このページはSePE(選択的血漿交換法)を、新人看護師さんでもイメージしやすいように図解イメージと言葉で整理した実務ガイドです。SePEは、膜型血漿分離器(例:エバキュアープラス)を用い、「凝固因子の低下を最小限にしつつ、病因関連物質(自己抗体・サイトカイン等)を選択的に低下」させる方法です。
最初に結論
- SePE=「選んで抜く」血漿交換:凝固因子を残しやすく、FFPゼロ〜最小で運用できる場面が多い(施設プロトコルで判断)。
 - 置換液はアルブミン主体。濃度は血清Alb(S-Alb)の約0.75倍に設定すると前後変動が少ない(運用例)。
 - 置換量の目安は1.1–1.2×循環血漿量(PV)でIgG≒50%低下、さらに狙うなら1.5×PVで≒60%(SePEの代表値)。
 - IgM主体は不向き。必要時は単純PE併用(先にPE→その後SePE)で“広く→狙って”。
 - 看護のコア:ΔBV、TMPは原則60mmHg(8kPa)以下、Fibの低下と膜ファウリング早期検知。
 
目次
SePEとは?(まず全体像)
SePEは、細孔径の小さい膜で血漿を分け、IgGやサイトカインは通しやすく、フィブリノゲンやFXIIIなどの大分子は通しにくいという“ふるい分け”を利用するPEです。凝固因子の温存により、出血リスク低減やFFP回避を狙えます。
メリットとデメリット
- メリット:凝固因子温存/輸血関連合併症の抑制/アルブミン在庫で運用しやすい。
 - デメリット:IgMなど大分子は苦手/膜のファウリングで効率が落ちる。
 
単純PEとの違い(ざっくり)
単純PE=「広く一気に下げる」(凝固因子も下がる)。
SePE=「必要なもの(凝固因子)は残しつつ狙い撃ち」。
参考文献:Ohkubo A. Selective plasma exchange(レビュー)/日本アフェレシス学会 ガイドライン2021(解説)
何を「抜き」、何を「残す」治療?
代表的な分離器(EC-4A)は、IgGやアルブミンは通すが、フィブリノゲンはほぼ通さないため、IgG主体の病因物質の除去と凝固因子の温存を両立しやすい設計です。
ふるい係数(代表値の目安)
- Alb = 0.73、IgG = 0.50、FXIII = 0.17、Fib = 0(EC-4A)
 - IgG1–4は均等に低下しやすい=サブクラスは気にしなくてよいです。
 
EC-4A / EC-2Aの使い分け
- EC-4A:自己抗体・IgG主体(選択性重視)。
 - EC-2A:サイトカインやビリルビンなど少し広めを狙うときに。
 
参考文献:Ohkubo A 2017(PubMed)/自治医大スライド(SePE概要)
適応と注意(保険の枠組み)
SePEは保険上「血漿交換療法(J039)」に含まれます。IgG主体の自己免疫疾患や、凝固因子温存が望ましい状況で適応を検討します。
ASFA 2023の立ち位置(実務翻訳)
ASFA 2023は疾患ごとにTPEの推奨度を整理しており、SePEは「膜型TPEの運用選択肢」として位置づけられます(例:重症筋無力症、GBSなどTPE推奨疾患で、凝固因子低下を避けたい場合の代替)。
日本アフェレシス学会2021の整理
国内ガイドラインでは、SePEを含む膜型TPEの手技・抗凝固・安全管理の実務を提示。施設プロトコルに沿って適応を決めます。
参考文献:ASFA 2023(総説)/日本アフェレシス学会ガイドライン2021(解説)
準備と回路(プライミングの基本)
SePEで用いる分離器はウエットタイプ。空気混入は凝固の誘因なので、十分な洗浄と置換が重要です。
プライミング手順(メーカー手順の要点)
- 分離器を装着し、内側(血液側)→外側(血漿側)へ各1Lの生食で洗浄(流し捨て)。
 - 最後に抗凝固剤添加生食で置換し、接続部の残気ゼロを確認。
 
