クロール(Cl)の基準値【高Cl血症と低Cl血症の原因】

こんにちは、臨床工学技士の秋元麻耶です。

体液中には様々な陽イオンと陰イオンが存在しています。

血液中に含まれる陽イオンには、Na+、K+、Ca2+、Mg2+などがありますが、最も多い陽イオンはNa+です。血液中に含まれる陰イオンには、Cl、重炭酸イオン(HCO3、がリン酸、アルブミンなどがありますが、最も多いのはClです。

本記事では、血清クロール(Cl) の基準値と異常値の原因について解説します。

クロール(Cl)の基準値

  • クロール(Cl)の基準値;101~108 mmol/L

参考:日本臨床検査標準化協議会 基準範囲共用化委員会

クロール(Cl)の基準値は101~108mEq/Lです。

一般的にクロール(Cl)は、Na+と並行して増減し、電気的中性を保っています。あるいは、重炭酸イオン(HCO3を含むその他の陰イオンと逆向きに変動することで、細胞外液の総陰イオン濃度を一定に保っています。

ですので、クロール(Cl)の異常は、Na代謝異常に伴うものか、重炭酸イオン(HCO3などの陰イオンが変動する酸塩基平衡障害に伴うものかのいずれかです。

クロール(Cl)とは

血清中の電解質組成

画像引用:桑克彦,検査データを考える 高クロール血症,検査と技術 vol29 no.3 2001年3月

上の図1は血清中の電解質の組成をあらわしたものです。

クロール(Cl)は細胞外液中の中でもっとも多い陰イオンで、約60%を占めています。

血清中のCl濃度は、101~108mEq/Lに維持されていて、血清中にもっとも多いNa+と並行して増減し、血液の電気的中性を維持しています。また、重炭酸イオン(HCO3を含む陰イオンとは逆向きに変動することで総陰イオン濃度を一定に保っています。

体液中には様々な陽イオンと陰イオンが存在しています。血液中に含まれる陽イオンには、Na+、K+、Ca2+、Mg2+などがありますが、最も多い陽イオンはNa+です。血液中に含まれる陰イオンには、Cl、重炭酸イオン(HCO3、がリン酸、アルブミンなどがありますが、最も多いのはClです。

アニオンギャップについて

血清中の電解質組成

画像引用:桑克彦,検査データを考える 高クロール血症,検査と技術 vol29 no.3 2001年3月

  • アニオンギャップとは,通常の測定では検出されない陰イオンの量のこと
  • アニオンギャップの計算式:Na+-(Cl+HCO3
  • アニオンギャップの基準値:12±±2mEq/L
アニオンギャップの計算でKを含めているものもありますが、血清 K+は4mEq/L程度と少なく、アニオンギャップに影響をあまり与えないので含めないことのほうが多いです。

血清中の陽イオンの大部分はNa+です。そして、血清中の陰イオンの約60%はCl、次いで重炭酸イオン(HCO3が多いです。

そして、この陽イオンであるNa+濃度と、陰イオンのCl濃度と HCO3の総濃度の間にはある一定の差があります。この差のことをアニオンギャップといいます。アニオンギャップの基準範囲は12±2mEq/Lであり、この部分の陰イオンはP2O42-やSO42-などで占められています。

すなわちアニオンギャップとは,通常の測定では検出されない陰イオンの量を表しています。

血液はですので、陽イオンと陰イオンは同じだけ存在するはずです。通常、測定される血液中の陽イオンは Naと Kで、陰イオンは Clと重炭酸イオン(HCO3です。

血清クロール(Cl)の異常

血清クロール(Cl)の異常の原因

  1. Na代謝異常に伴うもの
    →Naの変化を考慮する必要があります。
  2. 重炭酸などの他の陰イオンが変動する酸・塩基平衡障害に伴うもの
    酸・塩基平衡障害を考慮する必要があります。

血清クロール(Cl)の異常の原因はNa代謝異常に伴うもの、あるいは重炭酸イオン(HCO3や他の陰イオンが変動する酸塩基平衡障害に伴うもののどちらかです。

クロール(Cl)は、細胞外液に存在する主な陰イオンですので、血清中の大部分を占めるNa+と並行して増減し、細胞外液中の電気的中性を維持する働きがあります。

また、クロール(Cl)は、細胞外液の他の陰イオン(重炭酸イオンや他の陰イオン)と逆向きに変動することで、細胞外液の総陰イオン濃度を一定に保つ働きがあります。

ようするに、血清中の『陽イオンの総量』と『陰イオンの総量』は等しいということです。ですので、血清Na+イオンが増えれば、それに伴い血清クロール(Cl)も増えます。さらに重炭酸イオン(HCO3などの他の陰イオンの影響も受けます。

