こんにちは、臨床工学技士の秋元です。
本記事では、日本でおこなわれている透析が週3回で、1回あたり4時間である理由を紹介します。
結論をいえば、診療報酬が大きく関係しています。
目次
透析の時間と回数が週3回、1回4時間の理由
透析の時間と回数が、週3回、1回4時間の医学的な絶対的根拠はありません。
患者さんの生命と良好なQOLを保証するための、透析条件の一つが、多くの場合「週3回、1回4時間」だったというだけです。
透析が週3回の理由
血液透析の先駆者であるScribnerが論文で「週2回では不足で、週3回の透析が必要」と述べたことがきっかけだったと思われる。それに沿った形で、1988年の保険診療で、「透析技術料の支払いは月14回まで」と定めたことが、決定打となったと考えられる。
引用:レジデントのための血液透析患者マネジメント 第2版 p19
※ Scribner(スクリブナー、1921年1月18日 – 2003年6月19日)というのは、透析で有名だった米国の医師です。
週3回という透析の回数は、健康保険の制限である1カ月14回までを1週間に換算したものです。
施設によっては、ある特定の患者さんのみ週4回透析をしているところもあるようですが、保険適応上算定できないので、現在の日本でこれを当然とすることは不可能です。
透析が1回4時間の理由
わが国では、1985年から保険点数で4時間未満と4時間以上とが分けられ、4時間を境に保険点数に500点の差がついたことで、多くの透析施設では、4時間透析を標準とすることになった。2002年に透析時間による技術料の差がなくなったことで、一時、4時間未満の透析患者が増えた。しかし、「短時間透析の予後がわるい」ことを根拠に、2008年に、4時間以上の血液透析にわずかな値上げがおこなわれ、現在にいたっている。
引用:レジデントのための血液透析患者マネジメント 第2版 p18
透析が健康保険に適用されたのは1967年です。
そのころの昭和40年代(1965~1974年)の血液透析は8時間程度おこなわれていました。しかし透析技術の発達によって、徐々に透析時間が短くなり、昭和50年代(1975~1984年)には5時間透析が普通になりました。
昭和60年ごろからは健康保険による支払額が、透析4時間と5時間で同じになったことがきっかけで、4時間透析が普通になりました。
令和4年 人工腎臓の診療報酬:透析の診療報酬
- 慢性維持透析を行った場合 1
イ 4時間未満の場合 1885点
ロ 4時間以上5時間未満の場合 2045点
ハ 5時間以上の場合 2180点 - 慢性維持透析を行った場合 2
イ 4時間未満の場合 1845点
ロ 4時間以上5時間未満の場合 2005点
ハ 5時間以上の場合 2135点 - 慢性維持透析を行った場合 3
イ 4時間未満の場合 1805点
ロ 4時間以上5時間未満の場合 1960点
ハ 5時間以上の場合 2090点 - その他の場合 1580点
施設基準の差で1、2、3、4になります。
なお、条件付きですが、診療報酬では6時間以上で上乗せ加算(長時間加算、1回つき150点)があります。
・慢性維持透析を行った場合 1
次のいずれかに該当する保険医療機関であること
① 透析用監視装置の台数が26台未満
② 透析用監視の台数に対するJ038人工腎臓を算定した患者数が3.5未満
・慢性維持透析を行った場合 2
次のいずれにも該当する保険医療機関であること
① 透析用監視装置の台数が26台以上
② 透析用監視の台数に対するJ038人工腎臓を算定した患者数が3.5以上4.0未満
・慢性維持透析を行った場合 3
「慢性維持透析を行った場合 1」又は「慢性維持透析を行った場合 2」のいずれにも該当しないこと
ガイドラインではどうなのか?
日本透析医学会のガイドライン1)では、週3回の血液透析の透析時間は「4時間以上」を推奨しています。
1)日本透析医学会「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」透析会誌 46(7):587,2013
週3回、1回4時間の透析は十分なのか?
無尿の透析患者さんに対し、週3回、1回4時間の透析をおこなった場合、週あたりにならしたGFR(糸球体濾過量)で考えると、10~20ml/分といわれています。つまり、健常者の1/10程度しか、腎臓の機能を代行していないことになります。
つまり、週3回1回4時間の透析をおこなっている無尿の透析患者さんは、透析治療を週3回きちんとおこなってもCKD ステージ 4 または5 にあると認識する必要があります。
また体重増加の多い患者さんに、無理に4時間で透析をおこなおうとすれば除水速度は高く、循環動態に大きな負担をかけることにもなります。
ですので、標準的な週3回、1回あたり4時間の透析に固執せず、個々の透析患者さんにあった透析の方法(1回あたりの透析時間、週の透析回数)をおこなうことが重要です。とはいえ、透析施設の経済的な問題もありますので、なかなかに難しいところがあります。
ですので、患者さんには少なくとも週3回、1回4時間の透析は最低限しっかりと受けてもらいましょう。
というわけで今回は以上です。
参考にした本
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