透析のときに使うナファモスタットメシル酸塩(フサン®)についてまとめてみた

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

血液透析では抗凝固薬が必須です。日本では主に、ヘパリン、低分子ヘパリン、ナファモスタットメシル酸塩、アルガトロバンが使われています。

本記事では、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®について、その作用機序、使い方、副作用などについてまとめています。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®ってなに?【タンパク分解酵素阻害薬】

ナファモスタットメシル酸塩(nafamostatmesilate;NM)は、蛋白分解酵素阻害薬であり、抗凝固作用としてはトロンビンをはじめとする血液凝固因子を多段階で抑制し、血小板凝集能も抑制する。

引用:山下芳久,第Ⅸ章 抗凝固薬

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は、タンパク分解酵素阻害薬です。

日本では1986年に膵炎の治療薬として、1989年には汎発性血管内凝固症候群や体外循環時の抗凝固剤として承認されています。

血液凝固は一連の酵素反応であるので、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®ははこれら凝固系の酵素の反応を阻害して、抗凝固作用を発揮します(詳細は後述します)。特に透析においては、出血病変をもっていたり、出血リスクの高い患者さんに対して、透析中の抗凝固薬としては第一選択薬です。

ちなみに、酵素とは触媒のことであり、その実体はタンパク質です。触媒とは、それ自身は変化せず、化学反応のスピードを変化させる物質のことです。血液凝固は一連の酵素反応ですので、この酵素反応を阻害することで、血液の凝固を阻止するのがナファモスタットメシル酸塩(フサン®です

なお、以前はナファモスタットメシル酸塩を急性膵炎、あるいは慢性膵炎の治療薬として使われていたそうですが、最近ではあまり使われていないようです(専門外なので間違っていたらすみません)

血液凝固は一連の酵素反応です。多くの凝固因子はいったん活性化されると酵素として、次の段階の凝固因子を活性化して反応は連鎖的に進みます。なお、活性化した凝固因子は(activated)と表現します。例えば、プロトロンビンは血液凝固因子の一つですが、このプロトロンビン(基質)、凝固因子のⅩa因子(酵素)によって活性化されてトロンビン(生成物)となります。このような酵素反応が順々に起こっていって血液は凝固します。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の先発品と後発品

薬剤名一般名製薬会社先発/後発
注射用フサン®50
添付文書
ナファモスタットメシル酸塩日医工先発
ナファモスタットメシル酸塩注射用50mg「日医工」
添付文書
ナファモスタットメシル酸塩日医工ファーマ後発

ナファモスタットメシル酸塩には先発品と後発品があり、一例を示すと、上の表の注射用フサン®50のほうが先発品で、ナファモスタットメシル酸塩注射用50mg「日医工」のほうが後発品です。

ナファモスタットメシル酸塩注射用50mg「日医工」のほうが先発品と勘違いしている人もいますが、実は注射用フサン®50のほうが先発品です。

ナファモスタットメシル酸塩の阻害酵素

ナファモスタットメシル酸塩の主な阻害酵素

  • トロンビン
  • カリクレイン
  • プラスミン
  • トリプシン
  • ホスホリパーゼA2

ナファモスタットメシル酸塩の主な阻害酵素は上の5つです。

ナファモスタットメシル酸塩には、膵酵素(トリプシン、カリクレイン)、血液凝固線溶系(トロンビン、Ⅻa、Ⅹa、Ⅶa、プラスミン)、カリクレインーキニン系、補体系に対する強力な阻害作用があります。また、ホスホリパーゼA2に対しても阻害作用があります。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の抗凝固の作用機序

血液凝固は凝固因子のカスケードによって制御される反応ですが、同時に一連の酵素反応でもあります。メシル酸ナファモスタット(分子量539Da)はこれら凝固系酵素の作用を抑制し抗凝固作用を発揮します。阻害する物質としてはトロンビン、Ⅻa因子、Ⅹa、Ⅶa、カリクレイン、プラスミン、補体、トリプシンなどの蛋白分解酵素、ホスホリパーゼA2など多岐にわたります(抗凝固作用という点においてはトロンビンとⅫa、Ⅹa因子です)。

引用:〜至適透析を理解する〜 血液透析処方ロジック

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の抗凝固の作用

  • 抗トロンビン、抗Xa、抗Ⅻa、抗Ⅶa
  • 抗血小板
  • 抗カリクレイン

血液凝固は一連の酵素反応です。多くの凝固因子はいったん活性化されると酵素として、次の段階の凝固因子を活性化して反応は連鎖的に進みます。

活性化した凝固因子はa(activated)と表現します。例えば、プロトロンビンは血液凝固因子の一つですが、このプロトロンビン(基質)は、凝固因子のⅩa因子(酵素)によって活性化されてトロンビン(生成物)となります。このような酵素反応が順々に起こっていって血液は凝固します。
酵素とは触媒のことであり、その実体はタンパク質です。ちなみに触媒とは、それ自身は変化せず、化学反応のスピードを変化させる物質のことです。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の抗凝固の作用機序は、これら凝固系酵素の作用を抑制することでおこなわれています。

特に抗凝固作用という点において重要なのは「トロンビン」「Ⅻa因子」「Ⅹa因子」の作用の阻害です。

特に重要なナファモスタットメシル酸塩(フサン®の抗凝固の作用機序

  • トロンビン
  • Ⅻa因子
  • Ⅹa因子

また、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®はタンパク酵素阻害薬ですので、血液凝固因子の活性化を抑制するだけでなく、血小板の活性化の阻害、カリクレインの活性化の阻害、補体系に対しても活性化を阻害します。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は、ヘパリンや低分子ヘパリンのように、AT-Ⅲを介して抗凝固作用を示すのではなく、直接にトロンビンやXa因子の作用を抑制します。

ナファモスタットメシル酸塩の半減期

薬理作用の半減期が約5~8分と短いため、また分子量が約540Daと小さく透析で除去されるため、主として血液体外循環回路で作用し、体内にわずかに入ったナファモスタットメシル酸塩は速やかに失活する。ほぼ体外循環回路内のみに作用するため、理想的な抗凝固薬に近いといえる。

引用:山下芳久,第Ⅸ章 抗凝固薬

主に肝臓のカルボキシエステラーゼにより速やかに加水分解され、分子量は539.58であるため透析または濾過により効率よく除去され、体内に戻ったメシル酸ナファモスタットは血管外にも速やかに分布するため血中濃度は回路内濃度に比して著明に低下し、血中半減期は約8分と考えられており、回路内に限局して抗凝固作用が得られることが特徴である。

引用:メシル酸ナファモスタットの先発医薬品、後発医薬品両社で異なるアレルギー症状を呈した血液透析患者の1例

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の半減期は約5~8分です

また、分子量が約540Daと小さく、タンパク結合率も低いため、透析によって除去されます。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の溶解、ブドウ糖

引用:医薬品インタビューフォーム,注射用ナファモスタットメシル酸塩,富士製薬工業株式会社

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は、バイアル内に5%ブドウ糖注射液、または注射用水を加えて溶解します。その後にシリンジ内に移して5%ブドウ糖注射液で希釈します。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®を生理食塩水で溶解すると、白濁した結晶が析出するため、生理食塩水では溶解しません。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®保険適応疾患

保険適応疾患には、膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の膵炎、外傷性膵炎)、DIC、出血性病変または出血傾向のある患者さんの血液体外循環時の凝固防止があります。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®副作用・アナフィラキシーショック

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の副作用には、発熱、皮疹、一過性掻痒感、軽度の悪心、好中球減少、ショックなど多くのアナフィラキシーショック症状が報告されています。

アナフィラキシーでは、皮膚の紅斑、皮疹、血圧低下などのアレルギー症状が出現することがあります。

なお、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®によるアナフィラキシーショックは、過去に投与歴のあるケースが多いです。薬剤に感作された患者さんが、再投与時に過敏症状を呈するようになるものと考えられています。

