透析患者に対するエルカルチン(成分:レボカルニチン)の効果とは?

こんにちは、臨床工学技士の秋元です。

透析患者さんにエルカルチン®FF静注1000mgを透析後に静注したり、エルカルチン®FF錠を内服させている施設があると思います。
(ちなみに当院では透析後にエルカルチン®FF静注1000mgを静注しています。)

でもどうして透析患者にエルカルチンを投与するのだろう?と思っている人もいるはず!

そこで、本記事ではどうして透析患者にこれらの薬を投与するのか、その理由を説明したいと思います。

そもそもエルカルチンとは?(成分:レボカルニチン)

L-カルニチンの化学構造式

L-カルニチンの化学構造式

 L-カルニチンは,細胞内のミトコンドリアの内膜に存在するアミノ酸の一つで,長鎖脂肪酸などがミトコンドリア膜を通過するのに必要な成分である.脂肪酸の代謝に関与していることから,エネルギー産生に影響するものと考えられている.「脂肪を燃焼させる」「代謝を高める」と言われているが,ヒトでの有効性については信頼できる情報はない2)3)

引用:東泉裕子,特集 食品の安心をめぐる話題 ダイエット食品と健康,公衆衛生 vol.79 No.11 2015年11月

エルカルチンというのは大塚製薬が出している単なる商品名で、中身の成分は「レボカルニチン」です。

L-カルニチンは、医薬品では塩化レボカルニチン(塩化L-カルニチン)が、1990年に先天性L-カルニチン欠乏症向け医薬品「エルカルチン(大塚製薬)」として認可されています。日本では、透析患者さんへのカルニチン補充のため、カルニチンの光学異性体のL型のみを製剤化したレボカルニチンの静注と経口投与が可能です。

このカルニチンは、アミノ酸由来の物質で元々身体のほぼすべての細胞に存在しています。とくに大部分(約98%)は骨格筋と心筋に含まれています。

L-カルニチンは、リジンとメチオニンからなるアミノ酸の一種です。なお、L-カルニチンの合成にはリジンとメチオニン以外に、ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6、鉄が必要です。
  • 体内のカルニチンの98%は骨格筋に分布

この「L-カルニチン」は脂質代謝に深くかかわっていて、脂肪酸をミトコンドリア内に取り込み、エネルギーとするときに必要です。つまり、「L-カルニチン」がないと、脂肪酸からエネルギーをつくることができないということです。

カルニチンの役割①

カルニチンの役割は、脂肪酸からのエネルギー(ATP)の産生、活性酸素やフリーラジカルの除去、アンモニアなどの毒性物質の除去、赤血球の寿命維持、動脈硬化の抑制作用、抗炎症作用・免疫抵抗力の向上などがあります。

また、脳ではカルニチンの代謝物であるアセチルカルニチンが情報伝達物質として働いたり、腎臓や肝臓ではタンパク質合成を促進し、アルブミンを上昇させたりします。

カルニチンの役割②

とくにカルニチンの役割として重要なのは脂質代謝です。

カルニチンは、長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶことで、脂肪酸からエネルギー物質であるATPをつくるのを助けています。

少し詳細を話すと、アシルCoAとカルニチンが結合したアシル-カルニチンはミトコンドリアの内膜を通過することができます。そこでエネルギーとして利用することができるようになります。

透析患者に不足しやすいカルニチン

通常「カルニチン」は、食品(お肉の赤身に多く含まれていますが、野菜にはほとんど含まれていません)に含まれていますし、体内(腎臓、肝臓、脳)で合成することもできます。なので一般の人で不足することはあまりありません。

L-カルニチンは、リジンとメチオニンからなるアミノ酸の一種です。なお、L-カルニチンの合成にはリジンとメチオニン以外に、ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6、鉄が必要です。

しかし、透析患者さんの場合、食事制限※1による摂取不足や腎機能障害によるカルニチンの腎臓での生産低下、また透析による除去(1回の透析で血液中のカルニチンの70~80%が除去)※2のため、カルニチン不足に陥りやすいです。

※1 カルニチンを多く含む肉や乳製品は、血清リン値の上昇の要因となるため、摂取するにも制限する必要があります。

※2 カルニチンは、クレアチニンの分子量と同じくらいなので非常に抜けやすいです。

透析患者さんのカルニチン欠病によって、下肢攣りや筋肉痛、倦怠感、心機能低下や心肥大に関係していると考えられています。また、赤血球寿命を短縮させ、ESA抵抗性の原因の一つとされています。

カルニチンというと一般的にはダイエット系のサプリメントとして有名です。なお、一般の人で1日に必要なカルニチンの量は体格や運動量によって変わりますが、最低でも1日に1gは必要です。しかし、これを牛肉で摂ろうとすると約1.5kg食べる必要があります。カルニチンが最も豊富に含まれているラム肉でも、1gのカルニチンを摂るためには600~700g食べる必要があります。

カルニチンの薬について

製品名エルカルチン®FF静注1000mgシリンジ
有効成分・含量レボカルニチン1000mg
効能・効果カルニチン欠乏症

透析患者さんに対するカルニチン欠乏に対して、2011年3月にレボカルニチン製剤として「エルカルチン®錠」(一般名:レボカルニチン塩化物)、2012年12月には「エルカルチン®FF静注 1,000 mg」(一般名:レボカルニチン)(添付文書)が承認され,経口・静注両薬剤が使用可能となっています。

日本では、透析患者さんへのカルニチン補充のため、カルニチンの光学異性体のL型のみを製剤化したレボカルニチンの静注と経口投与が可能です。
2019年9月の現在は「エルカルチン®錠」ではなく、「エルカルチン®FF錠」(添付文書)に変更となっています。

透析患者に対するエルカルチンの効果

  • 効果①:貧血の改善(エリスロポエチン抵抗性の改善)
  • 効果②:筋肉症状の改善(下肢攣りの減少など)
  • 効果③:心機能の改善

透析患者に対するエルカルチンの効果として、主に上記の3つがメインとなります。

効果①:貧血の改善

腎性貧血の治療に対してはESA(赤血球造血刺激薬)がメインとなっていますが、ESAを投与しても貧血が改善されない患者さんもいます。

貧血が改善されない多くの原因は鉄欠乏によるものですが、その他にもビタミンC、ビタミンE、亜鉛、カルニチンの欠乏によるものなどがあります。

カルニチン欠乏はESA抵抗性の原因の一つです。カルニチン欠乏による貧血の主な原因は、赤血球寿命が短くなるからだといわれています。つまり、カルニチンを補充することで赤血球の寿命を延ばしてやることができます。

先ほどもいいましたように、透析患者さんはカルニチンが欠乏しやすいです。

ですので、このカルニチン欠乏症に対し、エルカルチン®(成分:レボカルニチン)を補充してやることで貧血の改善効果が期待できます。
(Hbが上昇し、場合によってはESAの減量ができます)

実際に、透析患者さんに対して透析後にエルカルチン®静注で投与した結果、ESAの使用量を40%も低下させたとの報告もあります。

効果②:筋肉症状の改善

エルカルチン®(成分:レボカルニチン)の2つめの効果として筋肉症状の改善効果があります。

具体的には以下の効果が期待できます。

  • 疲労感、倦怠感の改善
    (透析後の倦怠感含む)
  • 筋けいれんの改善
    (透析時の筋けいれん含む)

とくに下肢攣りに効果があります。

エルカルチン®が筋肉症状の改善にどのような仕組みで働いているのか正確なところはわかっていませんが、エルカルチン®の投与で筋肉組織中のカルニチン濃度が上がって、それにともない筋肉症状が改善しているのではないかといわれています。

効果③:心機能の改善

一部の研究では、透析患者に対するエルカルチンの投与によって、EF(左室駆出率)の改善、心肥大の抑制効果が示唆されています。

さらに、心胸比も小さくなって改善もするようです。

まとめ

透析患者さんに対しエルカルチンは、貧血の改善、下肢つり、透析後の倦怠感、心機能の改善などに効果があると多くの研究でいわれています。

エルカルチンは、もともと体内にあった成分を補充しているだけですので薬のような副作用も少なく、非常に使いやすい薬です。もともとサプリとしても有名です。

にもかかわらず、透析患者にとってありがたい効果が多いですので、ぜひとも使いたい薬です。

 

というわけで今回は以上です。

 

<注意事項> 本ブログに掲載されている情報の正確性については万全を期しておりますが、掲載された情報に基づく判断については利用者の責任のもとに行うこととし、本ブログの管理人は一切責任を負わないものとします。 本ブログは、予告なしに内容が変わる(変更・削除等)ことがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA