糖新生の反応経路の流れを図を多用して解説します

こんにちは、臨床工学技士の秋元麻耶です。

本記事では、糖新生の反応経路を、各材料別(アミノ酸、グリセリン(グリセロール)、乳酸)に、図を多用してわかりやすく解説します。

糖新生の大まかな反応経路

糖新生の反応の流れ

上の図のオレンジ色の矢印は、糖新生の反応経路を描いています。

ただし、糖新生の材料(アミノ酸、乳酸、グリセロール)によって、糖新生の反応経路は異なります。しかし、糖新生の大まかな流れは上の図で示したオレンジ色の矢印の経路です。

なお、糖新生とはグルコース以外の物質(アミノ酸、乳酸、グリセロール)からグルコースをつくる仕組みのことです。

ざっくりといえば、糖新生は糖質以外のものからグルコースを合成するために、解糖系を逆行する反応経路です。

糖新生の概要については下記の記事でわかりやすく解説しています。

糖新生とはなに?できるだけ簡単にわかりやすく解説してみた

ただし、先ほど解糖系を単純に逆行できない箇所が3カ所あって、一部迂回路をとおったり、解糖系のときとは違う酵素を使ったりします。

ちなみに、逆行できない、もしくは解糖系のときとは違う酵素を使う経路は以下の3カ所です(下の図とあわせてご覧ください)

  • ⑩ピルビン酸 → ⑨ホスホエノールピルビン酸
    (糖新生のときは、「ピルビン酸→オキサロ酢酸→リンゴ酸→オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸」という迂回路をとおります)
  • ④フルクトース-1、6-ビスリン酸 → ③フルクトース-6-リン酸
    (③→④の解糖系のときは、「ホスホフルクトキナーゼ」という酵素を使います)
    (④→③の糖新生のときは、「フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ」という酵素を使います)
  • ②グルコース-6-リン酸 → ①グルコース
    (①→②の解糖系のときは、「ヘキソナーゼ」という酵素を使います)
    (②→①の糖新生のときは、「グルコース-6-ホスファターゼ」という酵素を使います)

解糖系の反応

それでは、糖新生の反応の大きな流れである「ピルビン酸」から「グルコース」に至るまでの経路を1つ1つみていきます。

ピルビン酸→オキサロ酢酸

糖新生の起点であるピルビン酸は、一部のアミノ酸や乳酸からつくられます。

  • アミノ酸は、主に筋肉のたんぱく質の分解によってつくられます。
  • 乳酸は、赤血球や嫌気的状態の筋肉などでグルコースの解糖によってつくられます。

しかし、解糖系の「⑨ホスホエノールピルビン酸→⑩ピルビン酸」への反応経路は不可逆であるため、逆行することができません。

ですので迂回路をとおる必要があります。
(下の図のオレンジ色の矢印が迂回路です)

その第一段階目の反応が「ピルビン酸→オキサロ酢酸」です。

ピルビン酸はミトコンドリアの中に入り、オキサロ酢酸に変えられます。

オキサロ酢酸→リンゴ酸

先ほどの反応でピルビン酸は、オキサロ酢酸に変換されました。

しかし、オキサロ酢酸の状態ではミトコンドリアの外に出ることができません。

ですので、いったんリンゴ酸に変換してからミトコンドリアの外に出ます。

そのための第二段階目の反応が「オキサロ酢酸→リンゴ酸」です。

リンゴ酸→オキサロ酢酸

ミトコンドリアの外に出たリンゴ酸は、オキサロ酢酸に戻されます。

これが第三段階目の反応で「リンゴ酸→オキサロ酢酸」になる反応です。

オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸

ここまできてようやくピルビン酸は、本来の目的であるホスホエノールピルビン酸となります。

これが第四段階目の反応で「オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸」になる反応です。

上の図をみてもらうとわかりやすいですが、解糖系の以下の経路は、逆行することができないため、ずいぶんと遠回りするハメになってしまいました。
(上の図のオレンジ色の迂回路です)

⑩ピルビン酸 → ⑨ホスホエノールピルビン酸
(逆行できない経路)

