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電子伝達系とはなに?図を多用してわかりやすく解説してみた

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

電子伝達系とは簡単にいえば、ATP(アデノシン三リン酸)をつくるためのシステムです。

ATPとは、すべての動物、植物、微生物の細胞のなかに蓄えられているエネルギー物質のことです。この物質のおかげで、身体を動かしたり、心臓を動かしたり、息をしたりといった、私たちが生きるために必要なことがおこなえています。決して、食べたものから直接エネルギーを得てるわけではありません

このATP(アデノシンリン酸)をつくるための反応には、以下の3つのシステムがあります。

  1. 解糖系
  2. クエン酸回路
  3. 電子伝達系

この中でもっとも大量にATPをつくるのは電子伝達系です。

例として、グルコース1個からつくられるATPの量は「解糖系で2個のATP」「クエン酸回路で2個のATP」「電子伝達系で28個のATP」です。なお、高校の教科書では、1個のグルコースから「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達系」で代謝されると36個のATPがつくられると書かれています。しかし、最近ではこの計算法の見解が変わってきていて、さらに臓器によってもATPの産生量が違うので、厳密なATPの数を覚える必要はありません。

このように、ATPのほとんどはは電子伝達系でつくられています。

今回はそんな、ATP合成の主役である電子伝達系についてわかりやすく解説しようと思います。

電子伝達系とはなに?わかりやすく解説してみた

電子伝達系とは、解糖系やクエン酸回路でつくられた「NADH+H+やFADH2」を材料に、効率的にATPをつくるためのシステムのことです。

解糖系やクエン酸回路だけでなく、脂肪酸のβ酸化によってもNADH+H+とFADH2作られていて、これらも電子伝達系によってATP合成に利用されています。

ちなみに、ATP(アデノシンリン酸)をつくるための反応は、以下の3つのシステムがあり、電子伝達系でもっとも大量にATPがつくられます。

  1. 解糖系
  2. クエン酸回路
  3. 電子伝達系

それでは、電子伝達系を説明する前に、かるく解糖系とクエン酸回路について簡単に説明します。

高校の教科書では、1個のグルコースから「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達系」で代謝されると36個のATPがつくられると書かれています。しかし、最近ではこの計算法の見解が変わってきていて、さらに臓器によってもATPの産生量が違うので、厳密なATPの数を覚える必要はありません。

解糖系

解糖系によるグルコースの分解を解糖 glycolytic という。グルコース1モルから2モルのピルビン酸 pyruvic acid あるいは乳酸 lactic acid が生じ、その過程で2モルのATPが消費され、4モルのATPが生成する。その結果2モルのATPが生じる。

引用:系統看護講座 専門基礎 生化学 人体の構造と機能② p169

解糖系とは、わかりやすくいえば、私たちの身体にエネルギーを供給するためのシステムのことです。

好気的条件下(酸素が十分にある状態)の場合、グルコースは最終的にピルビン酸にまで分解されます。

解糖系によって1モルのグルコースから、2モルのビルピン酸、2モルのATP、そして2モルのNADH+H+がつくられます。

ピルビン酸はそのあと、アセチルCoAへと変換され、アセチルCoAはクエン酸回路へと入っていき代謝され、ATP合成に利用されます。

NADH+H+は、電子伝達系に運ばれて、電子とH+を渡し、ATP合成に利用されます。

好気的条件下における解糖系の反応
  • グルコース+2NAD++2ADP+2リン酸 → 2ピルビン+2NADH+H++2ATP+2H2O

解糖系については下記の記事で詳しく解説しています。

解糖系とはなに?わかりやすく簡単に解説してみた

クエン酸回路

クエン酸回路は、糖質、脂質、タンパク質の酸化のための最終的な経路であり、共通の最終代謝物であるアセチルCoAは、オキサロ酢酸と反応してクエン酸を生成する。

引用:イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,p186

クエン酸回路とは生命がエネルギーをつくり出すためのシステムのことです。

もう少し詳しく解説しますと、クエン酸回路とはアセチルCoAを反応の起点(上図のようにアセチルCoAがクエン酸回路に入っていきます)とした、私たちが生きるために必要なエネルギーであるATPをつくり出すための代謝システムのことです。

さきほどの解糖系によってつくられたピルビン酸は、好気的条件下において、ミトコンドリア内に入ります。そこで、ピルビン酸はアセチルCoAに変えられます。

クエン酸回路は、細胞内にあるミトコンドリアのマトリックス部分でおこなわれますが、ピルビン酸はミトコンドリアの外膜と内膜を難なく通過することができます。ちなみに、ピルビン酸からアセチルCoAに変えられる過程でもNADH+H+がつくられます。

このアセチルCoAは、オキサロ酢酸と反応してクエン酸になります(これが、クエン酸回路の一番初めの反応です)

さらに、クエン酸は、イソクエン酸酸に、次にα-ケトグルタル酸にという風に順次反応していき、最終的にオキサロ酢酸へとなります。

このような一連の反応を、クエン酸回路といいます。

そして、1個のアセチルCoAがクエン酸回路で代謝されることによって、GTPが1個、NADH+H+のセットが3個、FADH2が1個つくられます。

クエン酸回路の反応式まとめ
  • アセチルCoA + 3NAD+ + FAD + GDP + H3PO4 + 2H2O
    → 2CO2 + CoASH + 3(NADH+H+) + FADH2 + GTP

※ GTPは、ADPにリン酸基をわたしてATPになることが可能です。
※ NADH+H+やFADH2は、電子伝達系に運ばれて、電子とH+を渡し、ATP合成に利用されます。

クエン酸回路については下記の記事で詳しく解説しています。

クエン酸回路とはなに?世界一わかりやすく解説してみた

電子伝達系は解糖系やクエン酸回路でつくられたNADH+H+とFADH2をつかってATPを合成

解糖系やクエン酸回路ではなく、ATPのほとんどは電子伝達系でつくられています。

しかし、だからといって電子伝達系だけあればいいのかというとそんなことはなく、電子伝達系で大量のATPをつくるためには、解糖系やクエン酸回路でNADH+H+とFADH2をつくる必要があります。

ですので、解糖系やクエン酸回路も重要です!

電子伝達系に運ばれる「NADH+H+とFADH2」ってなに?

簡単に説明すると、NADH+H+やFADH2は電子とH+を運ぶ化合物です。

NADH+H+やFADH2は電子とH+を電子伝達系に供給して、ATPを合成しています。

ちなみに、電子を運ぶ前の状態を酸化型、電子を運んでいる状態を還元型といいます。

電子を運ぶ前の状態(酸化型) 電子を運んでいる状態(還元型)
NAD+ NADH+H+
FAD FADH2

電子やH+を運ぶNADH+H+やFADH2に関しては「【NADとは?FADとは?】電子伝達体の役割についてわかりやすく解説してみた」でわかりやすくまとめています。

【NADとは?FADとは?】電子伝達体の役割についてわかりやすく解説してみた    

電子伝達系の流れをわかりやすく解説

電子伝達系とは、解糖系やクエン酸回路でつくられたNADH+H+やFADH2から電子とH+を受け取って、効率的にATPをつくるためのシステムのことです。

そして、この電子伝達系の反応式をまとめたものが以下となります。

電子伝達系の反応式まとめ
  • 10NADH+10H++2FADH2+6O2 → 10NAD++2FAD+12H2O+28ATP

※この反応式は、グルコース1個が「解糖系→クエン酸回路」と反応していったときの場合になります。ただし、臓器によってATPの産生量は違うので28個という数字はあくまで参考です。

この反応式をみてわかるとおり、NADH+H+やFADH2から、28個もの大量のATPがつくられています。

つまり、グルコース1個は、最終的に電子伝達系で28個のATPに変わります。

電子伝達系の反応の流れの全体像

  • 段階①
    解糖系やクエン酸回路でつくられたNADH+H+とFADH2がミトコンドリアの内膜に運ばれてぶつかる。
  • 段階②
    内膜にぶつかった衝撃で、e(電子)とH+(水素イオン)が飛び出す。
  • 段階③
    飛び出したe(電子)は内膜の中を流れていく。
  • 段階④
    H+(水素イオン)が、内膜を流れる電子のエネルギーにより膜間腔に移動する。
  • 段階⑤
    膜関空に大量のH+(水素イオン)がたまっていく。
  • 段階⑥
    膜関空にたまった大量のH+(水素イオン)がマトリックスに移動するときのエネルギーでATPがつくられる。

電子伝達系の実際の反応の流れは上記のとおりです。

それでは順を追って説明していきます。

段階①:NADH+H+やFADH2がミトコンドリアの内膜に運ばれてぶつかる

NADH+H+やFADH2はミトコンドリアの内膜に運ばれ、ミトコンドリアの内膜にあるたんぱく質とぶつかります。

段階②:内膜にぶつかった衝撃で、e(電子)とH+(水素イオン)が飛び出す

ミトコンドリアの内膜にぶつかったNADH+H+やFADH2からe(電子)とH+(水素イオン)が切り離されます。

切り離されたe(電子)は、内膜の中を流れていきます。

一方のH+(水素イオン)は、内膜の内側に移動します。

段階③:飛び出したe(電子)は内膜の中を流れていく

NADH+H+やFADH2から飛び出たe(電子)は、ミトコンドリアの内膜の中を流れていきます。

電子伝達系に入り込んだe(電子)は、その名のとおり、内膜の中にあるいくつかの複合体やタンパク質の間を次々に伝達されていきます。

e(電子)が流れることで、内膜にある物質と酸化還元反応を次々に起こしていきます。

この酸化還元反応によって、エネルギーが発生します。

・酸化:電子を失うこと
・還元:電子を得ること

段階④:H+(水素イオン)は膜間腔に移動する

内膜を流れるe(電子)によって引き起こされた酸化還元反応のエネルギーを利用して、H+(水素イオン)が膜間腔に移動します。

一部のH+(水素イオン)は、ミトコンドリアの内膜を流れる電子と反応し水素(H2となり、さらに酸素(O)と反応して水(H2O)ができます。

ここで酸素(O)が必要となるので、私たちは呼吸をしています。

段階⑤:膜間腔に大量のH+(水素イオン)がたまっていく

「段階①~④」の反応が繰り返され、膜間腔に大量のH+(水素イオン)がたまっていきます。

段階⑥:膜間腔にたまったH+(水素イオン)がマトリクスに移動するエネルギーからATPがつくられる【酸化的リン酸化】

膜間腔にたまったH+(水素イオン)は反発し、内側に戻ろうとします。

マトリックスと膜間腔のあいだで、H+(水素イオン)による濃度勾配がつくられます。この濃度勾配によって、H+(水素イオン)が濃度の高いほうから低い方へと自然に流れていこうとします。

この勢いはすさまじく、ものすごいパワーでH+(水素イオン)が内膜をとおって、マトリックスにいこうとします。このときのエネルギーによってATPがつくられます。

内膜にはATP合成酵素があり、H+(水素イオン)がこの酵素の中を通って流れるときにATPが合成されます。

ここで28個もの大量のATPがつくられます(グルコース1個から解糖系をスタートした場合の最終的な収支)

といった感じで、NADH+H+やFADH2から電子伝達系でATPがつくられています。

ちなみに、H+(水素イオン)の濃度勾配を使ってATP合成酵素が大量のATPを産生するシステムを酸化的リン酸化といいます。

まとめ:電子伝達系とは

電子伝達系の反応式まとめ
  • 10NADH+10H++2FADH2+6O2 → 10NAD++2FAD+12H2O+28ATP

※この反応式は、グルコース1個が「解糖系→クエン酸回路」と反応していったときの場合になります。

電子伝達系とは簡単にいえば、ATP(アデノシン三リン酸)をつくるためのシステムで、解糖系やクエン酸回路でつくられた「NADH+H+やFADH2」を材料に、効率的にATPをつくります。

例として、グルコース1個からつくられるATPの量は「解糖系で2個のATP」「クエン酸回路で2個のATP」「電子伝達系で28個のATP」です。

高校の教科書では、1個のグルコースから「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達系」で代謝されると36個のATPがつくられると書かれています。しかし、最近ではこの計算法の見解が変わってきていて、さらに臓器によってもATPの産生量が違うので、厳密なATPの数を覚える必要はありません。

といった感じで、エネルギー代謝というと解糖系やクエン酸回路が有名ですが、圧倒的に電子伝達系のほうがATPを多くつくっています。

 

というわけで今回は以上です。

 

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