こんにちは、臨床工学技士の秋元です。
本記事では、ASTとALTの基準値と基準値を超える場合の原因についてまとめています。併せて、ASTとALTってなに?という疑問にもお答えしています。
目次
ASTとALTの基準値について
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
・男女:13~30U/L - ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
・男性:10~42U/L
・女性:7~23U/L
参考:薬剤師のための基礎からの検査値の読み方 臨床検査専門医×薬剤師の視点
AST、ALTはともに細胞内の酵素ですので、細胞の破壊に伴い、血液中にでてくる逸脱酵素です。そのため、臓器の障害により血中濃度が上がります。
なお、ASTとALTは、肝胆道系疾患、心疾患、筋疾患、溶血性疾患などのスクリーニング、重症度判定などで測定されます。
しかし正確には、肝細胞が破壊されているときに血中に逸脱する酵素ですので、肝臓の機能ではなく肝細胞の障害の有無を推定する検査です。
つまり、肝臓の病気で破壊されつくされた後では、ASTとALTはそれほど増加しません。
ASTとALTは酵素の一種
肝機能検査には主にASTとALTがあります。昔はASTはGOT、ALTはGPTと呼んでいました。
このASTとALTは肝臓などに含まれている酵素です。
酵素とは触媒のことで、食べ物の消化の触媒として、あるいは代謝の触媒としての働くをするタンパク質です。
ちなみに、人間の体内には3,000種以上の酵素があるといわれています。
なお、私たちの身体の中でおこなわれている「食べ物の消化」や「体内での代謝」のほとんどすべてに、酵素が必要です。
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とは
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)はほとんどの細胞内に存在する酵素です。
しかし、分布する組織に違いがあり、
- 心筋 > 肝臓 > 骨格筋 > 腎臓
上記の順にASTは多く含まれています。
そして、ASTは細胞の破壊にともなって血液中にでてくる逸脱酵素ですので、これらの組織が何らかの原因で障害されると、血液中に流出し、ASTの値が上昇します。
なので、ASTの上昇は肝臓以外の病気でも上昇します。例えば、心筋梗塞、心筋炎、肺梗塞、筋肉の疾患、溶血性貧血なども考えられます。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)とは
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)もほとんどの細胞内に存在する酵素ですが、圧倒的に肝臓に多く含まれています。
ASTと比較してALTは他の臓器への分布量が少ないため、ASTよりも肝臓の障害に特異的です。
現実的にはALTは肝臓にのみ存在すると考えてもよいので、ALTの上昇は肝臓に何らかの異常がある可能性が高いです。
ASTとALTの違い
- 違い①:由来する組織
・AST → 肝臓だけでなく、心筋、骨格筋、赤血球などにも存在
・ALT → 主に肝臓に存在 - 違い②:半減期
・ASTの半減期:約11~15時間
・ALTの半減期:約40~50時間
ASTとALTの違いは上記の2つあります。
まず、ASTとALTの分布の違いがあります。ASTは体内に広く分布していますが、ALTは肝臓に多く分布しています。ですので、ALTが基準値よりも超えていれば、肝臓に何らかの異常がある可能性が高いです。
ASTとALTの違いの2つ目は半減期です。半減期というのは意外と重要で、肝臓が一気に破壊される急性肝炎や慢性肝炎の急性増悪のときは、この半減期の差のため、病初期はAST>ALTとなり、後期は逆転してAST<ALTとなります。
病初期にAST>ALTとなるのはそもそも肝臓にはASTの方が多いからです。しかし、ASTは半減期が短いので後期ではほとんどなくなってしまっています。
ASTとALTの役割
- トランスフェラーゼとは、転移反応を触媒する酵素のこと
- ASTとALTは、アミノ酸のアミノ基を転移させ、別のアミノ酸をつくるアミノ基転移酵素のこと
ASTとALTはいずれも酵素で、主に肝臓でアミノ酸の代謝(アミノ酸をつくりかえる反応)に関与しています。
ASTが触媒する反応
- アスパラギン酸 + α-ケトグルタル酸
→ グルタミン酸 + オキサロ酢酸
上記の反応を進める酵素がASTです。
アミノ酸の一種であるアスパラギン酸の「アミノ基」がα-ケトグルタル酸に転移し、グルタミン酸になります。
ALTの役割:ALTが触媒する反応
- グルタミン酸 + ピルビン酸
→ アラニン + α-ケトグルタル酸
上記の反応を進める酵素がALTです。
