透析効率の指標のKt/Vとはなに?計算式も紹介します

Kt/V

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

本記事では、透析効率の指標である『Kt/V』について、新人の臨床工学技士や看護師に向けて、どこよりもわかりやすく、かつ詳しく解説します。

『Kt/V』をまったく知らない人でも、一からしっかりと理解できるようになっています。

先に結論をいえば、Kt/Vで透析効率を評価する際は、尿素に関するsingle-pook Kt/V(spKt/V)で評価します。

  • 尿素に関するKt/Vとは??
  • single-poolってなに?

上記の疑問のある方でも大丈夫です。これらも含めて本記事では解説します。

そもそもKt/Vとはなに?

Kt/V

Kt/V(ケー・ティー・オーバー・ブイ)

  • K:クリアランス(mL/分)
  • t:透析時間(分)
  • V:体液量(mL)

Kt/V(ケー・ティー・オーバー・ブイ)は、国際的に最も使用されている1回あたりの透析量の指標で、透析効率の評価の基本中の基本です。

わかりやすくいえば、透析で総体液量の何回分をきれいにしたかをKt/Vは示しています。

「K」はクリアランス(mL/分)、「t」は透析時間(分)、「V」は体液量(mL)のことです。

Kはクリアランスのことなので透析効率、それにt:透析時間をかけて、V:体液量で割るので、Kt/Vでは体液全体がどれほど透析されたかがわかります。

みなさんの透析室では、最低でも月に1回は透析前後のBUN(血中尿素窒素)を測定していると思いますが、この透析前後のBUN(血中尿素窒素)を用いて透析効率『Kt/V』を計算しています。

なお、BUN(血中尿素窒素)とは、尿素に含まれる窒素のことなんですが、詳しくは下記の記事で解説していますので興味のある方は併せてご覧ください。

血中尿素窒素とは血中尿素窒素とはなにかをわかりやすく解説してみた

K:クリアランスとは

  • K(クリアランス):ある一定時間につくられた毒素なしの体液量

K(クリアランス)とは、ある一定時間につくられた『毒素なしの体液量』を意味しています。

例えば、透析の血流量が200mL/minだとします。除水なしと考えると、ダイアライザに流入する血流量=流出する血流量となります。

ダイアライザから流出する血流量は200mL/minですが、このすべての血液から毒素が抜けているわけではありません。

200mL/minのうち、毒素(例えば尿素)が完全に除去された血流量が180mL、毒素(例えば尿素)が残っている血液が20mLだとすると、この場合の尿素のK(クリアランス)は180mL/minとなります。

「t」は透析時間ですので、ようするに「K×t」とは1回の透析によってつくられた「毒素なしの体液量」となります。

K×tについて

  • 透析量『K×t』=効率『K』×時間『t』

Kt:mL
K:mL/分
t:分

Kはクリアランスのことで、ある一定時間につくられた『毒素なしの体液量』のことです。

つまり、K(クリアランス)は効率のことです。ですのでKの単位は『mL/分』です。

腎臓であれば、効率だけわかれば、24時間稼働していますから、K(クリアランス)がわかればそれだけで事足ります。

しかし、透析は間欠的な治療ですので、『効率』だけでは、どれくらい実際に毒素が除去されたのかがわかりません。

例えば、どれだけ高効率で透析をしてもも、10分しか透析をしていなければ、それほど毒素は抜けていないですよね。

そこで、『効率(K)』と『時間(t)』をかけて、これを『透析量(K×t)』としています。

KtをVで割る理由

  • K×t:1回の透析によってつくられた「毒素なしの体液量」
  • 尿素が分布しているスペースの大小に影響されないように、尿素が分布している体液Vで割ったものが『Kt/V』

体内の尿素が分布しているスペースが小さい患者(体が小さい患者)では、たとえ Kt が等しくても体液中の尿素濃度はより大きく低下しています。

逆に、尿素が分布しているスペースが大きい患者(体が大きな患者)では、たとえ Kt が等しくても体液中の尿素濃度の低下率はより小さいです。

つまり、Kt が等しくても尿素が分布しているスペースの大きさが異なれば血清尿素濃度の低下率は違います。

そこで、尿素が分布しているスペースの大小に影響されず、単に体内での尿素濃度の低下率だけを反映するように、Kt を尿素が分布しているスペースの大きさである体液 V で割ったものが Kt/Vです。

