.0mg/dL)です。これを電解質の単位に変換すると2.1~2.5mEq/Lとなります)
腎不全では、腸管からの吸収異常、Pの上昇により低Ca血症となります。
しかし最近では、Ca含有吸着薬の使用やビタミンD製剤の使用によって高Ca血症となる場合もあります。
当初は、透析液のCa濃度は2.5mEq/Lのものが使用されていましたが、低Ca血症にともなう二次性副甲状腺機能亢進症がみられました。そのため、透析液のCa濃度は3.0~3.5mEq/Lに上げられました。ようするに、透析液から血液にCaを補給を行っていました。
しかし、1980年に入ると、Ca含有リン吸着薬や活性型ビタミンD製剤の使用によって血清Caが上昇し、高Ca血症や血管石灰化などの症例が増えました。2000年代では透析液のCa濃度が2.5mEq/Lのものが使用されるようになりました。しかし、逆に低Ca血症になる症例もありました。
透析液のCa濃度に関しては、本来であれば患者さんの血清Ca濃度、Ca含有のリン吸着薬の有無、Ca受容体作動薬の処方による影響を考えるべきですが、多人数用透析液中央供給装置(CDDS)では設定することは難しいため、最近では中間的なCa濃度2.75mEq/Lを使用する施設が増えています。
最近では、透析液のCa濃度2.75mEq/Lを使用する施設が増えています。Caバランスに関しては、は透析患者さんの透析前Caの影響を受けますので、Caが高い人は透析で抜けますし、Caが低い人は逆にCaが体内へ入ってきてしまいます。
透析液のMg濃度
- 透析液のMg濃度:1.0~1.2mEq/L
- 透析患者の血清のMg濃度の基準値:1.8~2.4mg/dL(1.5~2.0mEq/L)
(Mgは2価の陽イオンで原子量が24なので、1mmol/L=2.0mEq/L=2.4mg/dLの関係が成立)
(ただし、約30%はアルブミンと結合しているため、拡散によって通過できる血清Mgは1.05~1.4mEq/Lです)
腎不全では高Mg血症の傾向にあります(Mgは腎臓から排泄されるため)。
ですので透析でMgを除去するために、1989年頃までは日本の透析液の濃度は1.5mEq/Lのものを使用していました。
そして1989年以降では、透析液のMg濃度は1.0mEq/Lとなりました。これは、生命に危険を及ぼす高Mg血症を回避するためにMg除去を目的としたものです。
しかし、軽度の高Mg血症(2.7~3.0mg/dL)は血管石灰化抑制効果により、透析患者の生命予後を改善するとの報告があり、2020年6月にMg濃度は1.2mEq/Lの透析液が新たに出ています。
なお、低Mg血症は副甲状腺機能亢進症を増悪させる可能性があります。
ちなみに、Liらの約9,400名の透析患者を対象とした血清Mg濃度と生命予後とを検討した結果、血清Mg濃度が2.0mEq/L未満では有意に死亡リスクが高いと報告しています(4)。また、日本での約14万名もの透析患者の透析前血清Mg濃度と1年後の死亡および心血管死のリスクを検討した結果、血清Mg濃度が低い患者さんでは死亡リスクが有意に高かったとのことです。そして、もっとも生命予後が良かったのは、透析前血清Mg濃度が2.7~3.0mg/dLであったそうです(5)。
上記の研究を踏まえると、今後は透析液のMg濃度を現在の主流である1.0mEq/Lよりも高めに設定してもよいのかもしれません。
透析液のCl濃度
- 透析液のCl濃度:110mEq/L
- 透析患者の血清濃度の基準値:97〜107mEq/L
透析液は、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2などの塩が含まれています。したがって透析液のCl濃度は、これらの塩濃度の総和です。
現在使われている透析液のCl濃度110mEq/Lは、正常な血清濃度よりもやや高めですが、これが臨床的に問題となることはありません。
透析液の重炭酸(HCO3–)濃度
- 透析液の重炭酸(HCO3–)濃度:25.0、27.5、30.0、35.0 mEq/L
- 透析患者の透析前血清重炭酸(HCO3–)の基準値:20~25mEq/L
腎不全になると、体液が酸性に傾き(アシドーシス)、細胞の働きが悪くなります。それを是正し、生理的な弱アルカリ性に戻すために、透析液にはアルカリ化剤である重炭酸(HCO3–)が含まれています。
透析液に含まれる重炭酸(HCO3–)が、体内へ流入すると、アシドーシスは急速に是正されていきます。そして透析後、次の透析前までの重炭酸(HCO3–)は徐々に低下していきます。
酢酸含有重炭酸透析液
商品名 | メーカー | Na mEq/L |
K mEq/L |
Ca mEq/L |
Mg mEq/L |
Cl mEq/L |
HCO3- mEq/L |
Acet mEq/L |
Glu g/dL |
クエン酸 mEq/L |
Dドライ透析剤3.0S | 日機装 | 140 | 2.0 | 3.0 | 1.0 | 113 | 25 | 10※※ | 100 | - |
キンダリー透析剤4E | 扶桑薬品工業 | 140 | 2.0 | 2.75 | 1.0 | 112.25 | 27.5 | 8※※ | 125 | - |
カーボスター®透析剤 L | 陽進堂 | 140 | 2.0 | 3.0 | 1.0 | 111 | 35 | 0 | 150 | 2.0 |
※※:pH調整剤の氷酢酸2mEq/Lも含みます。
1970年代では、アシドーシスの是正のために酢酸(CH3COO–:33~36.6mEq/L)が使用されていて酢酸透析液が主流でした。しかし、末梢血管拡張による血圧低下など酢酸不対症により、より生理的な重炭酸(HCO3–)透析液へと変化しました。
以降は、A原液(CH3COO–:8~10mEq/L)、B原液(重炭酸水素ナトリウム)という2原液法の重炭酸透析液が、日本で1981年に開発されました。また1988年には粉末透析剤も開発されました。[/box]
このように現在主流の透析液には、CaやMgの結晶化予防とpH調整剤(酸性とアルカリ性を調整)として、酢酸(CH3COO–:8~10mEq/L)がわずかながら加えられています。そのため、一部の透析患者では酢酸の影響と考えられる抹消血管拡張作用による血圧低下や発疹・発熱などの原因不明の症状が出現しました。したがって、2007年に無酢酸透析液のカーボスターが開発されました。
なお、無酢酸透析液のカーボスターにはpH調整剤としてクエン酸が加えられています。
透析液のブドウ糖濃度
- 空腹時血糖値<110mg/dL、随時血糖<140mg/dL
- 透析前血糖値、あるいは随時血糖値:180~200mg/dL
(「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」(日本透析医学会)) - 透析液のブドウ糖濃度:100~150mg/dL
透析液のブドウ糖の濃度は100~150mg/dLです。
1970年代には透析液のブドウ糖濃度は2000mg/dLと高めに設定されていました。これは浸透圧を利用して除水や栄養補充を行うことが目的でした。しかし、1980年台には、糖尿病患者さんの血糖調節や透析液中での細菌繁殖が問題となり、ブドウ糖を含まない透析液になりました。その結果、糖尿病の有無にかかわらず、逆に低血糖になってしまい、1990年台からは100~150mg/dLのブドウ糖濃度で設定されています。
しかし、この透析液中のブドウ糖濃度100~150mg/dLが適切であるかどうかとう大規模臨床研究はほとんどされていないため、ほんとにこれが最適な濃度なのかどうかというのは不明です。
ただし、糖尿病のある人では透析液中のブドウ糖濃度が100mg/dLでは透析後に低血糖になってしまう可能性が高いため、2022年現在のトレンドでは、透析中のブドウ糖濃度は少し高めの150mg/dLになっています。
透析液の酢酸の濃度
- カーボスター®透析剤 L/M/Pの酢酸の濃度:0mEq/L
- カーボスター®透析剤 L/M/P以外の透析液の酢酸の濃度:8~10mEq/L
1970年代では、アシドーシスの是正のために酢酸(CH3COO–:30mEq/L)が使用されていましたが、末梢血管拡張による血圧低下など酢酸不対症により、より生理的な重炭酸(HCO3–)透析液へと変化しました。
- 酢酸濃度が高い→末梢血管拡張による血圧低下、酢酸不耐症
しかし、カーボスター®透析剤 L/M/P以外の透析液にはpH調整剤(酸性とアルカリ性を調整)として酢酸(CH3COO–:8~10mEq/L)がわずかながら加えられています。この酢酸(CH3COO–)により、CaとMgの結晶化を予防することができます。
なお、無酢酸透析液のカーボスター®透析剤 L/M/PにはpH調整剤としてクエン酸が加えられています。
【おまけ】水で透析してはダメなのか?
水で透析すると5分ほどでショックを起こし、死亡してしまいます。これは、大きな浸透圧差による溶血が原因です。
そこで透析液はリンゲル液などがよいのではないかと考えられて、食塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、重曹、ブドウ糖など、生理的な濃度で透析液をつくると、安定して透析ができるようになりました。
参考にした本
透析患者さんの血液検査の基準値は上記の本を参考にしています。
というわけで今回は以上です。
透析液のpHについては下記の記事で解説しています。興味のある方は併せてご覧ください。
<注意事項> 本ブログに掲載されている情報の正確性については万全を期しておりますが、掲載された情報に基づく判断については利用者の責任のもとに行うこととし、本ブログの管理人は一切責任を負わないものとします。 本ブログは、予告なしに内容が変わる(変更・削除等)ことがあります。