エア管理のコツ
接続の高さ・向きを意識し、気泡は常に上に逃がす。微小気泡は膜ファウリングのトリガーになり得ます。
参考文献:エバキュアープラス 使用方法(PDF)
置換液(濃度と作り方)
アルブミン置換が基本。施設の実務ではS-Alb×0.75を目安にすると血清Albの前後変動が少ない運用例があります。高張アルブミン(20–25%)を晶質液で希釈します。
濃度設計の考え方
治療前S-Albを起点に、循環動態の安定性と浮腫リスクのバランスで決定。
置換量(どのくらい回す?)
IgGターゲットなら、1.1–1.2×PVで≒50%、1.5×PVで≒60%の低下がSePEの代表値。アルブミン消費量・回数とのトレードオフで決定します。
リバウンド(再分布)の考え方
IgGは血管外からの再分布で数時間〜半日で部分的に戻るため、複数回(連日〜隔日×3–5回)でIgGを下げていきます。
PV(循環血漿量)
体重・Htから概算します。
参考文献:Removal kinetics(リバウンドレビュー)/ASFA 2023(技術ノート)
流量・抗凝固(よく使う初期設定)
- Qb:80–150 mL/分(アクセスに合わせて段階増量)
 - Qf:24–45 mL/分(Qbの30%以下を目安、膜負荷を抑える)
 - Qs:Qfと同等
 - 抗凝固:ヘパリン初回1,000–2,000単位+持続500–1,000単位/時。出血リスク時はナファモスタット30–40 mg/時。
 
抗凝固モニタリング
ACT 140–200秒程度を一つの目標に運用する施設例あり(症例報告)。出血・回路凝固リスクで調整。
TMP運用の考え方
EC-4Aの最大使用TMPは≒250 mmHgです。
TMP上昇+Qf低下はファウリング兆候。一時停止→Qf控えめで再開などで回復することがあります。
参考文献:EVACURE(EC-4A)のTMP仕様(抄録)/アフェレシスデバイス使用マニュアル(TMP≦60mmHg)/施設スライド(TMP・ACT運用例)
FFP併用時のCa管理
FFP由来クエン酸で低Caを起こし得るため、症状やイオン化Caをモニタします。アルブミン単独置換では問題になりません。
参考文献:JSEPTIC教材(PE総論)/アフェレシスデバイス使用マニュアル
IgMには弱い?(併用の考え方)
IgMは大分子でSePE単独では下がりにくいため、初回〜2回を単純PEで一気に下げ、その後をSePEで“狙い撃ち”する作戦が実務的。
ABO不適合腎移植などでは、SePE+(必要に応じ)部分FFP併用で抗A/B抗体低下と凝固因子温存の両立を図る報告があります。
ABOi腎移植の実データ
- SePEは同一HDスケジュール内での併施(tandem HD+SePE)でも安全性・有効性の報告。
 - 抗A/B抗体低下のため、Alb単独群と部分FFP併用群を比較した臨床研究もあり。
 
参考文献:Hanaoka 2019(RRT open)/Hanaoka 2020(Sci Rep)/Hanaoka 2021(tandem HD+SePE)
よくある質問(FAQ)
FFPは使いますか?
多くのケースでは使わずに運用可能ですが、Fib低下・出血手術前などは一部FFP併用やPE切替を検討します。
どのフィルタを選びますか?
自己抗体主体ならEC-4Aが基本。サイトカインやビリルビンを主に狙うならEC-2Aも選択肢にあがります。
参考文献:Ohkubo 2017/自治医大スライド
IgGのサブクラスは気にしますか?
EC-4AではIgG1–4を満遍なく低下できる報告があるため、サブクラスのはあまり気にしなくてOKです。
参考文献:Ohkubo 2017
まとめ
- SePE=「選んで抜く」。凝固因子を温存しつつ自己抗体・サイトカインを低下。
 - 置換液はS-Alb×0.75を起点に運用/置換量は1.1–1.2×PV(IgG≒50%)が基本、より狙うなら1.5×PV(≒60%)。
 - 看護の要所:ΔBV、TMP≦60 mmHg、Fib低下。
 - IgM主体は単純PEを併用し、“広く→狙って”の順で最短経路を組む。
 
参考文献(サマリ):Ohkubo 2017/ASFA 2023特集号(PDF)/日本アフェレシス学会ガイドライン 2021(PubMed)/アフェレシスデバイス使用マニュアル(PDF)
