こんにちは、臨床工学技士の秋元です。
本記事では、電子伝達体であるNAD+とFADについて、図を多用してわかりやすく解説しています。後半では、なぜNAD+とFADは水素原子を運ぶのかについても言及しています。
NADとは?FADとは?みたいな人にとっては役に立つ記事だと思います。
目次
NADとは?
Nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)は,生物界で広く使用されている電子伝達体である。酸化型(NAD)と還元型(NADH)の二つの状態をとり,脱水素酵素の補酵素として機能する。
引用:伊藤昭博,八代田陽子,吉田稔,特集 細胞シグナル操作法 NAD+関連タンパク質,生体の科学 66(5):454-455,215
NAD(ニコチン酸アミドジヌクレオチド)は、水素原子を運ぶ電子伝達体です。
私たちの身体のエネルギー源である「ATP」は、糖質や脂質に含まれる水素原子を引き剥がし、酸素と反応させることでつくっています。この際に、水素原子を預かる物質がNAD+などの電子伝達体です。
なお、後述しますが、水素原子を預かっている状態のNAD+は「NADH+H+」と表記します。
この「NADH+H+」がATP合成の原料となります。
ATPについては下記の記事でわかりやすく解説していますので興味のある方はぜひご覧ください。
NAD+の電子の受け取りの反応式
NAD+は、2個の水素原子(2H)と反応して上の図のような反応をします。
その電子伝達体の代表例が、NAD(ニコチン酸アミドジヌクレオチド)である。酸化還元反応において、1分子あたり2個の水素原子を預かる。厳密には水素原子1つと電子1つを預かり、水素イオン1つ作るのだが、最終的な収支は合うので、本書ではわかりやすくするために、水素2つを預かっている風に表記し、本書では便宜上、酸化型はNAD、還元型はNADH2と表記する(*9)。
(*9)水素をもらっていない酸化型NADは、電子が1つ足りない状態で、陽子が1つ多いので、正確にはNAD+と表記する。そこに、水素から電子̠⊖を1つもらい、水素イオンH+とNADが生じる。そして、NADはさらに水素原子1つを預かるので、還元型のNADHとなる。まとめると、NAD++2H→NADH+H+となる。
それでは、NAD+が水素イオン(H+)と電子(e–)を取り入れる具体的な反応を解説します。
- まず、1個の水素原子は、電子(e–)のみをNAD+に渡すのでNADになります。
- そして、水素イオン(H+)が遊離します。
- 残り1個の水素原子はそのままNADと結合してNADHとなります。
したがって、NAD+は2個の水素原子を運ぶことができます(NADH+H+は2個の水素原子を預かっている状態です)。
酸化型と還元型のNAD+
- 酸化型:水素原子をまだ受け取っていない状態
- 還元型:水素原子を受け取った状態
NAD+には、酸化型と還元型があって、酸化型はまだ水素原子を受け取っていない状態、還元型は水素原子を受け取った状態です。
解糖系でのNAD+の役割
解糖系におけるNAD+の役割を紹介します。
グルコースからピルビン酸へといたる反応は、およそ10段階の反応がありますが、上の図に示しているものはその解糖系の途中の反応です。
グリセルアルデヒド3-リン酸は、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(酸化還元酵素)によって、アルデヒド基の酸化とリン酸化がおこなわれ、1,3-ビスホスホグリセリン酸がつくられます。
この、アルデヒド基の酸化のときに取り除かれた水素は、NAD+へと移り、NADH+H+となります。
※ リン酸化:リン酸をつけらることです。
ここでつくられたNADH+H+は電子伝達系に運ばれてATPに合成されます。
ただし、嫌気的条件下ではピルビン酸は乳酸になり、このときにNADH+H+はピルビン酸を乳酸にする際に消費されます。
FADとは
FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)もNAD+と同様に、水素原子を運ぶ電子伝達体です。
FADの電子の受け取りの反応式
FADは、2個の水素原子(2H)と反応して上の図のような反応をします。
こちらのほうは反応式も単純で、FADH2は2個の水素原子を預かっています。
酸化型と還元型のFAD
- 酸化型:水素原子をまだ受け取っていない状態
- 還元型:水素原子を受け取った状態
FADには、酸化型と還元型があって、酸化型はまだ水素原子を受け取っていない状態、還元型は水素原子を受け取った状態です。
FADとビタミンB2(リボフラビン)の関係
リボフラビン(ラテン語の黄色=’flavus’に由来する)は,酸化還元補酵素であるフラビンモノヌクレオチド(FMN)およびフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の成分として代謝にかかわる(p.104).
