イントラリポスとは?【投与速度・透析中にも使用】

イントラリポスの投与速度の簡単な計算方法

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

本記事では、栄養状態の悪い患者さんに対して、透析中に投与されることのある「イントラリポス」について、いったいどういうものなのか、投与速度について解説したいと思います。

イントラリポス製剤の簡単な計算方法を今すぐ知りたい!という方は、目次から「イントラリポス製剤の簡単な計算方法」の箇所をご覧ください。

イントラリポスとは?【透析中にも使用します】

 

出典:株式会社大塚製薬工場 イントラリポス輸液20%

脂肪をカロリー源として静脈内に投与する試みは、1929年山川らによって世界に先がけて始められた。その後、種々の脂肪乳剤の研究が行われた結果、木村らによって、ダイズ油脂肪乳剤が臨床的に安全かつ有効であることが立証された。
1981年にダイズ油 10w/v%濃度のイントラリポス 10%を、また、1987年にはダイズ油 20w/v%濃度のイントラリポス 20%を発売した。
さらに、1994年には、ポリプロピレン製のプラスチック容器入り製剤を発売した。
なお、医療事故防止等の観点から販売名の「イントラリポス輸液 10%、20%」への変更が2008年3月に承認され、2008年6月に薬価収載された。

引用:医薬品インタビューフォーム、イントラリポス®輸液10% イントラリポス®輸液20%

イントラリポスの原料は大豆油です。

イントラリポスの原料は大豆油で、大豆油には必須脂肪酸の一種であるリノール酸が多く含まれています。

この大豆油に精製卵黄レシチンで乳化したものがイントラリポスです。
また、等張化剤としてグリセリンが添加されており、浸透圧比1と等張となっています。

2020年現在、日本において市販されている脂肪乳剤は、イントラリポスのみです。ですので、脂肪乳剤=イントラリポスという感じになっています。製剤としては、10%のものと20%のものがあります。

イントラリポスを投与すべき理由

  • 理由①:必須脂肪酸の補給
  • 理由②:エネルギー源として
  • 理由③:脂肪肝の予防
  • 理由④:静脈円の予防

脂肪乳剤であるイントラリポスを投与する目的・効果は主に上記の3つです。

順に説明していきます。

理由①:必須脂肪酸の補給

中性脂肪の構造

中性脂肪の構造

必須脂肪酸は体内で合成することができません。

必須脂肪酸の代表的なものとしては、α-リノレン酸(オメガ3系脂肪酸)とリノール酸(オメガ6系脂肪酸)があります。

脂肪は、体内で合成できる脂肪酸と合成できない脂肪酸があり、後者を必須脂肪酸と呼びます。

イントラリポスには必須脂肪酸が含まれているため、長期間絶食患者さんや栄養状態の悪い患者さんに対して、欠乏を防ぐために重要です。

イントラリポスの原料は大豆油で、大豆油には必須脂肪酸の一種であるリノール酸が多く含まれています。

理由②:エネルギー源として

脂肪は1gで9kcalものエネルギーがあり、糖質(4kcal/g)とタンパク質(4kcal/g)よりも大きなエネルギーがあります。

したがって、脂肪は少ない量で多くのエネルギーを補給することができます。

糖質だけでカロリーを補給しようとすると、糖質の過剰になり脂肪肝の原因となってしまいます。

理由③:脂肪肝の予防

コレステロールの大半は肝臓でつくられています。

ただ、コレステロールは水に溶けないため、コレステロールを運搬するためにアポリポタンパクが必要です。しかし、脂質が不足するとアポリポタンパクが作られなくなり、肝臓でつくられた脂肪がそのまま肝臓に溜まって脂肪肝になってしまいます。

当然、アポリポタンパクをつくるためにはアミノ酸も必要なので、同時にアミノ酸の投与も重要です。

また、高カロリーな脂質を投与せず、糖質だけでカロリーを賄おうとすると、糖質過多になりがちで、肝臓で合成される中性脂肪も増え、こちらも脂肪肝につながります。

理由④:静脈炎の予防

ビーフリード(ブドウ糖やアミノ酸が入った末梢静脈栄養製剤)などを末梢点滴から投与する場合、浸透圧が高く静脈炎を引き起こす可能性が報告されている。その結果、発赤、疼痛、感染兆候を起こしてルートを抜針することになってしまいます。

しかし、イントラリポスを同時に投与すると浸透圧を下げることによって静脈炎の予防となります。

イントラリポスの名称など

販売名イントラリポス輸液10%
イントラリポス輸液20%
一般名精製大豆油
包装イントラリポス輸液10% 250mLバッグ入り
イントラリポス輸液20% 50mL,100mL,250mLバッグ入り
性状pH:6.5~8.5
浸透圧比:約1(生理食塩水に対する比)

イントラリポスの名称などは上記のとおりです。

イントラリポスの成分・添加物

成分10%20%
250mL中250mL中100mL中50mL中
有効成分 精製大豆油25g50g20g10g
添加物 精製卵黄レシチン3g3g1.2g0.6g
 濃グリセリン5.5g5.5g2.2g1.1g
 水酸化ナトリウム
(pH調整剤)
適量適量適量適量
熱量(kcal)約275約500約200約100

参考:添付文書 イントラリポス®輸液10% イントラリポス®輸液20%

イントラリポスは、上記の成分・添加物を含んでします。

原料は大豆油で、大豆油には必須脂肪酸の一種であるリノール酸が多く含まれています。

精製卵黄レシチンは乳化剤として、濃グリセリンは、浸透圧が血清と同じにするために添加されています。

20%イントラリポス100mLのカロリー

20%イントラリポス100mLのカロリーは、添付文書には約200kcalと記載されています。

ほんとうに合っているかどうか、実際に計算してみます。

20%イントラリポス100mLに含まれる脂肪の量は20g(精製大豆油)です。

脂肪1gのエネルギーは9kcalですので、20g×9kcal/g=180kcalとなります。しかし、これでは添付文書の約200kcalと一致しません。これは、精製卵黄レシチン、濃グリセリンのカロリーを含めていないためです。

・精製卵黄レシチン:1.2g×9kcal/g=10.8kcal
・濃グリセリン:2.2g×4kcal/g=8.8kcal

したがって、20%イントラリポス100mLに含まれるカロリーは、180+10.8+8.8=199.6kcalとなり、添付文書の約200kcalとほぼ一致します。

イントラリポスの投与速度

イントラリポスの投与速度の簡単な計算方法

イントラリポスの投与速度は、日本静脈経腸栄養ガイドラインに従った場合は患者さんの体重によって変えます。

ちなみに、イントラリポスの投与速度は、日本静脈経腸栄養ガイドラインと添付文書で違います。

なお、上の図の計算方法は、日本静脈経腸栄養ガイドラインに即した場合のものです。

ガイドラインと添付文書で投与速度が違うというのはよくあることです。

イントラリポスの投与速度【日本静脈経腸栄養ガイドライン】

脂肪乳剤の投与速度の上限は0.1g/kg/hrとされています(1)。これは、日本静脈経腸栄養ガイドラインにおいて推奨されています。

イントラリポスの投与速度【日本静脈経腸栄養ガイドライン】

  • 脂肪乳剤の投与速度は0.1g/kg/hr以下になるように

患者さんの体重が40kgだとすると、0.1g/kg/hr × 40kg = 4g/hrとなります。

つまり、1時間あたり4gまで精製大豆油を投与できるということです。

これ以上、イントラリポスの投与速度が速いと、血中での脂肪粒子の加水分解が追い付かず、栄養として利用されずに中性脂肪が上昇するだけになります。

また、脂肪による免疫能への影響や血栓症などの原因にもなります。

ですので、これら副作用を避けるためにもゆっくりと投与することが重要です。

イントラリポスの投与速度【添付文書】

イントラリポスの投与速度(添付文書)

  • イントラリポス輸液10%製剤は500mLを3時間以上かけて点滴静注する
  • イントラリポス輸液20%製剤は250mLを3時間以上かけて点滴静注する

つまり、精製大豆油50gを3時間以上かけて投与しなさいという意味

添付文書では「イントラリポス輸液10%製剤は500mLを3時間以上かけて、イントラリポス輸液20%製剤は250mLを3時間以上かけて点滴静注する」と記載されています。

イントラリポス輸液10%製剤500mLとイントラリポス輸液20%製剤250mLは、それぞれ50gの精製大豆油を含んでいます。

つまり、添付文書では精製大豆油50gを3時間以上かけて投与しなさいということを言っています。

体重に関しては特に考慮されておらず、体格の小さな人でも、体格の大きな人でも、精製大豆油50gを3時間以上かけて投与します。

イントラリポス輸液10%製剤はと、100mL中に10gの精製大豆油を含むことを意味しています。

体重50kgの人の精製大豆油50gを投与する場合の投与速度

  • 体重50kgの人にイントラリポス輸液20%製剤は250mLを3時間かけて点滴静注する場合の投与速度は約0.33g/kg/hr
    (つまり、精製大豆油50gを3時間かけて投与するということ)

