こんにちは、臨床工学技士の秋元です。
血液透析で使うダイアライザには、補充液が充填されている「ウェットタイプ」、補充液が充填されていない「ドライタイプ」、そして透析膜内にのみ補充液が充填されている「モイストタイプ」の3タイプがあります。
本記事では、これら3タイプの違いを解説しています。
目次
ドライタイプのダイアライザ
ドライタイプのダイアライザには乾燥した中空糸が入っています。
ですので、透析膜の内外に補充液は含まれていません。
ドライタイプの特徴
ドライタイプのダイアライザーをプライミングするときには、中空糸内にエアブロックができないように注意が必要ですが、現在のダイアライザではドライタイプでもエアーが抜けないということはほとんどないかと思います。
ドライタイプのメリットとしては、補充液が充填されていないので凍結の恐れがない、軽量で運搬しやすいということが挙げられます。
ドライタイプのダイアライザにグリセリンが含まれてることがあるので注意
ドライタイプのダイアライザには、品質保持や膜の乾燥防止(保湿剤)のためグリセリンが使われてることがあります(1)。
一般的に、グリセリンは血中に入ると溶血の原因となるため注意が必要です。ただし、適切なプライミングによってしっかり洗い流せていれば、通常の使用範囲でグリセリンによる問題はないと考えられています。
参考:ニプロ社製FIX-210Sのグリセリン充填量に対する検討
ウェットタイプのダイアライザ
- 膜の品質を維持するために補充液が充填
- 補充液の成分:ピロ亜硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、PVPなど
ウェットタイプのダイアライザは、中空糸の内外ともに補充液が充填された状態になっています。
この理由としては、膜の材質を維持するためで、合成高分子膜の多くは乾くと生体適合性や除去性能などに影響が出てくるため、潤った状態を保つ必要があります。
また、膜の材質的にドライタイプでは機械強度が下がり製造できず、ウェットタイプでしか生産不可能な種類(PMMAなど)もあります。
ウェットタイプの特徴
ウェットタイプのメリットとして、プライミングのときのエアーの除去が容易であるといわれていますが、今ではプライミングそのものが自動化されていることもあり、ウェットタイプだろうとドライタイプだろうと問題なくエアーは抜けます。むしろドライタイプのほうがプライミングは容易です。
ウェットタイプのデメリットとして、補充液の分だけ重量がかさみ輸送にコストがかかること、寒冷地では補充液が凍結する恐れがあることです。
実際、2019年には北海道でコンテナに積まれていたウェットタイプのダイアライザの充填液が凍結し、容器破損にいたっています(1)。
また、しっかりとプライミングをして補充液の洗浄をおこなわないと、血液に触れて溶血や凝固を起こすおそれがあります。
モイストタイプのダイアライザ
モイストタイプのダイアライザには、透析膜の中にのみ補充液が入っています。
なぜ、モイストタイプがあるのか?
Q7) なぜ、中途半端にモイストタイプというものがあるのか?
A7) ご質問第6項に記述したPVPの架橋構造を形成するためです。 PVPの架橋構造は、γ線を照射した際にPVP分子構造内に生じるラジカルによって形成されるのですが、この時、反応の場として水環境が必要になります。 また、空気すなわち酸素が同時に存在しますと、大量に発生した酸素ラジカルがPVP架橋を通り越して分解反応を促進してしまいます。 当初ドライ製品を標榜しておりましたが、ドライ品では反応の場としての水分がなく、しかも分解反応を促進する酸素が豊富な環境下ですから、PVPは架橋構造を取らずに分解してしまいました。 そこでモイストタイプ中空糸では、反応の場として中空糸に水分を残し、周辺の酸素(空気)を窒素に置き換えて分解反応を防いで、架橋構造を作らせることに成功しました。
なぜ、中途半端にモイストタイプがあるのかというと、PVPの架橋構造を形成するためです。
このPVPの架橋構造を形成するためには、反応の場として中空糸に水分が必要であるため、モイストタイプというダイアライザが開発されました。
このPVPの架橋構造のメリットとしては、透析中のPVPの溶出を減らすことができます。
まとめ:ウェットタイプ、ドライタイプ、モイストタイプの違い
最後に本記事の内容をまとめます。
- 中空糸の内外に補充液が充填されていない
- プライミングのときのエアー抜きが難しい
(ただし、現在のダイアライザではドライタイプでもエアーが抜けないということはほとんどない) - 品質保持や膜の乾燥防止(保湿剤)のためグリセリンが使われてることがあり、しっかりと洗浄が必要
- PES膜では、PS膜と似た化学構造をもっている疎水性の膜なのでPVPが含まれている
- 軽量で運搬が容易
- 中空糸の内外に補充液がないので凍結する心配がない
- 中空糸の内外に補充液が充填されている
- 補充液が充填されている理由は、膜の材質を維持するため
(合成高分子膜の多くは乾くと生体適合性や除去性能などに影響が出てくるため、潤った状態を保つ必要があります。) - プライミングのときのエアー抜きが容易
- 補充液の分だけ重量がかさみ輸送にコストがかかる
- 寒冷地では補充液が凍結して中空糸が破損する恐れがある
- 透析膜内にのみ補充液が充填されている
- 中途半端にモイストタイプがある理由としては、PVPの架橋構造を形成するため
(このPVPの架橋構造を形成するためには、反応の場として中空糸に水分が必要であるため、モイストタイプが開発されました) - PVPの架橋構造によってPVPの溶出が少ない
というわけで今回は以上です。
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