注意点として、以前にナファモスタットメシル酸塩(フサン®でアナフィラキシーショックになったことがある人には、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は原則禁忌になりますので、きちんと確認しましょう。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は3,870例中6例(0.16%)で何らかのアナフィラキシーショックをきたしたと添付文書に書いています。

私の体感としても、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®を使用して重篤なアナフィラキシーショックはまれで、これといった使用禁忌もないので、それほど危険視する必要もないと思います。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®名前の由来

開発者の藤井節郎(FU)先生と、鳥居薬品(T)にちなんで、開発名FUT-175からフサンと命名されました。

透析のときにフサンを使うのはどんな場合?

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は、出血傾向(骨折、眼底出血、脳出血、消化管出血、性器出血など)が背景にある患者さん、もしくは出血リスクが高い手術をした後の周術期の血液透析のときに使います。

透析のときのナファモスタットメシル酸塩(フサン®の使い方

出血性病変又は出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止

通常、体外循環開始に先だち、ナファモスタットメシル酸塩として20mgを生理食塩液500mLに溶解した液で血液回路内の洗浄・充てんを行い、体外循環開始後は、ナファモスタットメシル酸塩として毎時20~50mgを5%ブドウ糖注射液に溶解し、抗凝固剤注入ラインより持続注入する。
なお、症状に応じ適宜増減する。

引用:ナファモスタットメシル酸塩注射用50mg「日医工」、添付文書

当院で、ナファモスタットメシル酸塩(フサン®を使用する場合、基本投与量は動脈側から30mg/hです。ただし、回路内に凝固がある場合は最大で50mg/hまで増量します。

ほとんどの患者さんで、ナファモスタットメシル酸塩の動脈側持続投与量は30mg/hで問題ありません。しかし、投与量には個人差があるので、ACT(活性化凝固時間)を測定し、ダイアライザから流出する(つまり静脈側回路)血液のACTが230~250秒になるように、持続投与量を調整してもかまいません。ただし、回路内のACTが225秒以上になると体内のACT延長が観察される場合があるので、特に出血リスクが高い患者さんに使用する場合には、回路内ACTを225秒未満にするのが安全です(参考:井上芳博:日本急性血液浄化会誌 2010:1:124-130)

添付文書には、上記のように生理食塩液の中にナファモスタットメシル酸塩を溶解して、血液回路内の洗浄・充てんを行うとありますが、実際におこなっているケースはほとんどありません。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®のワンショットしてはダメな理由

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®の使い方

  • 透析開始時から維持投与量として、30~50mg/hで持続投与

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は半減期が非常に短いため、ワンショットする必要がありません。というよりも、ワンショットをしても意味がありません。また、フサン®はショックを起こすことがあるのでワンショットはしません。

透析開始時から維持投与量として、30~50mg/hで持続投与します。

例えば、ヘパリンの場合は半減期が1時間のため、透析の開始時にワンショット投与して、早期に目標とする血中濃度に到達させます。

ナファモスタットメシル酸塩(フサン®は透析で除去される?

分子量が約540Daと小さく、タンパク結合率も低いため、透析によって除去されます。

ですので、動脈側回路からナファモスタットメシル酸塩塩(フサン®を投与した場合、ダイアライザで一部が透析によって除去され、静脈側回路では希釈されて効果が弱くなっています。静脈側エアートラップチャンバの凝血に注意しましょう。

PAN膜とPMMA膜では吸着されるので注意

ナファモスタットメシル酸塩塩(フサン®は、PAN膜やPMMA膜では吸着されてしまいます。ですので、これらの膜素材を用いたダイアライザのときにはナファモスタットメシル酸塩塩(フサン®は不適です。

 

 

ということで今回は以上です。

ナファモスタットメシル酸塩塩(フサン®の概要と使い方についてまとめてみました。透析室で働くスタッフの参考になれば幸いです。

 

 

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