胸部レントゲンでの胸水の見方【仰臥位、立位、座位】

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

本記事では、胸部レントゲンでの胸水の見方(仰臥位、立位、座位)について解説します。

胸水とは?

胸水とは、胸腔内に溜まっている液体の総称です。

わかりやすくいえば、肺の外にたまった水のことです。健常者でも胸腔内には胸水が5~10mL程度はあります。

胸水は、臓側胸膜と壁側胸膜の間にある潤滑油の役割をしています。もし胸水がなければ、臓側胸膜と壁側胸膜が密着してしまい、動かなくなります。

肺をスポンジに見立てた場合、肺うっ血(肺水腫)はスポンジがびしゃびしゃな状態。それに対して胸水は、スポンジが桶の水に浮いているような状態です。当然、スポンジも少し湿りますが肺が悪いわけじゃないことも多いです。

胸水はどこにある?

画像引用:中皮腫・じん肺・アスベストセンター,3胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)の出来やすい部位

肺は2つの胸膜に包まれています。肺に密着している内側の膜を臓側胸膜、外側の膜を壁側胸膜といます。

胸腔とは、この臓側胸膜と壁側胸膜の間の空間のことです。胸水はこの胸腔の中に溜まっています。

胸水の原因

  • 漏出性胸水
  • 滲出性胸水

原因は多くありますが、主に上記の2つに分かれます。

漏出性胸水

いわゆる水漏れですね。心不全や腎不全などで水分の循環排泄が悪くなり、血管の中の圧が高くなることで水漏れし、胸水がたまったりします。

また、低タンパク血症で血管内の浸透圧が下がり、水分を血管内に保持する力が弱くなると圧がそこまで高くなくても水漏れすることがあります。低タンパク血症の原因としては、肝不全(タンパク産生低下)や肝不全でのネフローゼ症候群(腎臓からタンパク質が出てしまっている)、低栄養などが挙げられます。

いずれの原因も全身性のため、両側対称性に胸水貯留(両側胸水)になることが特徴です。

滲出性胸水

こちらは水漏れとは少し違い、炎症などでしみ出ているような感じですかね。広い意味で肺~胸腔内に炎症が起こっていると考えていいのではないかと思われます。

頻度的に多いのが、肺がんをはじめとする悪性腫瘍です。悪性リンパ腫などの非固形腫瘍でも胸水という形になることがあります。また、よくアスベスト肺に続発したがんとして、悪性中皮腫という悪性腫瘍も胸水主体になることがあります。

次に、肺炎などで胸水がたまることがあります。また、肺炎の内側に膿の塊をつくる肺膿瘍や、肺には炎症はあまりなく、胸水が実は膿の塊という膿胸も広い意味で滲出性胸水になります。

あとは結核性胸膜炎という、胸膜に結核の炎症がおよぶと一般的な細菌感染による肺炎・膿胸とは異なる治療が必要になります。

あとは稀な胸水の原因のものも多くはこちらの滲出性胸水になります。

胸水の精査加療

まずは胸水そのものを見てみようということで、胸水穿刺をして胸水を抜いて調べます。ここで有名なLightの基準というものがあります。

 胸水TP/血性TP > 0.5 (TP=総タンパク)

 胸水LDH/血性LDH > 0.6

 胸水LDH > 血清LDH正常の2/3

その他にコレステロールなどを用いた補助診断基準もあったりします。

これら1つでも満たしたら滲出性胸水全て陰性なら漏出性胸水という基準で、なかなか精度が良いようです。

これらで漏出性胸水であれば血中タンパク・アルブミンを調べながら採血・尿検査で腎機能、レントゲンや心エコー検査で心機能をみて、悪いところを下がります。いずれにしても初期治療は利尿薬になります。

滲出性胸水の場合、もちろん画像的に肺がんや肺炎がないかを評価しますが、合わせて胸水の細胞診や胸水中のADA、ヒアルロン酸などの測定を行い、炎症の原因を探します。これで原因不明で、かつ悪化傾向であれば胸水ドレナージで廃液をして症状を改善させたり、胸腔鏡を用いて直接胸膜などを観察・生検など行ったりします。

レントゲンでの胸水【仰臥位、立位、座位】の見え方

画像引用:長尾大志,レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室,p121

上の画像は、立位、正面での胸部レントゲン画像です。

立位では胸水は下のほうからたまっていきます。

胸水の量が少ない場合は、横隔膜に隠れてあまりみえません(上のレントゲン画像の左2つ)

CP angleが微妙に鈍化してるような、してないような微妙なときは、過去のレントゲン画像と比較します。

しかし、胸水の量が約300mLを超えてくると、横隔膜と肋骨のあたりにに白く胸水がみえてくるようになります(上のレントゲンの一番右)

つまり、少量の胸水の発見には、正面のレントゲン画像はあまり役に立ちません。側面像のほうがわかりやすいです。

液体はX線を遮るので白く映ります(つまり、水のある部分は白く見えます)。逆に、X線が進む道に遮るものがなければ黒く映ります。肺には通常、血管や気管支以外では空気が充満しているので黒く映ります。

CP angle(costophrenic angle)とは?

画像引用:長尾大志,レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室,p81

肋骨を結ぶ線(≒壁側胸膜)と横隔膜のなす角のことを、CP angle(costophrenic angle)といいます。

横隔膜は、胸腔と腹腔を分ける位置にあり、右側のほうがやや高いです。

上の画像のように、普通はCP angleは鋭い角度(sharp)となります。

しかし、胸水などがたまることでCP angleは鈍化してきます(下のレントゲンをご覧ください)。専門的にはCP angle dullといいます。

なお、臓側胸膜と壁側胸膜の間は真空なので、毛細管現象により胸水が上がってきやすいです。

心れ減のCP angle dull

画像引用:長尾大志,レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室,p81

ただし、CP angle dullだからといって必ずしも胸水というわけではなくて、肺が末期でCOPDで過膨張であったり、癒着などで角度が変わってしまっている場合もあります。

仰臥位でのレントゲンの胸水

ポータブル撮影のときに仰臥位でレントゲンを撮った場合、背中側に胸水がたまります。

胸水が大量にあれば仰臥位でもはっきりと白く映ってわかります。

しかし、胸水が少量しかない場合、仰臥位では胸水がわかりにくいです。やや白く映る感じがしますが、わかりにくいです。なんとなく胸郭内の濃度が全体的に上昇して、下のほうが少し濃いことが多いです。なお、仰臥位では肺尖部に胸水が貯留しやすいです。

肺尖部とは、鎖骨より上側の部分のことです。

立位でのレントゲンの胸水

画像引用:長尾大志,レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室,p81

立位では、肺の下のほうに胸水が溜まるので(液体は下のほうにたまり)、CP angle dullとなってわかります。

ただし、少量の胸水の発見には、正面のレントゲン画像はあまり役に立ちません。側面像のほうがわかりやすいです。

座位でのレントゲンの胸水

座位では、肺の下のほうに胸水が溜まるので(液体は下のほうにたまるので)、CP angle dullとなってわかります。

ただし、少量の胸水の発見には、正面のレントゲン画像はあまり役に立ちません。側面像のほうがわかりやすいです。

 

というわけで今回は以上です。

 

胸部レントゲンでの心陰影の見方と、心胸比(CTR)の測定方法は下記の記事で解説していますので併せてごらんください。

胸部レントゲンの心陰影の見方と拡大 胸部レントゲン撮影での心胸比(CTR)の測定方法

 

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