NaとClの比

通常、血清Naと血清Clの比率は約140/100です。

血清Clの異常がある場合、血清Naと血清Clの比率が140/100に近ければ、血清Clの異常は、血清Naの異常と同じ原因である可能性が考えられます。

比率が140/100と離れていれば、酸塩基平衡の異常が考えられます。この場合、重炭酸やAGを計算して精査していきます。

Naとクロール(Cl)の関係

Naとクロール(Cl)は基本的に連動して変化しますので、クロール(Cl)単独で問題となることは少ないです。

ただし、クロール(Cl)は他の陰イオン量(主にHCO3)の影響を受けて変化します。

Naとクロール(Cl) との差が 30 以下では代謝性アシドーシスを,40 以上では代謝性アルカローシスを疑います。

血清Naと血清Clの差は90%以上が31~40の範囲内にありますので、この範囲を逸脱する場合は電解質異常が考えられます。

クロール(Cl)が基準値より高い【高Cl血症の原因】

高Cl血症
分類病態
高Na血症に伴うもの嘔吐、下痢、発汗、熱傷、ループ利尿薬、浸透圧利尿(ブドウ糖、尿素、マンニトール)、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、,重炭酸Na投与、食塩投与、高張液投与(高張生理食塩水など)など
重炭酸イオン(HCO3低下に伴うものAG正常の代謝性アシドーシス
(下痢、尿細管性アシドーシス、炭酸脱水素酵素阻害薬投与時)
Cl単独投与によるものNH4Cl、CaCl2、Cl塩を含むアミノ酸輸液製剤の過剰投与

参考:国際医療福祉大学三田病院 内科 石黒喜美子,佐藤敦久,血液生化学検査 f.ナトリウム,カリウム,クロール

高Na血症に伴う高Cl血症では、Naの喪失に比べ水の喪失が多い病態、例えば浸透圧利尿(マンニトール、ブドウ糖など)であったり、水単独の喪失が多い発汗・下痢・尿崩症、腎臓からのNa排泄が減少する病態(原発性アルドステロン症、クッシング症候群など)、Na/Clの過剰投与(Na/Clを多量に含む輸液、食塩の過剰摂取など)があります。

なお、Naが極端に上昇する場合、ほとんどがアシドーシス補正のために使用された重炭酸Naの過剰投与のことが多いです。

重炭酸イオン(HCO3低下に伴うもの高Cl血症では、AG正常の代謝性アシドーシス(下痢、尿細管性アシドーシス、炭酸脱水素酵素阻害薬投与時)があります。下痢や嘔吐が原因の脱水の場合、消化管からCl(クロール)が喪失するため、血清Naと血清Clが解離することもあります。

クロール(Cl)が基準値より低い【低Cl血症の原因】

低Cl血症
分類病態
低Na血症に伴うもの嘔吐、下痢、サードスペースへの喪失(膵炎、熱傷、イレウスなど)、利尿薬、浸透圧利尿(ブドウ糖、尿素、マンニトール)、Na喪失性腎症、尿細管性アシドーシス、SIAHD、甲状腺機能低下症、糖質コルチコイド欠乏、肝硬変、心不全、急性・慢性腎不全、ネフローゼ症候群
Cl、HCO3以外の血清陰イオン増加に伴うもの
(HCO3は低下)
AGが増加する代謝性アシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、慢性腎不全、尿毒症、サリチル酸・メタノール・エチレングリコール中毒)
HCO3増加に伴うもの代謝性アルカローシス

参考:国際医療福祉大学三田病院 内科 石黒喜美子,佐藤敦久,血液生化学検査 f.ナトリウム,カリウム,クロール

低Na血症にともなう低Cl血症では、腎臓からのNaの喪失がある病態(利尿薬投与、尿細管性アシドーシスなど)、腎外性のNa喪失がある病態(嘔吐、下痢、熱傷、膵炎など)、水単独の増加を示す病態(甲状腺機能低下症、糖質コルチコイドなど)、Naの増加に比べて水の増加が多い病態(ネフローゼ症候群、心不全、急性・慢性腎不全など)があります。

嘔吐を繰り返す症例では、HClの喪失によって血清Clが低値となることがあります。この症例では、低栄養のため血清Naも低値となりますが、血清Clの低値が著明となります。

血清陰イオン(HCO3は低下)増加にともなう低Cl血症では、AGが増加する代謝性アシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、慢性腎不全、尿毒症、サリチル酸・メタノール・エチレングリコール中毒)があります。

重炭酸イオン(HCO3増加にともなう低Cl血症では、代謝性アルカローシスがあります。

まとめ:クロール(Cl)の基準値と異常について

  • クロール(Cl)の基準値;101~108 mmol/L

参考:日本臨床検査標準化協議会 基準範囲共用化委員会

クロール(Cl)の基準値は101~108mEq/Lです。

血清クロール(Cl)の異常の原因

  1. Na代謝異常に伴うもの
    →Naの変化を考慮する必要があります。
  2. 重炭酸などの他の陰イオンが変動する酸・塩基平衡障害に伴うもの
    酸・塩基平衡障害を考慮する必要があります。

一般的にクロール(Cl)は、Na+と並行して増減し、電気的中性を保っています。あるいは、重炭酸イオン(HCO3を含むその他の陰イオンと逆向きに変動することで、細胞外液の総陰イオン濃度を一定に保っています。

ようするに、血清中の『陽イオンの総量』と『陰イオンの総量』は等しいということです。

ですので、クロール(Cl)の異常は、Na代謝異常に伴うものか、重炭酸イオン(HCO3などの陰イオンが変動する酸塩基平衡障害に伴うものかのいずれかです。

 

 

というわけで今回は以上です。血清クロール(Cl)について詳しく書いてある記事は少ないですので、少しでも参考になれば幸いです。

 

<注意事項> 本ブログに掲載されている情報の正確性については万全を期しておりますが、掲載された情報に基づく判断については利用者の責任のもとに行うこととし、本ブログの管理人は一切責任を負わないものとします。 本ブログは、予告なしに内容が変わる(変更・削除等)ことがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA