透析不均衡症候群(DDS)とは?原因・症状・予防と初回透析の設定

透析不均衡症候群(DDS)は、透析で血漿尿素が急低下して脳との浸透圧差が生じ、水が脳へ移動して起こる一過性の脳浮腫です。

透析での不均衡症候群(DDS)とは

不均衡症候群とは、血液中と脳組織との間に生じる濃度(浸透圧)較差などの原因により脳浮腫状態となり、透析中から終了後12時間以内に発症する中枢神経症状(頭痛、吐き気など)や全身症状(血圧低下、倦怠感、下枝攣りなど)が発症する状態のことです。

透析でBUNを急速に下げると、血漿の浸透圧が先に低下し、脳内との“浸透圧ギャップ”が生じます。その結果、脳細胞側に水が移動し、頭痛・悪心などの神経症状が出る状態が不均衡症候群です。

透析における浸透圧差

浸透圧は、単位体積当たりの溶媒に含まれる溶質の分子の総数に比例します。

厳密には血漿浸透圧は主に、Na、Cl、重炭酸、グルコース、尿素窒素などで決まります。ちなみに、健常人の血漿浸透圧の基準値は275~295(mOsm/kgH2O)です。

脳圧亢進

透析をすることでBUNが急激に低下し、急激に浸透圧が低下します。

とくに頭蓋骨で囲まれた脳は、浮腫が発生すると圧の逃げ場がなくなり、脳圧が亢進して頭痛や悪心・嘔吐といった中枢神経系の症状が出現します。

血管内の老廃物は速やかに除去されますが、血管外(間質と細胞内)の老廃物の除去に時間がかかります。

血液脳関門により隔たれた脳実質では、尿素窒素の除去が遅延します。結果として脳実質と血中との間で浸透圧較差が生じます。これに伴い脳実質への水分移動が生じ脳浮腫をきたします。

起こりやすい場面・リスク因子

  • 高BUN(例:緊急透析)

  • 初回透析、小児・高齢、低栄養、脳疾患既往

  • 短時間での大幅な尿素/浸透圧低下(大型ダイアライザ、高Qb/Qd)

症状(軽症→重症)

  • 軽症:頭痛、悪心・嘔吐、焦燥、筋けいれん、めまい、視覚異常

  • 中等症:傾眠、見当識低下、落ち着かない、血圧変動

  • 重症:けいれん、意識障害(昏睡)

予防:初回・高BUNでDDSを起こさない設定

ポイントは浸透圧を急に下げないこと循環安定です。

  • 短時間×分割:初日は3時間、翌日も透析など。

  • 低クリアランス:小さめのダイアライザ、低めのQbで静かに開始します。

  • 患者教育:頭痛・吐き気などのサインをすぐ申告してもらいます。

初回透析(導入・緊急時)の設定目安(例)

項目 初回の目安 理由・補足
時間 3時間(連日短時間で慣らす) 浸透圧低下を緩やかにします。
ダイアライザ 低膜面積(例:0.7–1.1 m²) クリアランスを抑えます。
Qb / Qd Qb 80–120 mL/分Qd 300–500 mL/分 溶質速度を控えめにします。

当日の観察ポイント(チェックリスト)

  • 開始30–60分:頭痛・吐き気・落ち着かない様子・筋けいれんの有無

  • バイタル:血圧・脈拍・体温

  • 電解質:Na、K、Ca(必要に応じてiCa)、血糖

  • 尿毒素の落ち方:初回はKt/Vを目標にします。

  • 患者教育:症状があればすぐコールすることを再確認します。

発症時の対応(ベッドサイドの流れ)

  1. 除水を停止Qb/Qdを下げる(一時的な透析停止も検討)

  2. 評価:意識、瞳孔、痙攣、血糖、Ca、Na、血圧

  3. 高張化の検討:医師指示のもと、10%NaClやマンニトールを使用する場合があります。

初回透析で不均衡症候群が起きやすい理由:逆尿素効果

初回透析で不均衡症候群が発生しやすい理由は、初回透析時に血漿浸透圧(主に尿素)だけが急に下がるのに、脳側の“適応”は遅いからです

結果として血漿<脳内の浸透圧勾配が生じ、水が脳内へ移動し、軽度の頭痛から重症ではけいれん・意識障害まで起こり得ます。

リスク因子として初回透析が明記

不均衡症候群の典型的リスクとして「初回HD」「高BUN(>175mg/dL)を挙げられています。

参考:Disequilibrium Syndrome

逆尿素効果(Reverse urea effect)

透析で血漿の尿素が先に急低下すると、脳内の尿素が追いつかず一時的に脳内>血漿の浸透圧になります。すると水が脳細胞側へ移動し、頭痛・嘔気などの症状が出やすくなります。

尿素は尿素輸送体(UT-A、UT-B)を介して細胞膜をほぼ自由に通過できます。しかし、血液脳関門(BBB:blood brain barrier)は例外で、尿素の血液脳関門通過速度は、他の臓器の100倍以上の時間がかかるといわれています。透析で急に尿素を血液中から除去すると、血液と脳組織間に尿素濃度勾配が生じ、脳細胞への水分移動が生じ、脳浮腫・頭蓋内圧亢進を生じます(逆尿素効果:reverse urea effect)。

動物実験では、透析後に「脳⇔血漿」の尿素勾配が拡大し、脳含水量(脳むくみ)が増えることも報告されています。初回や高BUNの導入時に起こりやすい理由は、落差(勾配)が大きくなりやすいからです。

参考:Central nervous system pH in uremia and the effects of hemodialysis

慢性尿毒症での「脳側の適応」

慢性腎不全では、脳で尿素トランスポーター(UT-B)が減少し、アクアポリン(AQP4/9)が増加するという分子適応がみられます。

つまり、脳細胞内に水は入りやすいのに尿素は出にくい状態です。この状態で血漿側だけ急に正常へ近づけると、脳内→血漿への尿素の逃げが遅れ、相対的に水が脳へ流れ込みやすいため、DDSを助長します。

参考:Molecular basis for the dialysis disequilibrium syndrome: altered aquaporin and urea transporter expression in the brain

維持透析期でも不均衡症候群(DDS)は起こりますか?

不均衡症候群は導入期に多いことで有名ですが、維持期でも(特に透析を抜いた・中断した後など)まれに起こり得ます。背景には、血漿側の尿素が先に下がって脳との浸透圧ギャップが生じ、水が脳へ移動してしまう「逆尿素効果」があります。レビューでも、新規導入で多いが、慢性透析患者でも起こり得るとされています。国立バイオテクノロジー情報センター+1

“primarily after the new initiation of dialysis… can also be seen in chronic dialysis patients who miss their regular dialysis treatments.” 国立バイオテクノロジー情報センター

ヒト・動物の研究では、透析後にCSF(脳脊髄液)の尿素が血中より高くなり、水が中枢へ引き込まれる勾配ができること、また脳含水量(脳のむくみ)が増えることが示されています。PMC+1

“after hemodialysis, the urea concentration in the CSF was higher than that in the blood, thus setting up an osmotic gradient.” PMC


透析中の「頭痛」は不均衡症候群そのものですか?

透析維持期での頭痛は不均衡症候群とは別の可能性があります。

透析維持期に多いのは、ICHD-3が定義する「透析関連頭痛(Dialysis headache)」で、これは透析中に出現し、終了後72時間以内に自然軽快する急性頭痛です。毎回のセッションで反復することはありますが、1回の発作が慢性的に続く疾患ではありません。ICHD-3+1

“each headache has developed during a session of haemodialysis… resolved within 72 hours after the end of the session.”(ICHD-3) ICHD-3

透析関連頭痛とは

透析関連頭痛は「透析中に始まり、終了後72時間以内に自然軽快」する頭痛です。

透析ごとに反復しますが、1回の発作が持続し続ける慢性疾患名ではありません。背景には血圧・電解質・体液の急変が関係しています。ICHD-3+1

 

 

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