こんにちは、臨床工学技士のアキです。
本記事では、エンドトキシンとはなにかについてわかりやすく解説したいと思います。
目次
ETとは?(エンドトキシン=LPSの基礎)
エンドトキシン(ET)は、グラム陰性菌の外膜にあるリポ多糖(LPS)のことです。
医療では、エンドトキシンが血液に入ると発熱や炎症を起こすため、透析液や注射剤はETをできるだけゼロに近づける必要があります。
- リポ多糖(lipopolysaccharide)は省略して、LPSとも呼ばれています。
- エンドトキシンはとくに細菌の破壊によって菌体外に放出されるため、日本語で細胞内毒素とも呼ばれています。しかし、エンドトキシンと呼ぶのが一般的です。
- 後述しますが、毒素をもつのはエンドトキシンの中の「リピドA」といわれている部分です。
グラム陰性細菌とLPS
LPSは、細菌成分ではありますが、細菌の病原性とは関係がありません。
すべての細菌は、グラム陰性菌とグラム陽性菌の2系統に分類されます。
この2系統は、デンマークの学者であるハンス・グラム先生が開発した細菌の染色法で染まるか染まらないかによって区別するので、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌と呼ばれています。グラム染色で染まるか染まらないかは細胞壁の構造によって違い、その構造の違いは2系統の菌の違いを明確に示すものなのです。
LPSはグラム陰性菌にのみ存在
LPS(エンドトキシン)は、細菌のうちグラム陰性菌だけが持つ「外膜」という外側の膜に並ぶ成分です。たとえると、グラム陰性菌は“外套(外膜)”を着ていて、その表面にLPSの毛のような突起がびっしり付いています。
いっぽうグラム陽性菌は“厚い鎧(厚いペプチドグリカン)”だけで、外膜がないためLPSはありません。
参考文献:Medical Microbiology:Endotoxin(NCBI Bookshelf)/OpenStax Microbiology:Prokaryotic Cell Walls(Gram陰性と陽性の違い)
補足:医療現場では「LPS=グラム陰性菌の目印」と覚えるので十分です(ごく一部の例外はあります)。
参考文献:Medical Microbiology:Endotoxin(NCBI Bookshelf)
LPSの役割
大腸菌やサルモネラ菌などの外膜にはLPSが多く含まれており、外膜のおよそ75%がLPSで出来ています。
LPSの役割は、外膜を安定させて菌体の形を保つことです。
ヒトの皮膚や内臓の形を支えるコラーゲンの働きによく似ています。LPSが変質すると膜が不安定になり、菌体は崩れてしまいます。
LPS=エンドトキシンでいい?(結論)
はい、臨床や水質管理の文脈では「LPS(リポ多糖)=エンドトキシン」と考えて差し支えありません。
エンドトキシンとは本来、グラム陰性菌の外膜にあるLPS(とくにLipid A)による毒性のことを指します。透析で使うLAL試験も、このLPSの活性をEU/mLとして測る検査です(=LPSをターゲットにしています)。
参考文献:Medical Microbiology「Endotoxin」(NCBI Bookshelf)/Bacterial Endotoxin test(FUJIFILM Wako LAL Knowledge)
ただし、用語の“カド”を取るための補足
- 厳密さ:文献上「エンドトキシン=LPS(Lipid Aが本体)」が基本です。菌種によりLPSの構造が違い、毒性(TLR4刺激)の強さも変わります。
- LOSも同類:Neisseria などが持つ LOS(リポオリゴ糖) は、O抗原を欠く型のLPSで、臨床的にはエンドトキシンとして扱われます。
- LALの“にせ陽性”:β-グルカンなどエンドトキシンではない物質が古典的LALに干渉することがあります(Factor G経路)。このため施設ではESタイプ/rFC法や前処理を併用して“LPSだけ”を正しく測るようにします。
参考文献:Raetz & Whitfield. Lipopolysaccharide endotoxins(Microbiol Mol Biol Rev 2002)/NCBI Bookshelf「Endotoxin」/The (1,3)-β-D-glucan and its interference in the LAL test(Wako Pyrostar Blog)
透析での実務上の扱い
透析では「LPS(=エンドトキシン)をEU/mLで管理する」前提で運用すればOKです。
基準(例:標準透析液 ET < 0.050 EU/mL/超純粋透析液 ET < 0.001 EU/mL)は、そのままLPS活性の管理目標を意味しています。
参考文献:日本透析医学会「2016年版 透析液水質基準」/FUJIFILM Wako LAL Knowledge
LPSの構造と機能
3つの部位(Lipid A/Core/O抗原)
LPSは、グラム陰性細菌の成分で、グラム陰性細菌の細胞壁の外側にぎっしりと埋め込まれた形で存在しています。
参考文献:Lipopolysaccharide endotoxins(Raetz & Whitfield, 2002)/Medical Microbiology:Endotoxin(NCBI Bookshelf)
物性の要点(熱に強い/分子量の幅)
ETは熱に強く、細菌が死んでもしばらく残ります。水系では配管のバイオフィルムから少しずつ剥がれて出てくることがあり、
分子量は数kDa〜数十kDa(例:2.5〜70 kDa、平均は10〜20 kDa前後)。試料では集合体(106 Da級)もあり得ます。
参考文献:Fux 2023/Sali 2019/Sigma-Aldrich(集合性)/Potentially pathogenic bacteria in hemodialysis water(BMC Microbiol 2024)
体への影響(どうやって炎症が起きる?)
