新人さんでも迷わないように、「etCO2=数値」と「カプノグラム=波形」をセットで理解できる構成にしました。
目次
まず結論(要点だけ先に)
これだけ覚える
- etCO2は呼気終末に測るCO2分圧(mmHg)。換気が「足りているか」を簡潔に示す指標。
- 自発呼吸下の正常目安は35–45 mmHg。通常はPaCO2≧etCO2(差は2–5 mmHg程度)。
- 値は換気×循環×代謝の影響で動く。波形(カプノグラム)と一緒に見るのがコツ。
etCO2とは?(定義と意義)
定義
etCO2(End-Tidal CO2)は、患者が吐き終わった瞬間の呼気に含まれる二酸化炭素分圧(mmHg)のことです。
「体からどのくらいCO2を出せているか」を1呼吸ごとに数値化します。
臨床での使いみち
- 換気状態の把握:低換気/過換気の早期検出(SpO2低下より先に変化することが多いです)。
- 挿管直後の確認:持続的な波形が出れば気管内の可能性が高いです。
- CPRの質評価:圧迫の有効性やROSCの兆候を把握。
正常値とPaCO2の関係
正常範囲の目安
自発呼吸下では35–45 mmHgが目安です。
カプノグラム(波形)の基礎
「カプノグラム(波形)」「カプノメトリ(数値)」のことです。
波形は4相で見る

- Ⅰ相(A–B):解剖学的デッドスペース。CO2ほぼ0。
- Ⅱ相(B–C):肺胞ガスが混ざり急上昇。
- Ⅲ相(C–D)=肺胞プラトー:右肩上がりの平坦部。終点DがetCO2。
- Ⅳ相(D–E):吸気で急下降しベースラインへ。
カプノグラムの異常波形
気道閉塞タイプ

何らかの原因で速やかに呼気ガスを排出することができなくなっている状態です。
肺気腫や閉塞性肺疾患、喘息の呼気延長所見として出現することが多いです。
その他の原因として、挿管チューブなどの気管の不完全閉塞などでも出現することがあります。
自発呼吸出現タイプ

人工呼吸管理中に第Ⅲ相に凹部がみられ、2峰性化が認められる場合、呼気中に吸気が現れたことを意味します。
自発呼吸管理では、喀痰量の増加によりこのような波形となることがあります。
リークタイプ