解糖系の逆行

ホスホエノールピルビン酸まで到達したら、後は単純で、解糖系の逆をそのまま順当に登っていくだけです。

ただし、注意点が1つだけありまして、

冒頭のほうでも説明したように、解糖系において単純に逆行できない箇所、もしくは解糖系とは違う酵素を使う箇所が3カ所あると説明させていただきました。

解糖系において逆行できない反応

  • ⑩ピルビン酸 → ⑨ホスホエノールピルビン酸

上記の反応経路に関しては、迂回路をとおることでこの問題を解決しました。

しかし残り以下の2カ所では、解糖系とは違う酵素を使います。

解糖系とは違う酵素を使う反応経路

  • ④フルクトース-1、6-ビスリン酸 → ③フルクトース-6-リン酸
  • ②グルコース-6-リン酸 → ①グルコース

上記2つの反応経路では、解糖系とは違った酵素によって反応を進めることができます。

④フルクトース-1、6-ビスリン酸から③フルクトース-6-リン酸の反応経路では、「フルクトース-1、6-ビスホスファターゼ」という酵素によって反応が起きます。

②グルコース-6-リン酸から①グルコースの反応経路では、「グルコース-6-ホスファターゼ」という酵素によって反応が起きます。

ちなみに、糖新生がおこなわれる肝臓と腎臓において「グルコース-6-ホスファターゼ」という酵素の活性が強いです。

以上が、ピルビン酸からグルコースをつくる糖新生の大まかな反応経路です。

これからは、個別に糖新生の材料が、どの地点から糖新生の経路に合流していくのかをみていきます。

糖新生の材料

糖新生の主な材料となる物質

  • アミノ酸
  • 乳酸
  • グリセロール(グリセリン)

糖新生の材料となる主な物質は、上記の3つのどれかです。

アミノ酸、乳酸、グリセロール(グリセリン)は血中に放出されて肝臓に運ばれた後、糖新生がおこなわれます。

この中で、糖新生の材料としてもっともよく使われてるのが「アミノ酸」です。
(糖新生の90%はアミノ酸が使われています)

そして、それぞれの材料が糖新生に至るまでの反応経路は以下のようになります(上の図もあわせてご覧ください)

糖新生に至るまでの過程

  1. 筋肉において
    タンパク質→アミノ酸→血中→肝臓→糖新生→グルコース→必要とする組織へ供給
  2. 脂肪組織において
    中性脂肪→グリセロール(グリセリン)→血中→肝臓→糖新生→グルコース→必要とする組織へ供給
  3. 赤血球や筋肉において
    乳酸→血中→肝臓→糖新生→グルコース→必要とする組織へ供給

上記の1.~3.は、絶食時や糖質制限時だけでなく、日常的にわたしたちの身体でおこなわれていることです。

なお、糖新生は主に肝臓でおこなわれていますが、腎臓と小腸でもおこなわれています。

アミノ酸を材料にした糖新生の反応経路

アミノ酸の基本構造

アミノ酸の基本構造

糖源性アミノ酸(全部で18種類)

アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、イソロイシン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、システイン、スレオニン、セリン、チロシン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン

糖新生の材料になるアミノ酸は18種類で、糖新生の材料になるアミノ酸ということで「糖源性アミノ酸」と呼ばれています。

なお、筋肉の中にあるたんぱく質の分解によって発生するアミノ酸が、糖新生でもっとも使われる材料になります。

アラニン、セリン、グリシン、システイン、トリプトファンの糖新生への反応経路

アラニン、セリン、グリシン、システイン、トリプトファンの糖新生への反応経路

アラニンは、ピルビン酸にアミノ基をつけたものです。ですので、アラニンからアミノ基を取り外してピルビン酸になります。

その他、セリン、グリシン、システイン、トリプトファンらもピルビン酸へと変えられます。

ピルビン酸は、リンゴ酸経由でホスホエノールピルビン酸になり、解糖系を逆行していきます。

アスパラギン酸、アスパラギンの糖新生への反応経路

アスパラギン酸、アスパラギンの糖新生への反応経路

アスパラギン酸とアスパラギンは、アミノ基をとればそのままオキサロ酢酸になります。

オキサロ酢酸は、リンゴ酸経由でホスホエノールピルビン酸になり、解糖系を逆行していきます。

グルタミン酸、グルタミン、プロリン、アルギニン、ヒスチジンの糖新生への反応経路

グルタミン酸、グルタミン、プロリン、アルギニン、ヒスチジンの糖新生への反応経路

グルタミン酸、グルタミン、プロリン、アルギニン、ヒスチジンはいずれも、α-ケトグルタル酸となりクエン酸回路に入っていきます。

そもそも、α-ケトグルタル酸にアミノ基をつけたものがグルタミン酸です。ですので、グルタミン酸のアミノ基をとればα-ケトグルタミン酸になります。

その他のアミノ酸も、ひとまずグルタミン酸となってからα-ケトグルタミン酸へと変えられます(以下参照)

