移植医療のDSA(ドナー特異的抗体)ってなに?──新人看護師のための超入門

この記事でわかること
  • DSAが「誰に対する」「どんな抗体」なのかを一言で説明できます。
  • DSAが体の中で何を引き起こすのか(結合→補体→内皮障害)の筋道が理解できます。
  • DSAができやすい背景(感作)と、preformed / de novo の違いを区別できます。

DSAとは?──まず一言で

DSA(ドナー特異的抗体)は、移植された臓器が持つドナー固有のHLA(体の“名札”)にだけ反応する抗体です。ここで大切なのは、「ドナーという“相手”が決まっている」という点です。たとえば同じ腎移植でも、ドナーが変わればHLAの並び(名札の柄)も変わり、反応する抗体=DSAも変わります。

もう一歩ていねいに(体の中で起きていることの順番)

  1. 移植臓器の血管内皮には、ドナー由来のHLAが並んでいます(名札のようなもの)。
  2. レシピエントの血液中にそのHLAを“覚えている”抗体=DSAがあると、内皮のHLAめがけてピタッと結合します。
  3. 抗体が結合すると、体の防御システムである補体が作動します。具体的には、C1複合体(C1q・C1r・C1s)が活性化し、C4とC2が切られてC4b2a(C3コンバターゼ)が形成→C3が分解→C4b2a3b(C5コンバターゼ)→最終的にC5b-9(膜攻撃複合体)ができ、内皮が傷みやすくなります。
  4. 時間とともにこのダメージが蓄積し、移植臓器の働きが落ちていきます(抗体関連型拒絶の土台)。

なお、DSAがある=必ず拒絶というわけではありません。とくにC1q/C3dと結合する補体結合性DSAIgG1/IgG3主体のDSAなどはトラブルと関連しやすい、という性質差が知られています。

参考文献
Zhang R . Donor-Specific Antibodies in Kidney Transplant Recipients . Transplantation Reviews , 2017
Loupy A , et al . Complement-Binding Anti-HLA Antibodies and Kidney-Allograft Survival . New England Journal of Medicine , 2013
Lefaucheur C , et al . IgG Donor-Specific Anti-HLA Antibody Subclasses and Outcomes in Kidney Transplantation . American Journal of Transplantation , 2016
Janeway CA , et al . Janeway’s Immunobiology(Complement Pathways) . NCBI Bookshelf , 2017

たとえでイメージ──「警察」と「指名手配書」

私たちの体には免疫という防衛システムがあります。これは街を守る警察のようなものです。免疫が作る抗体は、警察が持つ指名手配書にたとえられます。

移植の場面に置き換えると

  • 移植された臓器には、ドナー固有のHLA(顔・ID)が付いています。
  • もし体の警察(免疫)が「ドナーの顔つきの指名手配書」DSAを持っていると、その臓器は“よそ者(異物)”と判断されます。
  • 判断されたあとは、補体などの応援要請がかかり、集中して取り締まり(攻撃)が行われます。

この比喩のポイントは、指名手配書が「ドナーの顔だけ」を狙っていることです。だから、DSAは「その移植臓器だけ」をピンポイントで標的にしやすいのです。

参考文献
Sapir-Pichhadze R , et al . The Role of C4d in the Diagnosis of Antibody-Mediated Rejection of Kidney Allografts: Systematic Review . Kidney International , 2015
Garces JC , et al . Antibody-Mediated Rejection: A Review . Current Opinion in Organ Transplantation , 2017

HLA(体の“名札”)の超入門

HLAは、細胞に付いている自己/非自己を見分ける名札です。Class I(A・B・C)はほぼすべての有核細胞(内皮を含む)に、Class II(DR・DQ・DP)は主に抗原提示細胞に発現します。炎症やIFN-γ刺激があると、内皮でもClass IIの発現が誘導され、Class IIを標的とするDSAが結合しやすい条件が生まれます。

ここだけ押さえる

  • HLAが違う=名札が違う → 体は「よそ者」と認識しやすい。
  • DSAは“その名札に合わせて作られた抗体”なので、標的がとても具体的です。

参考文献
Roufosse C , et al . The Banff 2022 Kidney Meeting Work Plan: Data-Driven Refinement of the Banff Classification for Renal Allografts . American Journal of Transplantation , 2023
StatPearls . Complement Activation Pathway(overview of endothelial expression & IFN-γ effects) . NCBI Bookshelf , 2024

DSAは2タイプ:preformed と de novo(dnDSA)

preformedは移植前から存在しているDSA、de novo(dn)は移植後に新しく生まれるDSAです。前者は移植直後のトラブルにつながりやすく、後者は時間をかけて臓器機能に影響しやすい傾向があります。

よくある背景(=感作)

  • 妊娠:胎児はパートナー由来のHLAを持つため、母体がそれを学習して抗体を作ることがあります(微少キメリズムが長期に残ることも)。
  • 輸血:とくに血小板輸血は血小板表面のHLA Class Iに触れる機会になり得ます(白血球除去赤血球でもゼロではありません)。
  • 過去の移植:以前のドナーHLAを“覚えて”いて、次の移植で反応が強く出ることがあります。

参考文献
del Moral CL , et al . The Natural History of de novo Donor-Specific HLA Antibodies After Kidney Transplantation . Transplant International , 2022
Uffing A , et al . Preformed Class II Donor-Specific Antibodies and Kidney Transplant Outcomes . Transplantation Direct , 2019
Couvidou A , et al . Anti-HLA Class I Alloantibodies in Platelet Transfusion Refractoriness . Transfusion Clinique et Biologique , 2023
Cómitre-Mariano B , et al . Feto-maternal Microchimerism: Memories from Pregnancy . Best Practice & Research Clinical Rheumatology , 2021

ABOとHLA(DSA)の違い──混同しないポイント

ABOは赤血球の糖鎖の型HLAは白血球や内皮にあるタンパクの型です。どちらも適合性に関わりますが、この記事では臨床で通常使う定義に合わせて、「DSA=HLAに対するドナー特異的抗体」として説明しています(非HLA抗体は別テーマ)。腎移植では、HLAに対するDSAが内皮に結合→補体が作動という流れで臓器に影響します。

3行まとめ

  1. DSA=ドナーのHLAだけを狙う抗体です。
  2. できる背景は妊娠・輸血・過去移植が代表的です。
  3. 内皮に結合→補体(C1→C4/C2→C3→C5b-9)が動き、ダメージが進みます。

参考文献
van den Broek DAJ , et al . The Clinical Utility of Post-Transplant Monitoring of Donor-Specific Antibodies in Kidney Transplant Recipients . Transplant International , 2023

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