ビタミンB2の役割は、体内に吸収されると、補酵素として働くFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)またはFMN(フラビンモノヌクレオチド)に変化します。
FADとFMNはそれぞれ、ビタミンB2から細胞内においてフラボキナーゼとFAD合成酵素によりつくられています。
FADとFMNの両者とも、主に三大栄養素の「糖質・脂質・タンパク質の代謝」の補酵素として働き、エネルギーである「ATP」の産生に深く関わっています。
電子伝達体について
じつは、糖質や脂質から引き剥がした水素をいったん「お預かり」して、うまくATP合成に活用できるように働く化合物があるのである。そういった化合物を、電子伝達体と呼ぶ。なぜ水素を運ぶのに電子伝達体という名前かというと、水素原子を運ぶというより、その水素の持つ電子を運んでいるからである。そして、他から水素(電子)をもらう前を「酸化型電子伝達体」、水素(電子)をもらった後を「還元型電子伝達体」と呼ぶ。
電子伝達体とは水素原子を運ぶ物質のことです。
- NAD+
(ニコチン酸アミドジヌクレオチド) - FAD
(フラビンアデニンジヌクレオチド)
代表的な電子伝達体としては、上記の2種類があります。
なお、水素を運ぶ前を「酸化型電子伝達体」、水素を運んでる状態を「還元型電子伝達体」と呼びます。
電子伝達体の役割
電子伝達体の役割は、水素原子を運ぶことです。
どうして水素原子を運ぶ必要があるのかといいますと、私たちの身体にとっての大切なエネルギー源である「ATP」をつくりだすためです。
このATPの大半は、水素原子に含まれる電子のもつエネルギーによってつくりだされています。
たとえば、電気を流すと蛍光灯が光ったり、電気製品を動かしたりすることができます。
- 電気エネルギーを熱エネルギーに変換
(アイロン、トースター、ドライヤー) - 電気エネルギーを運動エネルギーに変換
(電気自動車、電車) - 電気エネルギーを光エネルギーに変換
(蛍光灯) - 電気エネルギーを音エネルギーに変換
(スピーカー)
実はこれと同じことが私たちの身体のなかでもおこなわれていて、電子が流れたエネルギーをATPに変換しています。
ですので、人間は電気で動く電気製品ともいえます。
その他の電子伝達体
- CoQ
(ユビキノン) - NADP
(ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸)
参考までに、NAD+とFAD以外の電子伝達体としては、上記の2つがあります。
どうして水素を運ぶのか?
どうして、NAD+とFADは水素原子を運ぶのか、ここではその疑問に答えます。
水素を運ぶ理由は単純で、糖質や脂肪に含まれる原子の中には炭素や窒素がありますが、その中で水素は最も電子を取り出しやすいからです。
- H(水素原子) ⇒ H+(水素イオン) + e–(電子)
水素の構造
水素原子は、陽子(H+、プロトン)と電子(e–、エレクトロン)で構成されています。
しかし、一般的な原子の構造には、下のヘリウム原子のように中性子(ニュートロン)があります。
こうみると、中性子(ニュートロン)がない水素原子※1は特別な原子です。
- 陽子:プラスの電荷をもっています
- 電子:マイナスの電荷をもっています
- 中性子:電荷をもっていません
水素は反応性が高いので電子を取り出しやすい
- 価電子:最外殻電子のうち、反応に使われる電子のこと
- 最外殻電子:最も外側の電子殻にある電子のこと
- 電子殻:電子の回る軌道のことで、内側からK殻、L殻、M殻となっています。
一般的に、価電子をもつ原子は反応性が高いです。
水素原子は価電子を1個もっているため反応性が高いです。
一方のヘリウム原子の価電子は0個なので、反応性が低い原子です。
例えば、水素に炎を使づけると、ボンっと爆発します。一方のヘリウムに炎を近づけても反応しません。
つまり、価電子をもつ水素は空気中の酸素と反応しやすく、価電子をもたないヘリウムは酸素と反応しにくいということです。
このように、水素原子は化学反応を起こしやすい原子ですので、電子の放出もしやすく、電子を取り出すのにうってつけの原子だということです。
まとめ:NAD+とは?FADとは?
NAD(ニコチン酸アミドジヌクレオチド)とFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)は、水素原子を運ぶ電子伝達体です。
- H(水素原子) ⇒ H+(水素イオン) + e–(電子)
私たちの身体のエネルギー源である「ATP」は、糖質や脂質に含まれる水素原子を引き剥がし、酸素と反応させることでつくっています。
この際に、水素原子を預かる物質がNAD+やFADなどが電子伝達体です。
なお、水素原子を預かっている状態のNAD+は、NADH+H+と表記します。
この「NADH+H+」や「FADH2」がATP合成の原料となります。
というわけで今回は以上です。