ようするに、体が小さい患者さんでも、体が大きい患者さんでも等しく評価するために『Kt』を体液量『V』で割ったもの『Kt/V』を透析量としています。
つまり、『Kt/V』は単位体積(V)あたりの、1回の透析で取り除くことができた透析量を意味しています。

なお、『Kt』の単位はmL、『V』の単位もmLですので、『Kt/V』に単位はありません。

ただし、VでKtを割ったとしても、女性や体重の少ない患者さんでは、Kt/Vが大きくなる傾向があります。そのため、Kt/Vを過大評価してしまう可能性があるため、女性や体重の小さな患者さんでは、少し大きめのKt/Vが推奨されています。

Kt/Vには分画のモデルにより3つある

compartmentmodel

今日,広く用いられているのはKt/Vureaだが,求めるための数学的なモデルは大きく分けると,体液全体を一区画とみなしたsingle-pool model(single-pool Kt/Vurea:spKt/V)と,透析後の尿素濃度にreboundが認められることを考慮して体液を二区画とみなしたdouble-pool modelがある。これまで日本透析医学会は統計調査結果の解析に,新里らによる方法10)で求めたspKt/Vを用いてきたが,この計算結果は世界的に用いられているDaugirdasの式11)のspKt/Vとよく相関する。一方,double-pool modelは,バスキュラーアクセスや心肺の再循環などによる尿素のリバウンド現象の影響を補正して,体内の尿素が平衡状態となった時点の尿素濃度を推定して求めるKt/Vureaであり,equilibrated Kt/Vurea(eKt/V)と呼ばれ,一般的にeKt/VはspKt/Vより,0.2程度小さな値となる18)

参考:日本透析医学会ガイドライン 第1章 血液透析量(小分子物質)と透析時間

  • 1compartment(1分画)モデル=Single pool Kt/V(spKt/V)
  • 2compartment(2分画)モデル=equilibrated Kt/V(eKt/V)
  • 3compartment(3分画)モデル=計算が複雑すぎ

私たちの身体の中の体液は、『細胞内液』『間質液』『循環血液』の3つのcompartment に分けることができますが、透析によって直接的に浄化されるのは循環血液です。

したがって、細胞内液や間質液の物質は時間遅れで除去されることになります。

細胞内液と間質液の移動抵抗は細胞膜、間質液と循環血液の移動抵抗は毛細血管壁です。もし、毛細血管壁での溶質のクリアランス がダイアライザのクリアランスに比べて十分に大きければ、間質液と循環血液を一つにまとめた細胞外液compartmentと細胞内液compartmentからなるとした 2compartment modelとして考えることができます。

さらに、細胞膜での溶質のクリアランスもダイアライザのクリアランスに比べて十分大きければ、細胞内液と細胞外液をひとまとめにした1compartment modelとして考えることができます。

透析効率のガイドラインにおける推奨はspKt/V

ステートメント
1.透析量は尿素のsingle-pool Kt/V(spKt/V)を用いることを推奨する.(1B)
(以下略)

補足
*本ステートメントは,週3回,1回6時間未満の維持血液透析患者を対象とする.