以降はクエン酸回路を経由して解糖系を逆行していきます。

・グルタミンは一段階の反応でグルタミン酸になります。
・プロリン、アルギニン、ヒスチジンは、何段階かの反応をへて、グルタミン酸となります。

バリン、スレオニン、メチオニン、イソロイシンの糖新生への反応経路

バリン、スレオニン、メチオニン、イソロイシンの糖新生への反応経路

バリン、スレオニン、メチオニン、イソロイシンは、いくつかの段階をへて、スクシニルCoAに変えられてクエン酸回路に入っていきます。

以降はクエン酸回路を経由して解糖系を逆行していきます。

フェニルアラニン、チロシンの糖新生への反応経路

フェニルアラニン、チロシンの糖新生への反応経路

フェニルアラニンとチロシンはフマル酸に変えられてクエン酸回路に入っていきます。

以降はクエン酸回路を経由して解糖系を逆行していきます。

まとめ:糖源生アミノ酸の糖新生の反応経路

糖源生アミノ酸が糖新生へ参入するために変化する物質

  1. ピルビン酸
  2. オキサロ酢酸
  3. α-ケトグルタル酸
  4. スクシニルCoA
  5. フマル酸

このように、肝臓に到達したそれぞれの糖源生アミノ酸は、上記の5つのいずれかの物質にかえられて、糖新生に参入していきます。

これらの物質は、クエン酸回路の一部の経路を経由したりしつつ、まずは「リンゴ酸」を目指します。

そして、ミトコンドリアの外に出たリンゴ酸はオキサロ酢酸、ホスホエノールピルビン酸と順番に変化し、解糖系を逆行していきます。

グリセロールを材料にした糖新生の反応経路

中性脂肪の構造

中性脂肪の構造

中性脂肪の構造は、上の図のとおりで、グリセリン(グリセロール)に3つの脂肪酸がくっついています。

体内にある中性脂肪のほとんどは、脂肪細胞(皮下脂肪や内臓脂肪)に存在しています。

この中性脂肪が分解すると「グリセリン(グリセロール)」と「脂肪酸」になります。

そして、糖新生の材料となるのは「グリセリン(グリセロール)」です。

この「グリセリン(グリセロール)」の糖新生の反応経路は以下のとおりです。

グリセロールを材料にした糖新生の反応経路

上の図のように、グリセリン(グリセロール)は、ジヒドロキシアセトンリン酸になり、解糖系を逆行してグルコースになります。

乳酸を材料にした糖新生の反応経路

乳酸を材料にした糖新生の反応経路

乳酸からピルビン酸はつくられます。

ピルビン酸以降の流れは、「⑩ピルビン酸 → ⑨ホスホエノールピルビン酸」という解糖系の経路を逆行することができないので、迂回路を通ります。

迂回路をとおってホスホエノールピルビン酸まで到達したら、あとは解糖系を一直線に逆行してグルコースになります。

乳酸を材料にした糖新生の反応経路

ピルビン酸→オキサロ酢酸→リンゴ酸→オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸→(解糖系の逆行)→グルコース

なお、乳酸からピルビン酸にするための酵素は「乳酸脱水素酵素(LD、またはLDH)」です。

少し脱線しますが、乳酸脱水素酵素(LDH)は採血の項目にもありまして、以下の記事でわかりやすく解説しています。

乳酸脱水素酵素(LDH)【乳酸脱水素酵素】LDHとは?その基準値もあわせてわかりやすく解説!

まとめ:糖新生の反応経路

糖新生の反応経路

糖新生の反応経路は、どの物質からスタートするかによって異なりますが、大きな経路は上の図のオレンジ色で示した矢印になります。

このように、糖新生は解糖系を逆行して進んでいきますが、単純に逆行できない箇所が3カ所あって、一部迂回路をとおったり、解糖系のときとは違う酵素を使ったりします。

ちなみに、逆行できない、もしくは解糖系のときとは違う酵素を使う経路は以下の3カ所です(下の図とあわせてご覧ください)

  • ⑩ピルビン酸 → ⑨ホスホエノールピルビン酸
    (糖新生のときは、「ピルビン酸→オキサロ酢酸→リンゴ酸→オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸」という迂回路をとおります)
  • ④フルクトース-1、6-ビスリン酸 → ③フルクトース-6-リン酸
    (③→④の解糖系のときは、「ホスホフルクトキナーゼ」という酵素を使います)
    (④→③の糖新生のときは、「フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ」という酵素を使います)
  • ②グルコース-6-リン酸 → ①グルコース
    (①→②の解糖系のときは、「ヘキソナーゼ」という酵素を使います)
    (②→①の糖新生のときは、「グルコース-6-ホスファターゼ」という酵素を使います)

なお、糖新生の材料となる主な物質は、以下の3つのどれかです。

糖新生の主な材料となる物質

  • アミノ酸
  • 乳酸
  • グリセロール(グリセリン)

アミノ酸、乳酸、グリセロール(グリセリン)は血中に放出されて肝臓に運ばれた後、糖新生がおこなわれます。

この中で、糖新生の材料としてもっともよく使われてるのが「アミノ酸」です。
(糖新生の90%はアミノ酸が使われています)

 

 

というわけで、今回は糖新生の反応経路について詳しくみていきました。参考になれば幸いです。

糖新生って何?っていう人は下記の記事でわかりやすく解説していますのでよかったらご覧ください。

糖新生とはなに?できるだけ簡単にわかりやすく解説してみた

 

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