体重50kgの人に、精製大豆油50gを3時間かけて投与すると考えた場合、どの程度の投与速度になるのかを実際に計算してみます。

体重あたりの脂肪の投与速度に換算すると、約0.33g/kg/hr(50g/50kg/3h)となります。

しかし、日本静脈経腸栄養ガイドラインが推奨する脂肪乳剤の投与速度の上限は0.1g/kg/hrです。

ですので、添付文書と日本静脈経腸栄養ガイドラインでは投与速度に約3倍のひらきがあります。

日本静脈経腸栄養ガイドラインのみを知っている人は、臨床でこんな身体の小さなおばあちゃんに、イントラリポスをこんなに早く投与してて大丈夫かな、と思うかもですが、添付文書的には大丈夫ということです。

日本静脈経腸栄養ガイドラインと添付文書で投与速度が違う理由

イントラリポスは、ゆっくり投与したほうが脂肪乳剤が体内で有効利用されるからです。

ある研究で、0.3g/kg/hrで投与した群では血中TGが上昇し、0.1g/kg/hr以下で投与した群では血中TGが上昇しなかったとされています。

これは、0.1g/kg/hr以下で投与した群では血中TGが上昇しなかったので、脂肪乳剤が有効利用されているということを意味しています。

血中TGが上昇するということは、うまく体内で脂肪乳剤が利用されていないということです。

入山らの報告(1)でも、0.1g/kg/hr以下が望ましいとしています。

イントラリポス輸液の投与速度の計算方法

例えば、イントラポリス輸液20% 100mLを40kgの患者さんに、日本静脈経腸栄養ガイドラインに従って患者さんに投与するケースを考えてみます。

イントラポリス輸液20% 100mLには、100mL×20%×10-2=20gの精製大豆脂が含まれています。

100mL中に大豆油が10%含まれているということは、大豆油が10g含まれている、なので200mLでは20gの大豆油が含まれているんだという風に単純に考えてもらってもいいです。

日本静脈経腸栄養ガイドラインによる脂肪乳剤の投与速度は下記のとおりです。

イントラリポスの投与速度【日本静脈経腸栄養ガイドライン】

  • 脂肪乳剤の投与速度は0.1g/kg/hr以下になるように

患者さんの体重が40kgだとすると、0.1g/kg/hr × 40kg = 4g/hrとなります。

つまり、1時間あたり4gまで精製大豆油を投与できるということです。

イントラポリス輸液20% 100mLには20gの精製大豆油が含まれているので、5時間以上かけて投与する必要があり、投与速度としては、20ml/hr以下で投与します。

イントラリポス輸液の投与速度の簡単な計算方法

イントラリポスの投与速度の簡単な計算方法

日本静脈経腸栄養ガイドラインに従った、イントラリポス製剤の簡単な計算方法は上の図のとおりです。

もし、この計算速度よりも早く投与されていれば、日本静脈経腸栄養ガイドラインではなく、添付文書に従って投与しているのかもしれません。

イントラリポスは他の薬剤と混合しない

イントラリポスは、電解質やアミノ酸と混ぜると経時的に粒子の粗大化や凝集をきたし、肺塞栓が発生する可能性があります。

ですのでき、基本的に他の薬剤とは混合しません。

TPN製剤(ビタミン、微量元素含有)投与ラインの側管からイントラリポスを投与した場合は、脂肪粒子の平均粒子径に大きな変化は認められなかったとの報告があります。
これは、接触時間が短いためと考えられるので、混合しなければ大丈夫と思われます。

イントラリポスの禁忌・慎重投与

  1. 血栓症の患者[凝固能亢進により症状が悪化するおそれがある。]
  2. 重篤な肝障害のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
  3. 重篤な血液凝固障害のある患者[出血傾向があらわれるおそれがある。]
  4. 高脂血症のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
  5. ケトーシスを伴った糖尿病の患者[ケトーシスが亢進するおそれがある。]

参考:添付文書 イントラリポス®輸液10% イントラリポス®輸液20%

イントラリポスの禁忌上記のとおりです。

  1. 肝機能障害のある患者[肝機能が悪化するおそれがある。]
  2. 血液凝固のある患者[凝固能が亢進又は低下するおそれがある。]
  3. 呼吸障害のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
  4. 低出生体重児
  5. 重篤な敗血症患者[症状が悪化するおそれがある。]

参考:添付文書 イントラリポス®輸液10% イントラリポス®輸液20%

イントラリポスの慎重投与は上記のとおりです。

 

というわけで今回は以上です。

 

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