参考:日本透析医学会ガイドライン 第1章 血液透析量(小分子物質)と透析時間

日本透析医学会(JSDT)のガイドラインでは、透析量は尿素のsingle-pool Kt/V(spKt/V)を用いること推奨しています。

Kt/Vと生命予後

一般的にKt/Vが低いほど死亡リスクが上がることは明らかになっています。

日本透析医学会統計調査によると、Kt/Vが1.2より低いと有意に死亡率が高くて、逆にKt/Vが1.6までは緩やかではあるが死亡率が低下するとしています。

Kt/Vではなぜ尿素を使うのか?【尿素の毒性は証明されてません】

一方,透析の適正さを評価する際に用いる指標物質には,①腎不全で蓄積する,②透析で除去される,③毒性がある,④その体内動態が,他の尿毒症性物質を代表する,⑤その濃度が臨床的な転帰と関連する,⑥測定が簡便であるという6つの性質を持つことが理想的とされているが2),この①~⑥の基準を完全に満たす物質は,前記の90種類の中にはない.しかし,小分子物質に注目した場合,分子量60の尿素は,前述の①,②,⑤,⑥を満たしているほか,高濃度では弱い毒性を持ち3),尿毒症で障害されるタンパク質代謝の最終産物でもある.また,可溶性で細胞膜をほぼ自由に通過して拡散する性質があり,体液に一様に分布すると仮定できるので,数学的な動態モデルに適合するという特徴を持つ4).さらに尿素の除去状態と患者の生命予後・合併症予後に関しては,米国で実施されたNational Cooperative Dialysis Study(NCDS)において,タンパク質の代謝産物である尿素の維持レベルと,栄養指標である蛋白異化率(protein catabolic rate:PCR)が,透析患者の合併症や死亡に関連する重要な因子であることが報告されている5).したがって,尿素を(可溶性)小分子物質の指標物質とし,その除去状態を定期的に評価していくことが必須と考えられる.

参考:日本透析医学会ガイドライン 第1章 血液透析量(小分子物質)と透析時間

Kt/Vでは、尿素窒素を用いたKt/Vureaを使うのが一般的です。

日常的には尿素のという意味のureaを省略してKt/Vとだけなっていることが多いです。

尿素窒素を使う理由としては、尿素窒素は体液全体に均一に分布し、細胞内外を自由に行き来できると考えられているからです。

一方で、尿素窒素といえど、細胞内外や血管壁を尿素窒素がなんの抵抗もなく通過できることはない!という反論もあります。

ですので、先ほどに紹介したように、体液全体が1つのcompartmentに存在するという考えに基づいた、1compartmentモデル(Single pool Kt/V:spKt/V)と、後者のように複数のcompartmentにまたがって体液が存在するという2compartmentモデル(equilibrated Kt/V:eKt/V)があります。

また、米国で実施されたランダム化比較対照試験であるNCDS(National Cooperative Dialysis Study)により、尿素の維持レベルが患者の生命予後と強く関連することが報告されています。

ただし、尿素に明らかな毒性があることは証明されていません。しかし、Kt/Vが透析患者さんの生命予後を予測する有益な情報です。つまり、尿素と並行して、何らかの毒素のある物質が存在しているということです。

こういった経緯から、尿素の除去動態が生命予後と関連することから、小分子物質の指標物質として尿素窒素が使われています。

Kt/Vureaでは尿素窒素の除去率を指標化したものですが、尿素窒素だけでなく、小分子物質全体の透析量の指標となります。

尿素窒素については下記の記事でわかりやすく解説しています。

血中尿素窒素とは血中尿素窒素とはなにかをわかりやすく解説してみた

single-pool Kt/Vについて

ステートメント
1.透析量は,尿素のsingle-pool Kt/Vurea(spKt/V)を用いることを推奨する.(1B)
(中略)

補足
*本ステートメントは,週3回,1回6時間未満の維持血液透析患者を対象とする.

参考:日本透析医学会ガイドライン 第1章 血液透析量(小分子物質)と透析時間

日本透析医学会統計調査委員会が用いているのは、Shinzatoの計算式で求めたsingle-pool Kt/V(spKt/V)です。

また、日本透析医学会のガイドラインでも、Shinzatoの計算式で求めたsingle-pool Kt/V(spKt/V)を用いることを推奨しています。

single-pool Kt/Vの目標

ステートメント
(前略)
2.透析量,月1回以上の定期的な測定を推奨する.
3.実測透析量として,以下の値を採用する.
1)最低確保すげき透析量として,spKt/V 1.2を推奨する.(1B)
2)目標透析量としては,spKt/V 1.4以上が望ましい.(2B)

補足
*本ステートメントは,週3回,1回6時間未満の維持血液透析患者を対象とする.

参考:日本透析医学会ガイドライン 第1章 血液透析量(小分子物質)と透析時間

日本透析医学会のガイドラインでは、spKt/Vを月1回以上測定し、最低 1.2、目標値1.4以上となるように管理することが推奨されています。

Kt/Vの計算式

  • 1compartment(1分画)モデル=Single pool Kt/V(spKt/V)
  • 2compartment(2分画)モデル=equilibrated Kt/V(eKt/V)
  • 3compartment(3分画)モデル=計算が複雑すぎ

Kt/Vを計算するためには、『K』『t』『V』を用いて、$$\frac{K×t}{V}$$の計算式でよさそうですが、実際にはそんなに簡単ではありません。

クリアランスの『K』は透析時間の経過とともに低下していきますし、体液量を体重の60%とするにはざっくりとしすぎています。

そのため、透析前後のBUN(血中尿素窒素)を用いて、様々な式が考えられていますので、いくつかのkt/Vの計算式を紹介します。

GotchのKt/Vの計算式

Gotchの計算式(spKt/V)

$$spKt/V=-ln(\frac{Ce}{Cs})$$

$$Ce:透析後BUN Cs:透析前BUN \ln x=\log_{e} x$$

Gotchの計算式は、1compartment modelを適用し、また除水や尿素の産生の影響を無視しています。

Shinzato (新里)のKt/Vの計算式

新里(shinzato)のkt/V計算方法

Shinzato(新里)の計算式は、1compartment modelを適用し、除水の影響を無視できると仮定しています。

Shinzato(新里)の計算式はnPCRも同時に求められるため、上記で示しているように相当に複雑です。

DaugirdasのKt/Vの計算式(spKt/V)

Daugirdasの計算式(spKt/V)

$$spKt/V=-ln(\frac{Ce}{Cs}-0.008×t)+(4-3.5×\frac{Ce}{Cs})×\frac{UF}{W}$$

$$t:透析時間 UF:除水量 W:透析後体重$$

$$Ce:透析後BUN Cs:透析前BUN \ln x=\log_{e} x$$

参考:Daugirdas JT : Second generation logarithmic estimates of single-pool variable volume Kt/V : an analysis of error.

このDaugirdasの計算式は、1compartment modelを適用しています。

また『除水の影響』と『透析中の尿素産生』が考慮にいれられています。

なお、日本透析医学会では、Shinzato (新里)の式を使っていますが、計算結果はDaugirdasのKt/Vと非常によく相関します。

実際に計算するのは大変ですが、旭化成メディカルのサイトに、数値を入れるだけで計算できるサイトがありますので、興味のある人は実際にやってみてください。

DaugirdasのKt/Vの計算式(eKt/V)

Daugirdasの計算式(eKt/V)

$$eKt/V=spKt/V-0.6×\frac{spKt/V}{t}+0.03$$

Daugirdasはさらに、透析後のリバウンドを考慮に入れた2compartment modelを適用した、equilibrated Kt/V(eKt/V)の計算式を上記にように提唱しています。

一般的に、eKt/VはspKt/Vより、0.2程度小さな値となります。

透析後に血中尿素窒素(BUN)は、リバウンドが観察されるため、尿素の体液での動態は、厳密にはsingle-poolではありません。

まとめ:Kt/Vとは

Kt/V

Kt/V(ケー・ティー・オーバー・ブイ)

  • K:クリアランス(mL/分)
  • t:透析時間(分)
  • V:体液量(mL)

Kt/V(ケー・ティー・オーバー・ブイ)は、国際的に最も使用されている1回あたりの透析量の指標で、体液全体がどれほど透析されたかがわかります。

なお、このKt/Vでは、尿素窒素を用いたkt/Vureaを使うのが一般的です。

日常的には尿素のという意味のureaを省略してKt/Vとだけなっていることが多いです。
Kt/Vureaでは尿素窒素の除去率を指標化したものですが、尿素窒素だけでなく、小分子物質全体の透析量の指標となります。

尿素窒素を使う理由としては、尿素窒素は体液全体に均一に分布し、細胞内外を自由に行き来できると考えられているからです。

また、米国で実施されたランダム化比較対照試験であるNCDS(National Cooperative Dialysis Study)により、尿素の維持レベルが患者の生命予後と強く関連することが報告されています。

こういった経緯から、尿素の除去動態が生命予後と関連することから、小分子物質の指標物質として尿素窒素が使われています。

Kt/Vの計算式としてはいくつかありますが、日本透析医学会統計調査委員会が用いているのは、Shinzatoの計算式で求めたsingle-pool Kt/V(spKt/V)です。

また、日本透析医学会のガイドラインでも、Shinzatoの計算式で求めたsingle-pool Kt/V(spKt/V)を用いることを推奨しています。

Shinzato(新里)の式は、1compartment modelを適用し、除水の影響を無視できると仮定しています。

そして、日本透析医学会のガイドラインでは、spKt/Vを月1回以上測定し、最低 1.2、目標値1.4以上となるように管理することが推奨されています。

 

というわけで今回は以上です。結構なボリュームとなってしまいましがた、Kt/Vの概要を理解するのには役立つと思います。

 

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