LPSの活性
LPSの最も良く知られている生物活性は、、マクロファージの活性化です。
従って、マクロファージを活性化するLPSは、感染防御、創傷治癒、代謝調節の機能を高めます。
LPSが免疫細胞を活性化→サイトカインが出る
LPSは、マクロファージの細胞表面のTLR4という受容体で認識されます。その結果、細胞内の核にまでシグナルが伝達されて、核の中の遺伝子が揺り動かされて細胞が活性化します。
活性化したマクロファージからは炎症性サイトカイン(例:TNF-α、IL-6)が出ます。結果として発熱・血圧低下・全身炎症につながります。
参考文献:Recognition of lipid A variants by TLR4–MD-2(Frontiers 2013)/Medical Microbiology:Endotoxin(NCBI Bookshelf)
からだの「見張り番」とアラーム(やさしい説明)
細菌のカケラであるエンドトキシン(LPS)の一部(Lipid A)は、免疫細胞の表面にいる見張り番(TLR4という受容体)に見つかると、細胞の中のアラームスイッチが入ります。
スイッチが入ると、体は周りに知らせるための合図(サイトカイン)を出します。代表はTNF-αやIL-6で、これが増えると熱が出る・血圧が下がる・体全体が炎症モードになります。
参考文献:Recognition of lipid A variants by TLR4–MD-2(Frontiers 2013)/Medical Microbiology:Endotoxin(NCBI Bookshelf)
一連の流れ(超シンプル)
- 侵入を感知:細菌由来のLPS(Lipid A)がTLR4に「はまる」。
- スイッチON:細胞内のアラームが鳴る。
- 合図を放出:TNF-α・IL-6などのサイトカインが出て、全身に「危険」を伝える。
- 体の反応:発熱で菌と戦いやすくし、血管が広がって血圧が下がるなどの変化が起きる。
参考文献:Frontiers 2013(TLR4–MD-2–CD14とNF-κBの流れ)/NCBI Bookshelf(内毒素の基礎)
ポイント(例えで覚える)
- LPS(Lipid A)=鍵、TLR4受容体=鍵穴つきの警報装置。
- サイトカイン=周囲に知らせるサイレン(TNF-α・IL-6 など)。
参考文献:Frontiers 2013/NCBI Bookshelf
透析で問題になる理由
低濃度でも曝露はゼロにできない→超純粋透析液が前提
透析では透析液を大量に扱うため、ETの低濃度曝露が問題になります。国内では標準透析液:ET < 0.05 EU/mL、超純粋透析液:ET < 0.001 EU/mL(感度未満)を基準とし、すべての透析で超純粋透析液の使用を推奨しています(日本透析医学会「第4章 透析液水質管理」、原典:2016年版 透析液水質基準)。
参考文献:日本透析医学会:第4章 透析液水質管理(2023)/2016年版 透析液水質基準(JSDT)
混入の主な由来(バイオフィルムと配管)
ETは細菌が作るバイオフィルムから剥がれて系内に出てくることがあります。透析装置・配管のバイオフィルム対策は清浄化の肝です
参考文献:Prevention of biofilm formation in dialysis water treatment(Kidney Int 2003)/Hemodialysis and Water Quality(CDC/PMC 2013)
用語の整理
現場で混同しやすいキーワード
- エンドトキシン(ET)=LPS:グラム陰性菌の外膜成分。生物活性の中心はLipid A(NCBI Bookshelf)。
- EU/mL:LALで測る“活性”の単位。目安換算はあるが、基本はEU/mLで運用(Sigma-Aldrich)。
- 超純粋透析液:ET < 0.001 EU/mL、生菌数 < 0.1 cfu/mL(JSDT 第4章)。
- ETRF:エンドトキシン捕捉フィルタ。超純粋透析液の維持に用いる(JSDT 2011 管理基準)。
参考文献:JSDT:第4章 透析液水質管理/2011年版 ETRF管理基準(JSDT)
透析液中におけるエンドトキシン管理
エンドトキシンを減らすコツは3つだけ。
- 超純粋透析液を保つ。
- LALで正しく測る。
- ETRFを設置する。
上記3つをセットで運用します(基準は 日本透析医学会「2016年版 透析液水質基準」に準拠します。
臨床での運用は 日本臨床工学技士会「2016年版達成のための手順書 Ver1.01」、ETRFは 「2011年版 ETRF管理基準」)。死亡リスクとの関連は AJKD 2015(全国コホート)に記載されています。