アミノ酸の一種であるグルタミン酸の「アミノ基」がピルビン酸に転移し、アラニンになります。
ASTとALTが基準値より高い場合
- 風邪薬やサプリメントなどの影響
- アルコール性肝障害(お酒の飲み過ぎ)
- 過度な運動(筋トレによる筋肉の破壊による影響)
ASTとALTは、肝障害の代表的な指標ですが、風邪薬による影響やお酒の飲み過ぎでも一時的に上がることはよくあります。
(これらを控えてしばらくして再検すると改善します)
アルコール性肝障害では、ALTよりASTのほうが上昇します。また、γ-GTPも上昇してきます。ALTよりASTのほうが高くて、γ-GTPも高い場合はお酒の飲みすぎかもしれません。
ASTのみが上昇している場合は、過度な運動による影響が考えられます。
上記のことに心当たりがなければ、腹部エコー、CT検査、追加の採血など精密検査を行います。
ASTとALTの基準値より高いときの疾患
1.高度な上昇 (正常の10倍以上、500IU/L以上) | 急性ウイルス性肝炎、劇症肝炎(AST < ALT) 薬剤性肝炎(特に中毒性)(AST < ALT) ショック、重症心筋梗塞(AST > ALT) |
2.中等度上昇 (正常の2.5~10倍、100~500IU/L) | 慢性肝炎(AST < ALT) アルコール性肝炎(AST > ALT) 薬剤性肝炎(AST < ALT) 心筋梗塞(AST > ALT) 筋疾患(AST > ALT) |
3.軽度上昇 (正常の2.5倍以下、100IU/L以下) | 慢性肝炎(AST < ALT) 肝硬変(AST > ALT) 肝癌(AST > ALT) アルコール性脂肪肝(AST > ALT) 過栄養性脂肪肝(AST < ALT) 閉塞性黄疸(AST > ALT) 溶血性黄疸(AST > ALT) |
参考:日本臨床検査専門医会 専門医が教える”よく受ける検査”の意味6 AST(GOT)、ALT(GPT)の検査について
ASTとALTのみで、上記疾患が診断されることはまずありません。他の血液検査や画像検査を組み合わせて診断がつきますので、ASTとALTはあくまで補助的な検査項目です。
肝機能が低下していてればASTとALTは高くなるの?
肝機能の低下が慢性化した状態では、ASTとALTの値はそこまで上がらないので注意が必要です
ASTやALTは細胞が破壊されているときに、血中に漏れ出てくる酵素です。進行した肝硬変や劇症肝炎後期などでは肝細胞の数が減り、壊れる細胞が少なくなっているので、ASTやALTの数値は基準値内に収まっていることもあります。
ですので、数値が上昇していないので大丈夫だという安易な判断は禁物です。
AST/ALT比と疾患
AST優位 | ショック、急性心筋梗塞、アルコール性肝炎、心筋梗塞、筋疾患、肝硬変、肝癌、アルコール性脂肪肝、閉塞性黄疸、溶血性黄疸 |
ALT優位 | 急性ウイルス性肝炎、劇症肝炎、薬剤性肝炎、慢性肝炎、過栄養性脂肪肝、 |
ASTとALTは数値だけでなく、どちらがより高いか(AST/ALT比)も大切です。
AST値よりALT値が高い場合は慢性肝炎、ALT値よりもAST値が高い場合は、肝硬変、肝がんの可能性が高いといった具合に、より詳しく原因を特定することができます。
ASTとALTが低値
ASTとALTが低値でも臨床的に問題になることはほとんどありません。
ただ、透析患者のASTとALTは、腎機能正常者より低値を示すといわれています(1)。
原因としては、活性型ビタミンB6不足や腎不全での阻害物質の損害などが考えられています。
まとめ:ASTとALTの基準値
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
・男女:13~30U/L - ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
・男性:10~42U/L
・女性:7~23U/L
参考:薬剤師のための基礎からの検査値の読み方 臨床検査専門医×薬剤師の視点
AST、ALTはともに細胞内の酵素ですので、細胞の破壊に伴い、血液中にでてくる逸脱酵素です。そのため、臓器の障害により血中濃度が上がります。
とくにALTは肝臓にのみ存在すると考えてもよいので、ALTの上昇は肝細胞傷害を意味しています。
なお、ASTとALTは、肝胆道系疾患、心疾患、筋疾患、溶血性疾患などのスクリーニング、重症度判定などで測定されます。
しかし正確には、肝細胞が破壊されているときに血中に逸脱する酵素ですので、肝臓の機能ではなく肝細胞の障害の有無を推定する検査です。
つまり、肝臓の病気で破壊されつくされた後では、ASTとALTはそれほど増加しません。
というわけで、今回はASTとALTの基準値と異常値の場合の原因、そしてASTとALTとはいったいなんなのかについてまとめてみました。少しでも参考になれば幸いです。
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