第Ⅲ相でのプラトーが消失し、吸気相である第Ⅳ相に入っても傾斜を認める場合、何らかのガス漏れ(リーク)があることを示唆します。
カプノグラムの異常波形 → 初期対応(早見表)
| 波形の特徴 | よくある原因 | 初期対応 |
|---|---|---|
| シャークフィン (Ⅱ相遅延+Ⅲ相急峻) |
気道狭窄、分泌物、気管支痙攣 | 吸引、気道拡張、呼気時間延長、回路屈曲の解除 |
| Ⅲ相に切れ込み(curare cleft) | 自発呼吸混入、鎮静浅い | 鎮静・同調の再評価、換気モード調整 |
| プラトー消失/Ⅳ相傾斜 | カフ漏れ、回路リーク、呼気時間不足 | リーク点検、カフ圧確認、I:E比見直し |
| ベースライン上昇 | リブリージング(弁不良・換気量不足) | 弁/回路点検、呼気時間・換気量・FGFの調整 |
| 波形消失 | 回路外れ、食道挿管、無呼吸、心停止 | 即時の回路・気道確認、必要ならCPR開始 |
参考文献:LITFL:波形読影/GEアプリガイド
EtCO2の数値からわかること
EtCO2が上昇する要因(代表例)
- 閉塞性肺疾患(COPD・喘息など):気道抵抗↑で呼気に時間がかかり、CO2排出が遅れて終末値が上がりやすいです。
- 心拍出量↑(循環↑):肺に運ばれるCO2が増え、一過性にEtCO2が上昇。
- 低換気(分時換気量↓):呼気として捨てられるCO2が減り、体内CO2が蓄積→EtCO2上昇。
臨床の読み方:値だけでなくカプノグラムのⅢ相(プラトー)形成やシャークフィン形状の有無を確認。吸引・気道拡張・呼吸器設定の見直しで改善するかをトレンドで追います。
参考文献:LITFL:カプノグラムの読み方/StatPearls:Capnography and Pulse Oximetry
EtCO2が低下する要因(代表例)
- 肺血栓塞栓症(PE)などで肺血流↓:肺に運ばれるCO2が減るためEtCO2低下(死腔換気↑)。代償的な過換気も加わりやすいです。
- 心拍出量↓(ショック・出血など):右室から肺への送血が減り、呼気CO2が低下。
- ECMO管理中:膜肺でCO2が除去されるため、呼気由来のEtCO2は低めに出る(自己心や肺機能が回復すると再上昇)。
臨床の読み方:急激な低下は回路外れ・食道挿管・心停止も鑑別。循環評価(脈圧、皮膚温、乳酸など)と合わせ、必要時はABGで裏取りを。
参考文献:LITFL:心停止時のカプノグラフィ/AHA 2020 ハイライト:CPRでのEtCO2活用
判断のコツ(トレンドと文脈)
- トレンド重視:体位・吸引・薬剤・呼吸器設定などの介入に呼応して上下するかを時系列で確認。
- PaCO2との解離:健常ではPaCO2がEtCO2より2–5 mmHg高い。V/Q不均衡や低灌流では差が広がり、EtCO2は実際より低く出やすいです。
- 波形とセット:Ⅲ相が作れない(リーク・呼気時間不足)と終末値の信頼性が落ちる。値と波形は常にペアで評価。
参考文献:DFTB:PaCO2–EtCO2解離/LITFL:Capnography基礎
etCO2の「上がる/下がる」理由
上昇する主な要因
- 低換気:分時換気量が不足(鎮静深い・筋力低下・気道閉塞など)。
- 閉塞性肺疾患:COPD/喘息でCO2排出が遅れ上昇。
- 心拍出量↑:肺血流↑でCO2が多く運ばれ、一時的に上昇。
- 代謝↑:発熱・痙攣・過栄養、重炭酸投与後、止血帯解除直後など。
低下する主な要因
- 過換気:分時換気量が過大。
- 肺血流↓:ショック・心拍出量低下・大量出血・肺塞栓。
- ECMO管理中:膜肺でガス交換されると呼気etCO2は低めに出ます(自己心が出ると再上昇)。
- 回路トラブル:サンプリング外れ・リーク・完全閉塞など。
PaCO2−etCO2の解離(広がるときの考え方)
| 臨床状況 | PaCO2−etCO2の傾向 | 背景/機序 | 対応のヒント |
|---|---|---|---|
| 健常・安定 | 2–5 mmHg | 測定差+肺胞ガス分布 | 問題なし。トレンド監視。 |
| ショック・低心拍出 | 拡大(etCO2低下) | 肺血流↓→死腔換気↑ | 循環再評価(圧迫・輸液・昇圧薬等)。 |
| 肺血栓塞栓症(PE) | 拡大 | 換気血流不均衡(V/Q↑) | Dダイマー/画像/超音波などで精査。 |
| COPD/喘息増悪 | ばらつき/高めに出やすい | 呼気延長・Ⅲ相形成不良 | 吸引・気道拡張・呼気時間延長。 |
参考文献:McSwain 2010:PaCO2とEtCO2の相関/DFTB:解離の臨床解釈
現場での使いどころ(新人向けミニガイド)
挿管直後の確認
- 連続する波形が出れば気管内の可能性が高い。波形が突然ゼロ→回路外れ/食道挿管/心停止を疑います。。
鎮静・検査・内視鏡
- 中等度~深い鎮静ではカプノグラフィ併用が標準。SpO2低下より先に低換気を検出しやすいです。
CPRの質評価とROSCサイン
- 目安:少なくとも10 mmHg(望ましくは20 mmHg以上)。
※低い値が続く場合は胸骨圧迫の質や換気過多を再評価します
測定方法:サイドストリーム/メインストリーム
方式
- サイドストリーム:鼻カニュラ/マスクから微量採気。高流量酸素や口呼吸では希釈に注意。
- メインストリーム:挿管下に回路へ直列。応答は速いが重量・結露管理が必要。
サイドストリーム/メインストリームの違いと誤差
- サイドストリーム:鼻カニュラやマスクから採気。高流量O₂や口呼吸では希釈→低め表示。
- メインストリーム:挿管回路に直列。応答が速い一方で、重量や結露の管理が必要。
- 共通の落とし穴:リーク、サンプリングライン屈曲・水溜まり、呼気時間不足(リブリージング)。
よくあるエラーと対処
- 波形が出ない:ライン外れ/閉塞、水滴。回路と患者を同時に点検。
- ベースラインが0へ戻らない:リブリージング(弁不良、呼気時間不足、FGF不足)を疑う。
- 値が低すぎる:口呼吸の取りこぼし、リーク、肺血流低下。
観察・記録のチェックリスト
観察ポイント(数値+波形)
- etCO2値(目安35~45mmHg)とトレンド、呼吸数、換気量。
- 波形の形(4相の成立、プラトーの有無、シャークフィン・切れ込み・ベースライン上昇)。
- 介入(体位、吸引、薬剤、呼吸器設定)に対する応答。
記録のコツ
- 「いつ・何をして・どう変わったか」をセットで書く(例:体位変換→etCO232→38、波形プラトー形成)。
よくある質問(FAQ)
Q. etCO2の正常値は?PaCO2とどのくらい違いますか?
A. 自発呼吸下の目安は35–45 mmHg。健常ではPaCO2がetCO2より2–5 mmHg高い傾向があります。
Q. 鼻カニュラで低めに出ます。なぜ?
A. サイドストリームは高流量酸素・口呼吸で希釈され低め表示になりやすいです(専用カニュラや口元近接タイプを使用)。
Q. ECMO中はどう読む?
VV-ECMOでは膜肺がCO₂の多くを除去するためetCO₂は低めになりがちです。離脱評価ではetCO₂やPaCO₂/etCO₂比の推移が参考になります。
VA-ECMOでは心拍出量の変化に伴ってetCO₂が変動します。
参考文献:Medtronic アプリガイド/ASA Standards
参考文献
- American Heart Association 2020 CPR/ECC ガイドライン(Adult BLS/ALS)
- AHA 2020 ガイドライン・ハイライト(PDF)
- 日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン 2020
- ASA:麻酔の基本的モニタリング基準(呼気CO₂の連続監視)
- ASGE Statement:内視鏡鎮静におけるカプノグラフィ活用(PDF)
- LITFL:カプノグラム波形の読み方
- LITFL:心停止時のカプノグラフィ
- StatPearls:Capnography and Pulse Oximetry
- McSwain 2010:EtCO₂とPaCO₂の関係・臨床応用(無料公開)
- DFTB:PaCO₂–EtCO₂解離の臨床解釈
- Medtronic:カプノグラフィ アプリケーションガイド(日本語・PDF)
- Masimo:カプノグラフィ波形クイックリファレンス(PDF)
※本記事は教育目的の概説です。実施は必ず施設のマニュアル・医師の指示に従ってください。