参考文献:2016年版 透析液水質基準(日本透析医学会)/2016年版達成のための手順書 Ver1.01(日本臨床工学技士会)/2011年版 ETRF管理基準(日本透析医学会)/AJKD 2015:Dialysis Fluid Endotoxin Level and Mortality(PubMed)
LALとは?(ET-6000で使うエンドトキシン検査の実際)
LAL(Limulus Amebocyte Lysate)は、カブトガニの免疫反応を利用してエンドトキシン(LPS)を見つける検査です。
エンドトキシンが混ざると、LALの中の酵素カスケード(Factor C→Factor B→Pro-clotting enzyme→Coagulogen)が動き、ゲル(固まり)や濁り、色の変化が起きます。この“変化の起こり方”を数値化したのがLALの結果(EU/mL)です。詳しい背景は、FUJIFILM Wako「Bacterial Endotoxin test」 と Wako Pyrostar Blog を参照してください。
参考文献:Bacterial Endotoxin test(FUJIFILM Wako)/The (1,3)-β-D-glucan and its interference in the LAL test(Wako)
ET-6000に準じた「測定原理」
Toxinometer ET-6000は、恒温(規定温度)で反応させながら、チューブ内の“濁り”や“色の濃さ”の変化を連続的に読み取り、あらかじめ決めたしきい値に達するまでの時間から濃度(EU/mL)を求める装置です。Toxinometerの原理と使い方の概略は 公式ミニブローシャ と ET-6000の使い方(Pyrostar Blog) が分かりやすいです(同系のET-7000資料にも同じ“時間法”の説明があります)。
参考文献:Toxinometer Measurement System(公式)/The Use of Toxinometer ET-6000 in LAL test/Toxinometer ET-7000(原理・反応時間Ta/Tgの説明)
反応の“見え方”:3つの読み取り
LALの変化は大きく3通りで読み取れます。
・ゲル化法(Gel-clot):固まる/固まらないで合否判定。
・キネティック濁度法(KTA):時間とともに濁りが増す速さを測る。
・キネティック比色法(KCA):時間とともに色(吸光度)が濃くなる速さを測る。
ET-6000はチューブをインキュベートしながら連続測定し、いずれの方法でも“しきい値に達するまでの時間”(Tg:濁度/Ta:比色)を求めます。
参考文献:Bacterial Endotoxin test(FUJIFILM Wako)/Toxinometer Measurement System(公式)/ET-7000 原理資料(Ta/Tgの定義)
反応時間と濃度の関係(標準曲線でEU/mLに換算)
エンドトキシンが多いほど、しきい値に達する時間は短くなります(=反応が速い)。未知試料の反応時間を、既知濃度(標準液)の標準曲線に当てはめてEU/mLへ換算します。これがET-6000の基本的な“時間法”です。
参考文献:The Use of Toxinometer ET-6000 in LAL test/ET-7000 原理資料(反応時間と濃度)
透析液水質基準(JSDT 2016の要点)
透析液の水質基準
- 標準透析液:生菌数 < 100 CFU/mL、ET < 0.050 EU/mL
- 超純粋透析液:生菌数 < 0.1 CFU/mL、ET < 0.001 EU/mL(感度未満)
- オンライン補充液:無菌・無エンドトキシン(オンラインHDFの前提)
採水ポイントと頻度
部位と頻度
原水/RO原水/RO水/透析用水、そして装置末端の透析液を採取します。基準達成が安定していても、透析用水は概ね3か月ごと、末端透析液は毎月の点検を基本にし、逸脱時は短縮します(手順は 日本臨床工学技士会「手順書 Ver1.01」)。
参考文献:2016年版達成のための手順書 Ver1.01(日本臨床工学技士会)
アウトカム(死亡リスク)
施設ET濃度と予後
全国規模の研究では、施設の透析液ETが高いほど全死亡リスクが上がる関連が示されました。
参考文献:AJKD 2015:Dialysis Fluid Endotoxin and Mortality/Dialysis Fluid Endotoxin and Mortality(PubMed)
というわけで今回は以上です。
